ザ・ニュースレンズ1/17(水) 12:00配信
2024 年は多くの国で元首や議員を決める選挙が行われる。中でも最大規模となるのはインド大統領選挙と欧州議会議員選挙だ。メキシコでは初の女性大統領が誕生する可能性があり、ベルギーでは北部のフランデレン地域を完全な独立国にすると主張する極右政党が勢力を広げている。
2024年は世界的な選挙イヤーといえる。3月に行なわれるロシアの総選挙では、ウラジーミル・プーチン大統領の続投が2030年まで予想されるなど、既定路線と見られる選挙もあるが、他の多くの国では選挙によって政局が大きく変わる可能性がある。ニュースレンズでは2024年に注目すべき10の選挙を投票日順にまとめた。その中には世界最大と2番目に大きな選挙も含まれる。
1. バングラデシュ総選挙(1月7日)
バングラデシュでは与党アワミ連盟(AL)の党首であるシェイク・ハシナ・ワセド首相が15年にわたり首相を務めており、2024年の国政選挙では4期目となる再選を目指していた。
しかし、2023年11月、首都ダッカでハシナ首相の辞任と公正な選挙の実施を求めて10万人以上が街頭デモを行った。これに対し、与党は野党勢力に対して全面的な暴力弾圧に乗り出し、2万人以上が逮捕された。 バングラデシュの反政府勢力は2024年の国政選挙をボイコットするよう国民に呼び掛けていた。
8日、バングラデシュの選挙管理委員会は7日投開票された議会総選挙で与党アワミ連盟(AL)が絶対多数を獲得し、ハシナ首相の4期続投(通算5期目)という結果と発表した。
2. 台湾総統選(1月13日)
2024年台湾・総統選。12月20日から総統候補者によるテレビ政見発表会が行なわれていた。
台湾では総統・副総統選挙と立法委員選挙が同日に行なわれる。今年は伝統的な緑藍対決(与党・民主進歩党の緑と、野党・国民党の青)に加え、第三勢力である台湾民衆党も勢力を伸ばしている。専門家らは、新総統は台湾で「最も苦労する」総統になる可能性があると指摘した。その理由は過去20年間で最も議席が少数の政権になるおそれと(13日の選挙の結果によると、定数113のうち与党・民進党は51議席に第2党に。最大野党・国民党は52議席にとどまった。第3勢力の民衆党は8議席を獲得した。)、台湾統一を目標とする中国、そして米国大統領選挙がもたらす変化にも対峙しなければならないからだという。
3. パキスタン総選挙(2月8日)
パキスタンでは、元クリケットパキスタン代表選手だったイムラン・カーン首相が、2022年4月に内閣不信任案の賛成多数可決により退任した。2023年5月には汚職事件に関与した疑いで逮捕され、一度は釈放されたものの10月に再逮捕された。カーン氏は現在も無罪を主張して控訴しており、獄中でも幅広い支持を得ている。
こうした政治的混乱により、パキスタンでは当初2023年11月に予定されていた総選挙が再三延期され、2月に行なわれることになった。選挙では、汚職で失脚し、その後海外亡命していたナワズ・シャリフ元首相が復帰を目指すとするとみられている。
パキスタンは1000億ドル(約14兆7000億円)の対外債務を抱えており、そのうち30%が中国からの債務である。 パキスタンは2023年、国際通貨機関(IMF)から融資(スタンドバイ取極、SBA)を受け、デフォルト(債務不履行)の危機を一時的に回避したものの、現在も経済危機が続いている。
4. インドネシア総選挙(2月14日)
人口2億7,500万人、1万7,000以上の島々からなり、170万人の海外国民を擁するインドネシアで行なわれる総選挙は、一大プロジェクトである。
インドネシアのジョコ・ウィドド現大統領は憲法の再選規定により立候補できず、現国防大臣のプラボウォ・スビアント氏、前中部ジャワ州知事のガンジャル・プラノウォ氏、元ジャカルタ特別州知事のアニス・バスウェダン氏の3人が大統領選を争っている。
このうち支持率でトップに立つスビアント氏は、1990年代後半の政情不安時期に民主活動家らを誘拐したとして、人権侵害の容疑で20年間の米国入国禁止処分を受けた経歴がある。スビアント氏は2014年と2019年の2回、大統領選挙に立候補したが、いずれも現大統領ジョコ・ウィドド氏に敗れた。 ジョコ・ウィドド大統領は、退任後も政治的影響力を維持するために、ひそかにスビアント氏を支援しているともいわれている。
5. インド総選挙(4月~5月)
人口14億人、中国を抜き、世界一の人口大国となったインドでは、4月から5月の数週間に渡って総選挙が実施され、ナレンドラ・モディ首相とインド人民党(BJP)が3期目の政権獲得を目指している。 最新の世論調査によると、インド人民党を中軸とする政党連合である国民民主同盟(NDA)が295~335議席、野党は165~205議席を獲得すると予想されている。
モディ首相は国内世論調査で高い支持率を誇っているが、首相在任中にインドの民主主義は著しく侵食されたといわれている。報道の自由は大幅に制限され、当局は司法と軍隊を政治化しようとしている。 しかし、インドはグローバル貿易とインド太平洋の地政学において重要な役割を果たしており、米国が中国を牽制し、平衡を保つための重要なパートナーでもある。
6. リトアニア大統領選挙(5月12日)
アジアからバルト海に目を向けると、人口わずか280万人のリトアニア共和国でも2024年に大統領選挙と国会選挙が行われる。
大統領は5年任期で直接選挙によって選ばれる。現職のギタナス・ナウセダ大統領が再選を目指す予定で、世論調査によるとナウセダ氏がリードしている。
リトアニアは2021年、台湾の代表機関となる「駐リトアニア台湾代表処」を設置することを、欧州で初めて認めた国である。中国はこれに抗議して大使の召還を発表した。 しかし、リトアニアは2023年末までに中国との関係正常化を目指し、中国側もリトアニアに対する経済制裁を解除する予定だ 。
7. メキシコ大統領選挙(6月2日)
メキシコ大統領選挙では初めて与野党双方が女性候補を擁立した。与党の国家再生運動(MORENA)はクラウディア・シェインバウム前メキシコシティ市長を、野党連合は先住民族出身で実業家でもあるソチトル・ガルベス上院議員を選出した。
与党優勢により、現在は世論調査でシェインバウム氏が大きくリードしているが、大統領に就任後は、フェンタニル(ケシを由来とするオピオイド系の合成麻薬)の密輸、暴力と犯罪、移民といった難題に直面することになる。 これらの問題をめぐってメキシコと米国の関係は緊張しており、次期メキシコ大統領にとって大きな課題となる。
8. 欧州議会選挙(6月6日~9日)
欧州議会選挙は、その規模において、インドに次いで2番目となり、合計4億人以上が投票資格を有する。 EU加盟27カ国の国民が、2024年から2029年の任期で欧州議会議員720名を選出する(各加盟国で独自の議員リストに投票する)。
近年、オランダ、ドイツ、フランスなどで右翼勢力が台頭しており、欧州議会選挙が「右傾化」するのではないかと懸念されている。欧州懐疑主義の一派は、穏健なEU計画に異議を唱え、ウクライナへの援助、対ロシア制裁(ハンガリーとスロバキアはすでに拒否権を発動している)、移民の制限、気候変動対策の規制解除そして中国との関係などについて、欧州の立場や態度を変えようとする可能性がある。
9. ベルギー選挙(6月9日)
ベルギーでは2010年6月の総選挙後、政府成立までに541日間を要し、組閣までの期間最長記録を更新した。 その後の選挙でも連立政権による組閣までに長い期間を要しており、難航する原因は、この国の2つの主要言語による勢力の対立にある。
ベルギーは 1831 年にオランダから独立して建国した国だが、現在までフランス語とオランダ語の 2 言語が共存している。北部のフランデレン地域ではオランダ語、南部のワロン地域ではフランス語が主流であり、言語の相違や経済格差が大きい。
両勢力の対立関係は、以前より緩和されたものの、現在世論調査で首位を占めている右派ポピュリズムのフラームス・ベランフ党は、ベルギーはもともと「強制結婚」させられて建国したもので、一方が離婚を希望する場合は、大人同士の話し合いで解決するべきだと主張しており、フランデレン地域を独立させたいと考えている。
ベルギーは2024年「歴史に記される」年になるだろうか? オランダなど欧州の他の地域で起きている右派ポピュリズムの台頭は、かつて考えられなかった事態が現実のものとなり始めていることを意味している。
10. 米国大統領選挙(11月5日)
2024年の米国大統領選挙は、2020年と同様にジョー・バイデン現大統領とドナルド・トランプ前大統領の対決となる可能性が高い。
共和党の候補トランプ前大統領は、現在4件、91の罪状で起訴されて係争中だが、世論調査では、常に最も高い支持を得ている。一方、民主党の候補、バイデン大統領は現在の政策を維持することが予想され、バイデン現大統領が当選すれば米中関係は比較的良好に保たれると専門家は指摘する。トランプ前大統領が勝利した場合は、「台湾にとっても中国にとっても」不確実性が非常に高くなると見られている。
その他、南アフリカ共和国総選挙(日程未定)
南アフリカ共和国は2023年、独立系候補者の公職への立候補の許可や議席配分方式の改訂などを含む新たな選挙規則を採用した。これは南アフリカ同国最大の政党であるアフリカ民族会議(ANC)にとっては困難な条件となるだろう。同党は2021年の選挙で初めて支持率50%を下回った。公務員の汚職、高い失業率、経済成長の鈍化、インフラの老朽化などに対する国民の不満を反映している。
南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領は再選を目指している。最大野党である民主同盟(DA)は他の政党と結束して与党の野心を砕こうとしているが、その実現はまだ先のようだ。
学者の見解は?
台湾中山大学中国・アジア太平洋研究所の黎宝文准教授はニュースレンズの取材にし、「まずは米国大統領選挙に注目する必要がある。選挙の結果は今後数年間の世界の政策展開と密接に関係するだろう」と語った。
また、バングラデシュとパキスタンの選挙も注目に値するという。
黎准教授は「インド政府は近年、近隣諸国との関係について、ナショナリズムを強めており、パキスタンとの問題に加え、イスラム教を信仰するバングラデシュとの関係も緊張が高まっている。インドに隣接する両国の選挙結果はインドの政策にも影響を与え、さらにはインド太平洋地域におけるインドと中国の競争の行方に関わってくると考えられ、選挙の動向に注目すべきだろう」と指摘した。
TNL 編集部 訳:椙田雅美
https://news.yahoo.co.jp/articles/86325ca2c64fdc8448677fcc46da56f57f532f13