かぶれの世界(新)

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私的「財政赤字解消」考

2008-02-22 20:45:11 | 国際・政治

Q

MSSさんに日米の財政赤字解消についてご質問頂きましたが、正直なところ私には勝手な「大胆占い」程度のことを書くほどの知識もない畑違いの領域です。しかし、このままルース・エンドにしておくより、この機会に勉強して恥ずかしながら自分の考え、というより「思い」を整理してみる事にした。

日米の財政赤字は基本的に性格が違うと私は考えている。両国は民主主義国家で、建前では民意を反映した政策決定プロセスが存在するが、同じ民主主義プロセスといっても似て非なるものだ。我国が現在抱えている財政赤字は経済プロセスではなく、政治プロセスの質の問題であり、その観点から議論してみたい。

高度成長時代からバブルまではインフレの時代であり、パイの大きさが毎年大きくなり右肩上がりの歳入を前提にした効率よりも速度の時代だった。しかしバブル崩壊後デフレの時代に入り名目パイの大きさは減少、限られた資源の配分には国民を納得させるビジョンが必須となった。この当たり前の前提が時々忘れられ不毛の議論を繰り返しているように私は感じる。

マネジャブルな米国財政赤字

米国の現在の財政赤字は巨大な軍事力を支えていく為に生じた。9.11後、テロ対策費が急増した。米軍のイラク駐在が長引き、加えて緊急景気刺激策の実施により、予算教書は20084100億ドル、20094070億ドルの赤字と予想、2007年の1630億ドルから過去最大の財政赤字に迫っている。実際2008年は景気後退による税収減は避けられず、財政赤字は更に悪化する見込みだ。

しかし、財政規律か社会的公平性のどちらに重きを置くか政策を国民が選択し実現しうる政治システムが米国では機能しており、中期的には財政赤字は管理可能と理解している。今回の大統領選でも共和党のマケイン候補だけでなく、ヒラリー・オバマ両候補とも財政規律の遵守・強化は公約にある。

米国の財政が非効率だとすれば、その最大の要因は産軍複合体制であろう。が、そうだとしても選挙や委員会、民間監視機関、メディアなどの監視の眼が光っており、一定のチェックがかかっている。端的に言えば米国の財政は透明度が高く、しっかりとした監視の目と政権交代による民意のフィードバックがかかるシステムの中で運用され、管理可能な状態にあると私は考える。

欠陥システム

一方、日本の政策決定プロセスも政官に選挙とメディアが民意をフィードバックするシステムが存在するが、残念ながら米国ほど民主的で透明な仕組みではなく効果的でもない。要所に既得権益の隘路が組み込まれた複雑な経済システム、むしろ欠陥システムといったほうがぴったり来る。

少子高齢化の低成長時代に使える財源は限られている。国家を運営し財政赤字を解消していくためには、歳入に見合った歳出をする以外に道はない。どの領域にどれだけ財源を投入するか国民的合意の下で全歳出の優先順位(成長で歳入増を図る政策も含め)を決め、徹底的に無駄を省き行政効率を高めるしかない。何かを取れば、何かを捨てねばならない現実に直面している。 

然るに例えば今話題の道路財源を取り上げると、官僚の裁量で道路が作られそれが命綱になっている人達がいる。最も重要な議論は全歳出の中で個々の道路の優先順位を付けねばならないはずなのに、例えば宮崎県知事の主張のようにある地域に道路が必要かどうかだけの不毛な議論に矮小化されている。

官僚の発想の多くは所属する省の既得権を超えられず、部分最適による「合成の誤謬」が生じる。ある意味これは当然かもしれない。問題は政治が官僚の言いなりになり(もしくは利用して)歯止めをかけられず、チェックされないことをいいことに官僚は非常識な出費を繰り返し、隠蔽されたままで毎年財政赤字を積み上げるところに我国の病の深刻さが集約されている。全省庁が同じ状況にあることは容易に想像できる。これは正に欠陥システムとしかいえない。

後退した改革機運、耐え難い官僚の堕落、民意も?

