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この国の風景Ⅳ第5回

2015年12月13日 | ブログ
多様性

 『私は日本の戦後社会を肯定するし、好きでもある。・・・あたりまえのことをいうようだが、戦後社会は敗戦によって成立した。それより前の明治憲法国家は、わずか4,50年で病み、60年に満たずしてほろんだ。・・・私など、その時代(の末期の異常な時代)から戦後社会にもどってきたとき、こんないい社会が自分の生きているうちにやってこようとは思わなかった。・・・しかしその社会も成就しはじめたいまとなれば、それがこんにちの私どもを生んだ唯一の母胎であるといわれれば、そうでもないと言いたくなる。いまの社会の特性を列挙すると、行政管理の精度は高いが平面的な統一性。また文化の均一性。さらにひとびとが共有する価値意識の単純化。・・・これが戦後社会が到達した光景というなら、日本はやがて衰弱するのではないか』。

 司馬先生の「この国のかたち」第1巻も14に進んでいる。ここでは今日のこの国の有り様を生んだ母胎かも知れない江戸時代の多様性を取り上げている。

 司馬先生が江戸時代の多様性を感じる第1は『江戸時代の商品経済の盛行が、主として商人や都市付近の農民たち(社会の実務層である農・工・商)のあいだで合理主義思想をつくりあげさせたと思っている』こと。第2に『思想的なことはさておき、幕府と諸般といった武士階級において、三百ちかくあった藩のそれぞれの個性や多様性についてである。・・・江戸期は日本内部での国際社会だったのではないかとさえ思えてくる。・・・文化の均一性がないわけではない。とはいえその均一性は宗教改革以前のヨーロッパ諸国の均一性程度のものだったのではあるまいか』。

 例えば、教育や学問の面で、そのありかたは藩によって違っていたようだ。『各藩は江戸中期ごろから競って藩校をもち、その充実をはかったが、将軍の家である徳川家の場合、それに相当する旗本学校を瓦解までついに持たずじまいだった。要するに江戸の旗本・御家人の子弟は、勝海舟の父小吉がそうだったようにぶらぶらと無学のまま生涯を送ることができた。一方佐賀藩では、江戸末期、人間の漬物でもつくるように家中の青少年を藩校という大桶に入れ、勉強漬けにした』というのである。

 結論として、『このように士族の教育制度という点からみても江戸期は微妙ながら多様だった。その多様さが――すこし抽象的な言い方になるが――明治の統一期の内部的な豊富さと活力を生んだといえる』。

 江戸期の多様性について、司馬先生が指摘されている第1と第2、すなわち身分制度と大名による国家の分割統治。このタテヨコの多様性が重要である。

 わが国は先進諸国の中で、大学への進学率は上位ではないようだ。2010年の統計でOECD*4)各国の平均が62%に対して、わが国は51%で世界22位。オーストラリア96%、米国74%。韓国で71%、わが国より低いのがイタリアの49%、ドイツ42%くらいである。職人の国ドイツの面目躍如であると思う。

 進学率が相対的に低いわが国への懸念として、将来科学技術等で世界に遅れをとるのではないかというのがある。杞憂であると思う。国民の半数が大学に行っておれば十分ではないか。これ以上勉強が好きでもない人を大学に押し込んでも、投資/効果は小さい。国家において大切な知識や技能を学び身につける機能は学校だけにあるわけではない。強いて云うなら、良く知りはしないが、進学率より大学の教育内容を改善すべきであろう。

 そもそも、企業などでも各分野の博士を集めてプロジェクトを組むという多様性だけでは、成功はおぼつかないのではないか。実は彼らは、専門分野は違っても同じような境遇で育ち受験戦争を勝ち抜いたというエリートが多い。子供のころから生きるための数多の泥臭い経験を積み、遊びの中にさえ工夫を凝らし創造してきた経歴の持ち主は少なかろう。実は多様性には幅だけでなく深さが必要である。まさに江戸時代は、才能があっても身分制度の壁によって世にでなかった英才が農・工・商の中に相当数居たであろう。その多様性こそ明治に生きたのではなかろうか。



*4) OECD(経済協力開発機構)はヨーロッパ諸国を中心に日・米を含め34 ヶ国の先進国が加盟する国際機関である。

本稿は、司馬遼太郎著「この国のかたち」第1巻、1990年文藝春秋刊を参考に編集し、『 』部分は直接の引用(編集あり)です。

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