経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

世界経済と財政ツイスト

2011年09月12日 | 経済
 世界経済の運営について、欧米と日本でギャップがあるように感じられる。G7は、「財政健全化と景気回復の両立」という両義的な声明を出したが、昨日の社説に見られるように、日経は財政再建に注目し、FTは「米財務長官、各国に景気刺激策を呼びかけ」(日経HP)という捉え方をしている。

 G7では、いつものごとく、日本の財務相は財政再建を強調したようだが、日米会談で話がかみ合ったのやら。日本は主要なプレーヤーとは思われていないのか、それとも、復興費で財政支出が膨らんでいると誤解されているか。いずれにしても、内需拡大のプレッシャーは受けずに済んでいる。

 ひと頃は、ギリシャの債務問題に端を発したソブリン・リスクが注目されていたが、世界経済の減速が明らかになるに従い、日米欧が「協調して」緊縮財政になることは危ういという認識が広がってきたようだ。まあ、日本では相変わらず、「欧米に遅れず財政再建」が唱えられているが、いつもながらの一周遅れである。

 「危うい」と思うのは当然である。財政が引いたあと、その需要の穴を、一体、誰が埋めるのか。緊縮財政の中で、国内の設備投資や消費が伸びてくるとは思われない。中国を始めとする新興国でも成長は鈍っているのだから、輸出というわけにもいかない。欧州は、国債金利の上昇に慌てて財政再建路線を取ったものの、その先のことを考えてはいなかったのである。

 本コラムでは、トリシェECBを強く批判してきた。ECBは資源高に驚いて、金利引き上げまで行ったが、むしろ、欧州に必要なのは、緩やかなインフレであり、それがバブル崩壊の傷を徐々に癒すことになる。ドイツの景気が加熱され、輸入や海外旅行がブームになるくらいでないと、緊縮財政の南欧は救われないのだ。

 案の定、ギリシャは、財政再建が景気減速を呼び、景気減速が財政再建を難しくするジレンマに陥っている。本当にギリシャを再建したいのであれば、緊縮財政を求めると同時に、ギリシャからの輸入拡大や企業立地の政策を組み合わせなければならなかった。同じソブリン危機に陥ったアイルランドがマシな状況にあるのは、一定の輸出力を持っているからである。

 こういう現実は、世界最低金利の下で「財政再建なくして成長なし」という奇妙なことを叫ぶ日本人には見えないようである。むろん、財政にもリスクはあるのだが、絶対視するのは禁物で、相対的に見る必要がある。財政がリスクを取らなければ、今度は、企業や家計がリスクを取らなければならないのである。クルーグマンが、財政破綻を強調する者に、失業者の生活破綻は放置するのかと問うのは、こういうことなのだ。

 それでは、「財政健全化と景気回復の両立」は、どうすれば良いのだろう。9/9に日経夕刊の「十字路」で伊藤忠の中島精也さんが指摘しているような「財政ツイスト」が一つの答えになる。これは、当面は財政需要を確保するとともに、中長期的に税収が増えるような仕組みを用意しておくものである。

 例えば、復興に関する支出を拡大するとともに、法人税は保っておき、成長が回復したら、税収増が得られるようにする。円高対策で法人減税を求める声もあるが、円高で赤字になったら、減税されても意味がない。他には、株価が一定以上に達したら、証券優遇税制をやめるのを決めておくという手もある。反対に、景気とは関係なく、ある年度になったら、消費増税というのが最悪である。

 日本は、世間的なイメージとは異なり、震災後に復興の補正予算を組んだにも関わらず、二次補正までの段階では、2010年度補正後の歳出規模とほとんど変わらない。今の三次補正や2012年度予算の議論を見ると、来年度、歳出規模を維持できるかどうかは怪しいところだ。2%程度の成長があれば、法人税を中心に約2.5兆円の自然増収が見込めることを、財政当局は隠してもいるからね。

 世間は、財政の実態を知らず、まして、欧米は、本当の状況を分からない。経済運営について、欧米から余計なことを言われないで済むのは結構だが、自分たちが実態を知らないあまり、復興増税だの、法人減税だのといった、財政ツイストの観点からは、「逆噴射」のようなことをやってしまいそうなところが怖い。やってはいけない財政運営をやってしまうのが、日本の得意技なのだ。

(今日の日経)
 新聞休刊日

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