実際、省をまたがる案件の国家的優先順位を決めるのが政治の役割だが、歴代の大臣は省益優先の官僚の言いなりだった。道路の例では自民とは違う取り組みを期待された公明党大臣も、あきれたことに官僚を代弁するだけの無残な結果になった。道路だけに留まらず、小泉首相時代の改革の機運は福田首相がすっかり後退させた。

国民の意思を汲んで税金の使い道の優先順位を決める政治プロセスと、政治決定に基づき行政の効率化を進める官僚がいなければ財政赤字解消は出来るとは思えない。もしそれが不十分なら軌道修正を後ろから後押しするのがジャーナリズムの役割だが、格差問題報道などに見られるポピュリズム的報道姿勢は表面的で、逆に財政赤字の拡大に大きく貢献している。

だが我々民意も今日のことしか考えず、この状況が続くのを許しているのも一方の事実だ。弱者は自動的に正義でもないし、清潔でもない。口では政治に正義を求めても、政治は民意の反映であることを忘れてはならない。小泉内閣時代に田中直毅氏が命名した政策決定プロセス「05年体制」は何処へ行ったのだろうか。

結局は風頼みか?

だが、前提が変ると状況は全く違ったものになる。例えば70年代石油ショックの後の狂乱物価といわれたインフレが来れば、政策も何も吹き飛ばし過去の重荷(借金)は一気に軽くなる。一方で年金生活者は一気に奈落の底に突き落とされるのだが。現実は、物価は上がるが景気は悪いままの所謂スタグフレーション(不況下のインフレ)になる可能性のほうがよっぽど高いが。

もう一つはもっと非現実的だが、日本が戦争に巻き込まれる可能性だ。冷戦終了後、「歴史は終」らなかった。グローバリゼーションがもたらした途上国の経済急成長と資源価格の高騰はかつて無いスピードで世界的な富の移転を起し、パワーバランスが変ろうとしている。この急激な変化が全て平和裏に行われるだろうか?新大統領下で米国が内向きになれば何かが起こるかも。

日本が自らの意思で変ったのは随分昔に遡る。明治維新といえども外圧を受け亡国の危機感を持った西国の下級武士たちが革命の原動力になった。その前といえば、戦国時代の信長まで遡る。信長は自らを省みて改革をした歴史上極めて稀な存在だった。

インフレも、戦争も、信長も何時来るか分からない。その間にも破産間際の自治体から国まで咎めを受けることなく公金横領まがいが続いている。それが民意なら国民や住民は財政赤字を負担するしかないのだが、多くの人々は他人事のように受け取っているように感じる。このままでは風が吹いてくるのを待つ民族的遺伝子とも言える「問題先送り」を続けることになるだろう。

私的・結論

赤字の最大の問題は、官僚の堕落と政治の貧困により政策決定プロセスが機能せず、行政効率が極端に悪化していることであると私は思う。昨今報じられる年金から薬害、道路財源などの問題に光が当てられると、先ず例外なく公務員の不作為の罪と公金横領まがいの行為が後を追って表面化した。

福田内閣が支持を失い野党が代替できない現状の閉塞感は、細川政権登場前夜と酷似しているという指摘に肯けるものがある。イデオロギーや政策を異にするが唯一政権をとる目的で集合した政党を一旦解党して、政策を共にする集団に再編する動きを私は期待したい。

再編後のあるべき姿は月並みだが「大きい政府」か「小さい政府」を党の基本理念におき、基本的に全ての会計をオープンにし、政権の交代(国民の意思)で局長級以上の主要官僚スタッフを交代させ支持を受けた選挙公約をキチンと実行させるものとすべきだ。

非国防裁量的支出において、日米両国に共通するのは社会保障費や医療費が予算全体に重くのしかかっており、優先順位に基づいた財政構造改革なくして財政赤字解消は達成できないことだ。民意が馬鹿か、官僚が性悪か、政治が無能か、とにかくやってみたらどうか。今より悪くはならないと思う。

(蛇足) 直近の悪い兆候?

