海外メディアは右傾化と見ている
竹島や尖閣列島を巡る近隣諸国との領土摩擦を見る海外の目は概してクールだと感じる。争っても損するのは両国、頭を冷やせと冷静な対応を求める声が多いようだ。だが、妥協のない対応が日本の右傾化と捉え懸念する欧米メディアの論評が目に付く。我々から見ると中国の官製デモと暴動は民主主義国の価値観に対する重大な挑戦のように見えるのだが、そういう声は聞かない。
これに対し、藤崎駐米大使は「日本の右傾化報道」は誇張されたもの、日本の領有権は譲れないが、緊張を高める積りはない、穏便な対応を続ける、右傾化を否定する論文をニュースサイトに寄稿した。米メディアの偏向報道と広告掲載には逐次反論していく方針と伝えられた。
一連の右傾化議論について私は、「何故欧米メディアはクールな反応をするのか」と訝った。だが、その疑問に答える前に「果たして我国は本当に右傾化しているのだろうか」、更には事の真偽は横において「何故右傾化していると見えるのだろうか」、摩擦の発端に遡って考えてみた。
きっかけは石原都知事、共演者はメディア
先に投稿した「不幸なボタンの掛け違え」で指摘したように、石原都知事が尖閣列島を東京都が購入すると表明してから日中対決の火がついた。これをきっかけに中国との関係悪化を恐れた政府が国有化を決意し、皮肉にもそれが中国の強烈な反発を招き今日に至っている。
私は「ボタンの掛け違え」はメディアが大きな役割を果たしたと考える。メディアの報道姿勢は当初から石原都知事の購入計画がもたらすリスクを予想して諌めることなく、寧ろ国が対応すべきところを都がやったと煽った。ニュース番組では強硬論者の威勢の良い発言ばかりが流れて世論を誘導し、野田内閣は「国有化と妥協を望まない外交姿勢」に追い詰められたと見られている。
主な海外メディアの見方は、領土問題に関してどの日本メディアも一致していた。有名な右翼政治家(石原氏)の中国に対する挑戦を持ち上げて、疑問をさしはさむ意見は声高なタカ派の評論家に圧殺させ、日本政府に一切の妥協をしない偏狭な外交姿勢をとらせたと報じている。更に、党首選では憲法改正と集団的自衛権を目指すタカ派政治家を選ぶ手助けをした。まあ、大体こんな風に見ている。私もニュース報道や政治バラエティ番組を見て概ねそんな風に感じている。
国民は本当に右傾化しているか
今世紀に入って日本のポピュリズム政治の度合いが強まっていると感じる。風が吹く度に政治は揺れ動き、ネジレ国会で構造的に政治が機能しなくなりポピュリズムが深刻化した。それを決められない政治とか、誰を選んでも同じとか揶揄するが、選んだ自分達選挙民の責任を忘れている。最近の政治背景(維新の会)のもとで、海外メディアはナショナリズムの高まりが一線を越える時期が近いと見ているかもしれない。
そういう視点で見ると、今回の領土紛争はマスコミの煽られた世論の風を政治が反応し読み違いが起こった結果である。だが、風向きは時間がたてば変わる。今のところ、国民は冷静だが中国嫌いは確実に増えている。従来の何事に対しても大人しく消極的でリーダーシップを取らない外交姿勢ではやっていけないと、国民が確信を持つようになれば事態は劇的に変わると思う。
政府の読み違いはあるにしても中国のやり方は余りにも理不尽だ。官製の反日デモは瞬く間に中国全土に広がり暴動に転化、日系の工場や百貨店などが甚大な被害を受けた。我々から見ればどう考えても中国のやり方は滅茶苦茶なルール違反であり、日本はその被害者だ。多くの国民は妥協して事態を沈静化を待つより、政府は毅然として対応すべきと反応した。
海外にも事情がある
日本右傾化報道で私が理解困難なのは、中国指導者達が官民一体となって暴力的な反日運動を進めるという、先進国では考えもつかない暴挙に出た事を非難する海外メディアの声が予想外に少ないことだ。欧米の建国の基本であるはずの民主主義的プロセスに反する行為といえども、相手が中国だと手加減する二重基準があると私は疑う。中国の経済力を恐れている。
彼等の国も生きるか死ぬかの深刻な財政危機にあり、欧州は中国の支援を期待している。ノーベル平和賞を巡りノルウェイが報復されたのは記憶に新しい。又、NYタイムズに掲載された中国政府の一方的な主張(日本にとって見れば)は、反論があったら日本も金を払って広告を出せという風に聞える。地獄の沙汰も金次第、金さえ出せば日本の主張も載せてやるというものだ。
日本にも事情がある
日本の右傾化の裏返して見ると、中国は失った大きなものがある。それは「信頼」だ。以前投稿したように、元々中国はそんな国なのだが今回の暴動の映像は衝撃的だ。世界のリーダーとしての品格に欠ける行為だった。だが、そんな中国のカントリーリスクは覚悟の上で企業は進出したはず、特に2005年のアジアカップの暴動後にカントリーリスクは承知の上で進出した企業は多い。
今後も更に中国ビジネスを進化させると宣言した大企業が少なからずある。中国はそれでもビジネスを展開する魅力があるということだ。何をされてもぺこぺこ頭を下げて商売をやらせてもらえれば、縮小していく日本市場に未来はない、中国の方がお金になるということだ。尖閣も右傾化も構っておられない、現地に貢献する企業になる、そういう人達も多い。戦国時代の世から日本は商人国家でもある。■