放火
アニメ製作会社「京都アニメーション」で起こったガソリンでの放火事件は、5月の川崎市バス停無差別殺傷事件に続き、さらに悲惨な結果を生んだ。これらはまさにテロだという説もあるが、犯行に組織の陰があるとは見えないし、政治的・宗教的背景もないように感じる。ただ結果の甚大さからは同じようなもの。
川崎の事件は犯人が自殺し、今回の犯人も重体とのことで、犯行への詳細な動機など聴取されていない。
それにしても私などアニメに門外漢で、「君の名は」は劇場とテレビで、「未来のミライ」は最近テレビで観て、ストーリーは勿論、動画の細かい書き込みなどの素晴らしさには感心してはいたが、「京都アニメーション」がどのような会社で、どのような作品を生んできたかなど知らなかった。
世界から弔意が届く。中国からも。今の若い人は国境を越えていいものは良いと、しっかり評価しているのだろう。グローバル化、ネット社会の良い面でもある。もっともっと世界で手を取り合える未来が待っているのかも知れない。勿論、現代の世界の国家指導者たちがすべて死に絶えて何代か先の未来。
報道によれば、今回の放火犯は埼玉に住んでいた41歳。自分の小説か何か(の筋書き)を盗まれたような「パクられた」という発言を付近の住民も聞いている。単なる勘違いか、盗まれた相手先を間違えた恐れもある。会社側は容疑者との関係を否定している。事実は今のところ闇の中。
テレビドラマの刑事もので、検事の犯罪を握りつぶすため、無実の罪に落とされ拘置所で自殺して果てた恋人の復讐を成す男の物語があったけれど、最後に生き残った真犯人の検事は誰ものが許せないと思ったであろう。「必殺仕事人」のようなドラマが今も人気が高いのは、権力と結んで法の網を逃れたり、むごい犯罪者には鉄槌を加えたい気分は誰もが持つからである。
勿論どのような事情があっても、閉塞空間にガソリンを撒いて火をつけるのはご法度だ。仮に犯人の言うことに5分の利があったとしても、亡くなった多くは若者と聞く34名もの人たちはじめ負傷者にも、恨みを買う謂われは全くなかったであろう。被害者数の何倍もの家族や、親しい人たちがいた。その悲しみを想う。
ある評論家の方は、テレビの報道番組で繰り返しこれは「テロ」だと発言されていたけれど、このような事件が起こる社会的背景を考えると、「長いものに巻かれろ」「逆らうと干すぞ」「俺が最強最悪の横綱だ」「これが歴代最長最悪の内閣だ」「正義が勝つのではない、勝った者が正義なのだ」「日本には民主主義に良く似た制度があるだけ」などが大手を振い、何を言っても上司や会社、権力と結ぶ強い者には通じない社会で「閉塞感」が強く漂っている。その意味では川崎の事件も今回の放火事件も確かに「テロ」なのかも知れない。