米国政府は2007年に2071億ドルの国債を発行し、8割の1677億ドルが海外からだった。今月7日の30年物国債入札が不調に終ったと目立たなく報じられている。これは長期金利上昇の警告かも知れないと恐れるエコノミストの記事が気になる。米国の財政赤字はマネジャブルなんて言切ったが、海外からの信任を失ったらヤバイ。そして世界に波及する。■

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東芝HD DVD撤退を読み解く

2008-02-18 22:35:35 | デジタル・インターネット

このところ以前に書き込んだ予測が次々と外れて、いささか恥かしい思いをしている。その時点で論理的な帰結と思われる予想をした積りだったのだが、今から考えれば前提や論理が必ずしも正しくなかった。今回は東芝が突如HD DVDから撤退する観測が流れ、又もや予測が外れた。

昨年1月に「2規格対応はインパクトなし」と題してCES(家電見本市)に出品された「ブルーレイ」と「HD DVD」の2規格対応製品をインパクトの無い無意味な商品だと評価した。その心は、戦いの場は光ディスク方式の選択ではなく、光ディスク対ダウンロードであり、今後の光通信の普及を考えるとダウンロードが主流になるだろうというものだった。

http://blog.goo.ne.jp/ikedaathome/d/20070109 

当時、既にネット配信によって音楽CDの売り上げは急落し、DVDは全米最大のウォールマート等でダウンロードサービスが導入されていた。その後書籍のネット配信も商業化された。光媒体が主役から降りるのは時間の問題のように見えた。だが、高精細度映画の大容量データのネット配信に必須の光通信の世界的普及は、まだ時間がかかりそうなのも事実だった。

増田和夫氏はネット配信はマイクロソフトなどIT産業主導下にあり、彼らは光ディスク規格を分裂させて普及を遅らせ、時間稼ぎしてネット配信の導入に持っていこうというシナリオであったが、映画産業はIT産業支配を嫌い光ディスク規格の一本化を急いだと分析している。(日経BP2/18

かつてのVHSとベータのVTR方式の統一には13年かかった。今回たった2年で規格統一が進んだ理由はVTRの学習効果があったろうが、この分析が説くIT産業と映画産業の主導権争いが背景にあったというのは極めて説得力があり、私の予測では見落とされていた。

マイクロソフト・インテルがかつてパソコン業界でやってきた独占的体質を警戒され、デジタル家電との連携は全てうまく行かないだろうとかつて予測したことがあるが、今回もその法則が働いたのかもしれない。HD DVDがマイクロソフトと連携した時点で運命付けられたとも取れる。

まだ正式には認めていないものの、東芝の撤退の噂の素早さには驚いた。日本企業としては異例の速さであり、経営トップの意思決定に敬意を示したい。日本企業の場合、長く開発に関ってきた現場が抵抗し経営判断が遅れて大きな損失を出した例は多い。現場に限らず組織が官僚化し既得権益を守る硬直体質になってしまうからだ。この難しい局面で西田社長がいたことに東芝は感謝すべきだろう。■

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籔睨み2008大統領選(4)

2008-02-17 21:56:22 | 国際・政治

追い風に乗ったオバマ

スーパー・チューズデーのあと大方の予想通り情勢はオバマ候補に一気に傾き、連続して7州の予備選に勝利し獲得代議員数でも逆転してしまった。ヒラリーは事態の好転を図って選挙責任者を交代させるところまで追い込まれた。最早オバマの勢いは止まらないのだろうか、予備選の勝利は時間の問題のようにも見える。

そうなると私の天邪鬼的な性格がムクムクと沸いてきた。大統領選を勝ち抜くのはそんなに簡単ではない。大統領を選ぶプロセスは気が遠くなるほど長い、その間に情勢が変る何かが起こらないとも限らない。起こるとしたら何か、例によってオバマ候補のリスク「大胆占い」をしてみる。

共和党は既に仮想対立候補をヒラリーからオバマに代えて、彼のあらゆる経歴や発言を洗い出し始めたという。メディアも今まで既存体制に立ち向かうダビデに見立てていたが、オバマが地球上の最強軍の司令官としてベストの選択なのかという視点で見始めた。

オバマを待つ三つの挑戦

オバマは個々の政策は具体的に示さず「変革」を連呼してきたが、それで大統領選を乗り切れるほど甘くはないだろう。元々オバマとヒラリーの政策には大した差が無いといわれてきた。オバマの行く手には三つの落とし穴が待っている。それは具体的政策・イデオロギー・人種差別だ。

