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時事散歩Ⅹ 第26回

2022年11月16日 | ブログ
「未来人材会議」からの警告(前編)

 「未来人材会議」とは、経済産業省が今後の人材政策などを検討するため、今年5月設置した有識者会議である。

 文藝春秋12月号にこの「未来人材会議」の委員をされている東京工業大学院教授柳川範之氏の衝撃のレポートが掲載されている。

 一般的なわれわれ日本人は「アベノミクス」という言葉は幾度も聞いており、そのフレーズが聞かれるようになって10年くらい経つが、それでわが国の経済がどうなったかは、よくは聞いていない。結果は最近の急速な円安に現れている。

 バブル崩壊後GDP(国内総生産)はほとんど増えず、韓国や中国に技術も人材もかすめ取られ、かつて世界一だった日本企業の国際競争力は、今や31位に低迷しているという。

 その原因として、レポートは第一に現在の日本人が企業での働き甲斐を著しく低下させていることがあると指摘している。かつて日本人にとって会社は、ある種の共同体であり、従業員はエンゲージメント(従業員が自社や仕事に誇りが持てること、またはその従業員の割合)が高いと思われてきた。欧米人のように「仕事は仕事、家庭は家庭」と割り切っている国は低いだろうと予想してきたのだが、現在では日本の5%に対して、アメリカ・カナダは34%である。ラテンアメリカや東アジアのモンゴル、中国、韓国にさえわが国より高いのである。

 エンゲージメントの高い企業では、従業員は自らの仕事を通じて会社に貢献している自覚があり、それが評価されている実感も強い。よって仕事に対するモチベーションが高くなる。

 組織のリーダーの最も重要な仕事のひとつは、部下への評価であり、リーダーは優れた人材を見極める慧眼が必要である。企業も政治の世界もこの国にリーダーとして優れた人材がどんどん減っているように感じる。従って日本企業のエンゲージメントは低迷しているのだ。

 エンゲージメントを低下させている要因のひとつに、日本では欧米や新興国企業と比べて、キャリア入社であっても課長や部長への昇進年齢が高く、その年収を部長で比べると米国やシンガポールの半分で、今やタイ国にさえ負けている。半導体技術者が高給で中国企業に引き抜かれるという話は聞くが、世界的に給料を対価とした人材獲得競争は活発なのである。

 ただ、外資系企業では年収が高い分、実力主義で解雇リスクは常にある。日本企業は給料が低い分雇用の安定性が高く、一種の雇用保険となっていると考えられるが、保険が仕事への活力や誇りには必ずしもつながらない。

 また、日本企業では、人材育成として伝統的にOJT(仕事をしながら学んでゆく)を基本としていたため、その能力は他社や他の業種では通用しにくいものである。日本は対GDP比で見るとOJT以外の人材投資額が、欧米諸国と比べて圧倒的に低い。1995年以降減少を続けているのだ。

 今後、企業の縮小や倒産が増えてきたときに、望ましい転職もできず、極端なことをいえば路頭に迷う人が溢れる状況となる恐れさえある。

 以下後編に続く。



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