経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

多数派の失敗は認められることがない

2016年05月29日 | 経済
 消費増税は、与野党の圧倒的多数派が決めたことである。したがって、失敗が認められることはあり得ない。せいぜい、「こうになるとは予想できなかった」、「他に選択肢はなかっと」とされるくらいである。政治に限らず、世の中とは、そういうもので、「先の大戦は誤りだった」と評されるのは、むしろ、例外に属する。

………
 長期トレンドからの家計最終消費支出の乖離は、昨年4-6月期の時点で、リーマンショック時の最大値12兆円に並び、足元では15兆円まで広がっている。リーマン時は、1年半で元に近いレベルまで回復したが、今回は、いつ元に戻るか、見通しさえ立たない。円安による堅調な輸出と、高収益下の在庫増の持ち堪えがなければ、ゼロ成長状態では済まず、恐慌に陥っていただろう。

 もし、サミットにおいて、「こうした危険な緊縮財政をするなかれ」と訴えていれば、他にはマネのできない、身を挺した実験の結果として、貴重がられたかもしれない。そして、「自殺行為のような経済運営の繰り返しは、先延ばししたい」と説けば、憐憫を呼んだと思われる。むろん、満座の場で自己批判をする由もなく、取ってつけたような新興国や商品市況の深刻さを挙げ、政策変更の理由にするわけである。

 この無様さを見て、「それらはリーマンショック並みの根拠にならない」とする人たちも、消費増税の打撃を指摘したりせず、むしろ、予定通りの増税を勧めるがごときだ。こういう人たちは、折れ曲がった家計消費のグラフを見ても、消費増税の影響があるようには思えず、足元のゼロ成長状態は、本来の潜在成長力の表れとしか考えない。財政赤字の削減が経済に悪いはずがないという信念があるのだろう。

………
 さて、5/23に2015年の人口動態統計の年計が公表され、合計特殊出生率は+0.04の1.46と判明した。実に21年ぶりの高水準である。率直に、この成功を喜びたい。その背景には、若年雇用の改善と子育て支援の充実がある。いわば、若い男性の雇用が良くなれば、結婚しやすくなり、保育所の受入れが多くなれば、女性の安心感も増して出産に前向きになるという、常識的な見方だ。

 若年男性の就業率は、下図のとおり、2013年後半に水準を上げ、2014年はこれを保ち、同じく婚姻率も同様の傾向にあった。そうした中、出生率が、2014年に低下した反動も加わって、2015年に大きく向上したのは、自然な結果に思える。他方、保育所は、この5年ほど、利用数を5万人弱ずつ積み増してきており、待機児童も減少傾向だった。ただ、2015年については、利用数を例年以上に多くしたのに、希望者が加速して、待機児童が増えている。

 出生について、やや細かい指摘をしておくと、第1子出生時の母の年齢は、引き続き、上昇したものの、20代後半の合計特殊出生率の前年差がプラスに変わり、20代前半のマイナスも縮小している。また、逆に出生率は下がるにしても、10代の出生率がマイナスに転じたのは、女性にとって好ましいことだ。こうした出生率の動きは、若年層の経済環境の改善をうかがわせる。

(図)



………
 今日の日経は、消費増税を19年10月に延期すると報じている。問題は時期のみならず、一度に2%上げることの是非である。軽減税率を導入するにしても、4.4兆円もの増税だ。8%への消費増税は、前年の1.4%成長の勢いを受け、補正予算を組み、法人減税までしたのに、一気に3%の負担は重く、リーマンショックを超える打撃をもたらした。正常なら、上げるにしても増税幅を刻もうと考えるところだろう。

 それを、一度延ばして無理だったのに、もう一度延ばすだけでは、戦略の誤りを認めないがゆえの繰り返しにしかならない。これで良しとするのは、与野党を超えた多数派の見解である。せっかく、若年雇用を改善し、子育て支援に努力すれば、出生率を向上させられる経験をしたのに、これをも危険にさらしてしまう。何のための増税なのか、少なくとも、次世代のためという建前ではなかったか。


(今日の日経)
 消費増税19年10月に。2016年度設備投資の計画は8.3%増、15年度は実績と隔たり。米、早期利上げ射程に。

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4 コメント

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Unknown (Unknown)
2016-05-29 14:27:33
若者の就業率の向上は驚きですね。やはり金融緩和は雇用には有効なのでしょうか?
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Unknown (Unknown)
2016-05-29 15:19:37
民主党がー 衆参で過半数議席獲ってなんでもできる
自民党は悪くない。
アメリカもう金融危機乗り切って景気回復して緩和マネーでまたバブル化したら大変だからイエレンが利上げしてる状態なのになんで財政出動するの?
キャメロン首相有能、緊縮してるのに外国から投資呼び込んで経済成長実現してる。100億年俸だして
日本の首相やってもらいたい。
メルケル首相に安倍が財政出動頼んでたけど、短期的にはいいけど財政赤字が増えるだけだよって諭されてた。

あと5年くらいしたら子供生める女性の数そのものが激減するから、出生率がちょっとばかり増えても、出生数は激減する。どのみち日本終了
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Unknown (基礎固め)
2016-05-30 21:14:39
失礼します。

地味に論点整理を書かせていただくだけです。すみません…

リーマンショックは、なんの政策の問題か。
金融問題か財政問題か。供給も問題か需要問題か。どの主体の問題か。規制か緩和か。

リーマン級とは何か。
どの指標の問題か。どの程度のことか。

上のことに鑑み、どの政策をどの程度のどの主体にどのように行うか。

家計消費はだいぶ前から悪かったわけですから、違う指標をあげていると思いますがどうでしょう。企業利益や雇用者は増えてましたよね。
雇用者報酬は世の中の所謂社長さんたちも雇用者として入っているので、主体の分析には使いづらいですがどうなるでしょう。
指標の重視度を変えたということでしょうか。
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Unknown (Unknown)
2016-05-31 20:30:53
>キャメロン首相有能、緊縮してるのに外国から投資呼び込んで経済成長実現してる。

日本から一歩も出たこと無い無知に教えてやるけど、イギリスはもうロンドンとそれ以外は別の国ように分裂している。

地方は衰退。それなりの格式のある店は防犯用の鉄格子がはまってるケースが少なくない。残りの店の存在理由は貧乏人に必要な生活必需品の提供。
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