窮地に追い込まれたヒラリーは個々の政策の議論の場に引き出し国民に選択を委ねる作戦を取るものと予想される。オバマが「変革」の中身を具体的な政策で打ち出さないと、いつかは大統領としての適格性に疑いをもたれ、有権者に失望される恐れがある。

ヒラリーのリベラルな政治姿勢が保守層の嫌悪感を招き、有権者の保守化が進む米国では予備選で勝てても本選では勝てないだろうと言われて来た。しかし、代わってオバマが主役になり焦点が当てられると、実は彼が本質的にヒラリーよりも更にリベラルであると見られる可能性がある。リベラルのレッテルが貼られイメージが出来上がると、本選では厳しいハンディになる。

最後に余り楽しい言い草ではないが、一部とは言えかなりの米国人の心の奥底に残っている「人種バネ」がキャスティング・ボートとして水面下で働く可能性があると私は思う。それは直接的ではなく非常に巧妙な形で出て来て、多くの人は差別だとすら思わないだろう。今、彼が暗殺される可能性すら公然の話題になっている。何という国だと思うかもしれないが、それが一方の現実だ。

最後に誰が決めるのか

リスクは他にもある。予備選では候補者が決まらず民主党全国大会まで持ち越し、投票権を持っているスーパー・デレゲート(代議員)の投票で決まる可能性が大きい。昨日のNYタイムスによると800人弱のうち約300人がまだ態度を決めてないという。彼らは民主党のエスタブリッシュメントであり、未だ決めかねているというのが実情のようだ。

それ以外のファクターとして、思わぬスキャンダルが露見するとか、9.11のような安全保障に関る事件、イラク戦争の急展開、経済危機など風向きを変える事態が残り10ヶ月で起こらないともいえない。その間に候補者は丸裸にされて適格性が徹底的に検証される。一晩で現首相が選ばれたプロセスに比べると何とも羨ましい。

今年初めの「大胆占い」で私はヒラリーが勝つものの予備選が泥沼化し傷つくと見たが、これほどの激戦になるとは予想しなかった。今迄の所両候補は節度を持ってネガティブ・キャンペーンを抑えているが、今後の展開は綺麗ごとでは済まなくなるだろう。

共和党候補が着々と本選の準備を進める中で、民主党候補が決まらずコップの中で殴り合いをする事態は決して助けにならない。勿論、現状ではオバマが最有力の大統領候補であることに違いはないが、その座は見た目より危ういというのが私のガッツ・フィーリングだ。■

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偏見を恥じる、その後

2008-02-16 23:39:40 | ニュース

ちょっと辛いニュースを一つ。夕方のNHKニュースが佐渡の海岸に漂着する海洋投棄物が急増している、その多くは韓国製の海洋投棄物らしいと報じているのを見て、最初は事実かどうか疑った。しかし、ネットを調べてニュースを裏づけるような記事を見つけた。どうも本当らしい。

ニュースを疑ったのは、200511月に「偏見を恥じる」と題して日本海海岸に漂着するゴミについて書いた私の理解と違っていたからだ。ゴミの多くは中国製や韓国製と聞いて、彼らの民度はその程度だと直感的に思った。

http://ikeda-farm.mo-blog.jp/kabure/2005/11/post_25b3.html#comments 

ところが、一方で韓国側の海岸には日本製のゴミが漂着していると分かり、自分の偏見を恥じたというわけだ。しかも韓国の若者が対馬に来てボランティアで清掃活動をしていることも分かった。だが、それほど恥じることは無かったかもしれない。

不審に思って調べた情報によれば、ハングル文字の表記がある危険な化学薬品や廃油など産業廃棄物と家庭からの生ゴミなどの廃棄が急増しているようで、3年前とは状況が若干変化したようだ。今も漂着ゴミの増加が続いており現在進行形の問題だという。日本海に面する自治体にとって海岸線の清掃の為の財政負担がかなり大きいようだ。

ところで、韓国の新大統領はソウル市長時代に環境問題に高い優先順位をつけ、今ほど豊かでなかった時代にも関らず巨額の投資をして、ソウルを流れるドブ川を再生させるという奇跡を実現した人だ。

数年前にタイムの特集記事でこのニュースを読んで、韓国の環境意識の高さは日本を追い越し遥か先を行っているのではないかと、内心いささか残念に思ったものだ。環境は先の大統領選の重要なアジェンダだったのだろうか。

何時もの癖で何故今頃になって韓国の海洋投棄が急増しているのかと思わずにはいられない。知らなかったが3年前に日本から正式にクレームしたこともあるらしい。ソウルは究極の例外だったのだろうか。それともノムヒョン政権の間に環境問題を逆行させたのだろうか。

朝鮮日報は社説でいささか自虐的にこの状況を嘆いている。今韓国の海岸はどうなっているのだろうか。対馬まで来てくれて韓国製のゴミを謝罪し、清掃していた韓国の若者たちは今どうしているのだろうか。■

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パソコン商戦に変化?

2008-02-14 11:06:06 | 社会・経済

変化は1月の新製品から

今年1月第2週からパソコン商戦に起こった小さな変化が気になっていた。かつてはデジタル家電の代表製品であり、平均価格が10万円から20万円と高価で、使用する部品は多岐にわたり裾野産業を牽引する役割を果たしてきた。

しかし、ITバブル崩壊後世界市場は堅調に成長してきたが、一方日本市場は販売台数の伸びが止まり、販売単価が年々平均5%低下するというジリ貧状態が続いてきた。日本のパソコンメーカーは海外市場から撤退、事業縮小が続いてきた。

パソコンが途上国に普及するにつれ低価格化が進む一方で、従来から高付加価値路線をとってきた日本メーカーの商品が世界市場で受け入れられる可能性はなかった。加えて100ドルパソコンの市場投入が予想され、今年は生き残りをかけた陰惨な商戦になるだろうと予想していた。

平均単価が10-20%上昇

しかし、GfK Japan1によると1月に新製品が販売されると売れ行きに変化が起こった。例えば1月第3週の家電量販店の販売状況は、前年同週比で台数16.5%増、金額ベースで30.6%増という驚くべきものだった。デスクトップの売れ行きは増えてないものの、より単価増が進んでいる。

言い換えると、1年前と比べ大雑把に言って14%高い商品が台数でも16%増えたということだ。この傾向は1週限りの現象ではなさそうだ。手元に最新のデータがないが少なくとも3週続けて同じ傾向が起こった。

毎年価格が下がっていた自動車が、ある時から値上がりし始めたときの新鮮な驚きを今でも覚えている。パソコンにもそういう時代が来たのだろうか。いや、そんなことはありえない、世界市場では今でも値下がりが続いているはずだ。

値上がりの要因

一体何が起こったのか、最寄のパソコン量販店を覗いて見た。直ぐに目に付いたのは殆どの新製品はVistaに対応してメモリー(主記憶)2GB、ハードディスク(HDD)容量が120-160GBを標準装備していた。しかし、こんなものでそうそう単価が上がるはずがない。私の目にはCPUや液晶ディスプレイも商品の目玉になるようなものではなかった。

多分これだという新たな機能は、地上デジタル放送が普及し始め、この6月から録画回数が10回まで規制緩和されるのを見込んで、その対応を予め組み込んだことではないだろうか。デスクトップの単価が20%も上昇していることも、地デジ対応の多さを考えれば頷ける。

もう一つの単価増の要因として、生産の殆どを中国に移行した今、労賃や人民元の上昇などの要因も考えられる。元々ほんの数%のマージンしかないパソコン・ビジネスでは、原価アップを売価に転嫁できないと直ちに赤字に転落する脆弱な事業構造になっている。

一時的か、トレンドか 

かといって、顧客をひきつける目玉なくして売価を上げるのも自殺行為である。そこの店員が最初にあげた春商品の特徴は「地デジ対応」であった。もしかしたら、「地デジ」は低迷を続けてきた日本のパソコン・ビジネスが一服できる機会を与えてくれたのかもしれない。

だが、質問を値段が高いというクレームと捉え、店員は来週値下げするからもう一度来いと応えた。泥沼の値下げ競争を繰り返す可能性もある。日本メーカーの高機能・高付加価値戦略が価格競争を失い、世界市場から撤退した段階から次の段階に移る兆候なのか、一時的・局所的な現象なのか興味のあるところである。■

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