経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

進次郎は勤労者皆保険を1年でできるのか

2024年09月08日 | 経済
 A・V・バナジーは、「成長の決め手といったものは存在しない」と言うのであるが、それもどうかと思う。突き詰めれば、「輸出が成長を加速する理由が分からない」ということであり、主流の経済学だと、理解しがたいというだけのことである。現実には、金融緩和や産業政策は設備投資を高めないのに、輸出は設備投資を高めて成長に結びつく。不合理にも、需要は経済を動かしてしまうのだ。

 経営者は、金利や政策など気にせず、外需で売上が見込めるとなれば、供給を増やすべく設備投資をする。ごく常識的な行動だ。それで投資率が高まれば、成長は加速する。これが「東アジアの奇跡」のコアの部分である。もっとも、これがどの途上国でも使える戦略ではないのは、販路をつかむのも、直接投資を呼び込むのも、そう簡単ではないからである。それでも、日本からバングラデシュまで、成功は何度も再現されている。

 先進国にしても、ドイツは、ユーロ圏に入ってマルク高をなくし、輸出を伸ばして復活を果たしている。他方、成功者でもあり、失敗者でもあるのは日本で、小泉政権下とアベノミクスでは、せっかく輸出増で成長加速のチャンスを得ながら、緊縮で内需への波及を阻害して、不発に終わっている。高度成長期において、予め税収増を見込んだ積極財政で、循環を堰き止めなかったことが実は成功のカギだったのだと、今更ながら評価できるのである。

 キシノミクスでは、2022年までは、輸出の増加もあり、コロナ後の回復が見られたが、2023年になると、輸出が一服し、負担増で可処分所得を削って消費を停滞させたことで、成長が止まってしまった。足下では、賃上げの中、物価高対策と定額減税をして、ようやく、消費が増加し始めている。これで新政権が何もしないと、一時的な政策の剥落で急速な緊縮となり、またぞろ成長を阻んでしまう。これが隠れた課題になっている。

(図)


………
 新政権は、常識的には、規模を縮小しつつも、同じ政策を繰り返すだろうが、バラマキには、大義名分が大切であり、成長に資することもアピールしたい。その一つの方法は、低所得層を対象に社会保険料の負担に応じて給付をすることだ。給付と言っても、会社に保険料を取らないでもらうだけなので、減税に近い。実は、これができると、小泉進次郎議員が公約する勤労者皆保険が実現する運びとなる。

 小泉議員は1年で実現すると言うが、零細企業の負担増が急過ぎて、せいぜい、制度改正はしても、実施は何年も先という、期待を裏切るものにしかならないだろう。ただし、給付を組み合わせるとなれば、話は別だ。具体策は前にも書いたが、小泉議員には、制度設計の能力はないと思うので、「若い低所得層に社会保険料に応じた給付をせよ」と号令を発するだけで良い。あとは上手い方法を官僚に考えさせるのである。

 政治家として大事なのは、若い低所得層に支援をすれば、思い切り働けて、結婚もできるようになり、日本は成長できるとアピールし、強い支持を獲得することである。政権発足の直後に公約の具体策作りを指示して総選挙に臨み、勝利後、経済対策の補正予算に盛り込むという段取りだ。官僚は、当面は補正で財源を手当てしつつ、適用拡大で年金の給付水準が余分に上がるのに合わせ、先々は年金制度の枠内で賄う策を持ってくるだろう。

………
 憲政史上の最年少総理は伊藤博文で、次は「お飾り」の近衛文麿であり、戦後は安倍晋三だ。第一次安倍政権は、新規国債を4.5兆円圧縮などと財政の改革をアピールしたが、景気の悪化とともに、清新さで得た高い支持率は失われ、予想もしなかった短命政権に終わった。政権にとって景気は大事である。それには財政をしっかりコンロールすることだ。黙っていると急速な緊縮になる日本では、流れに任せているとホゾを噛むことになる。


(今日までの日経)
 米雇用、急減速は回避。小泉氏、めざす最年少首相。介護現場にこそ遠隔診療。コマツが北米値上げ緩和 金利高が影、販売増優先。

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