中小企業診断士 泉台経営コンサルタント事務所 ブログ

経営のこと、政治のこと、社会のこと、趣味のこと、人生のこと

石油化学工業第12回

2013年03月07日 | Weblog
原料

 石油化学工業は、石油や天然ガスを出発原料としてさまざまな化学製品を製造する産業である。ヨーロッパやわが国では、主に石油を蒸留して得られるナフサ(粗製ガソリン)を原料とする*17)が、アメリカやカナダ、中東産油国では天然ガス*18)が主流である。また原油採取時に随伴するエタンも原料として使われる。最近ではシェールガスもその原料として注目されている。ただ、天然ガスでもエタンがほとんど含まれないわが国の天然ガスのような場合、出発原料として適さない。わが国周辺の海底に豊富に存在するというメタンハイドレートも、燃料としては有望でも石油化学工業の原料としての可能性は薄いように思われる。

 その他石油化学工業の原料としては、LPG(液化石油ガス:プロパンやブタンが主成分)やNGL(LPG+天然ガソリン:産出時液体となる天然ガス:C3,C4留分+C5~C8留分)、軽油(C10~C20留分)などがあり、これらはわが国では原料のごく一部でしかないが、米国や欧州では20%以上を占めている。

 世界の石油化学工業を展望した場合、その規模は通常、エチレンの生産能力やその需要量で示される。2010年の世界のエチレン生産能力は1億4,400万トン。需要は1億2,000万トン余り。わが国は770万トン程度(生産は700万トン)の生産能力を持つが、国内需要は490万トンで170万トン程度を輸出している。中国は2010年ですでに1,500万トン程度の生産能力を有し、2016年にはこれを2,300万トンに伸ばす見込みがあるらしい。シェールガスに湧く米国では、年産150万トン規模のエチレンプラント建設計画が目白押しで、2010年2,600万トンのエチレン生産能力を2016年にはほぼ3,000万トンまで伸ばすと予測されている。

 わが国やヨーロッパでのように「ナフサ」を主原料とする石油化学工業では、天然ガスを出発原料とする場合より高コストで、以前より国際的な競争力の弱さが指摘されてきた。ここに来て1バレル120ドルといわれるナフサからのエチレン生産コストは、米国シェールガスや中東の産地で作るコストの10倍から30倍といわれる。

 今年2月1日、住友化学が2015年9月までに主力の千葉工場(千葉県市原市)のエチレン生産設備(38万トン)を停止すると正式発表したが、臨海部のコンビナートに経済基盤を持つ地元に衝撃を与えた。当社はそれにより100億円の固定費削減を見込むとあるが、サウジアラビアでの石化合弁事業にウェイトを移すのが狙い。エチレン価格での国際競争力で、アジア、中東さらにアフリカ市場で戦う戦略である。一方三井化学も市原地区で丸善石油化学、住友化学と3社共同出資の京葉エチレン(69万トン)から撤退すると発表し、エチレン事業縮小の方針を示した。

 それでは、わが国の石油化学工業は、国内生産を今後も縮小し続けてゆかねばならないのであろうか。実は「ナフサ」を出発原料とすることにも強みはある。ナフサクラッキングによれば、エチレンは勿論プロピレン、ブタン、ブタジエンさらに芳香族成分まで有効成分のバラエティーが豊富である。例えば、エタンを出発原料とする場合、原料に対して8割程度のエチレンが得られるが、ベンゼン、トルエン、キシレンという所謂BTX分は合わせて僅か1%に過ぎない。プロピレンやブタジエンなどもそれぞれ3%未満である。ナフサが原料であれば、BTXで12%、C4留分で9%程度と3倍から10倍以上の収率がある。

 安価なシェールガスを原料としたエチレンプラントが増加している米国においては、ブタジエンやベンゼンの需要が逼迫し、価格が上昇しているという情報もある。ブタジエンやベンゼンは車のタイヤに使われる合成ゴム(例えばSBR)に必須の原料である。ナフサを出発原料とする石油化学工業の優位性がそこにある。シェールガスの実用化にも伴い、その規模の拡大が喧伝され、わが国の石油化学工業の衰退をイメージさせるが、石油化学工業はもう少し奥が深い産業である。


 
 
*17)エチレン原料としてナフサ由来は、わが国で95%、欧州では69%、米国では9%。
*18)天然ガスを原料としたエタン・クラッカー。天然ガスの主成分はメタン(70~98%)で、エタンの割合は北米産2~3%、アフリカ6~8%程度。わが国の天然ガスにはエタンはほとんどない。

本稿は、中東協力センターニュース2012・12/2013・1、和光大学経済経営学部教授/岩間剛一氏の「中東情報分析」、日本経済新聞などを参考にさせていただきました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする