かぶれの世界(新)

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原理主義から現実主義へ

2008-12-12 18:06:18 | 国際・政治

昼食の後、10月並の暖かい気温に思いついて裏山の墓掃除をして、気持ちよい汗を拭いパソコンを立ち上げると、破産瀬戸際にある米国自動車大手3社(ビッグスリー)の救済策が、上院で否決され廃案になったというニュースが飛び込んできた。予想外の進行にショックを受けた。

米議会と政府の間で難航しているのは、「市場原理主義」と「現実主義」の綱引きのように私には感じていた。民主党の救済法案は何とか下院を通過したものの、上院の共和党議員の反発は大きく予断を許さない状況で、昨日のNY証券市場は大きく値を下げたと今朝のニュースは伝えていたが、まさかそんな馬鹿なことはするまいと高をくくっていた。

共和党は抜本的なリストラを含む修正案を提案し妥協を求めたが、今度は民主党の支持母体の労組が反対し万事休すとなったという。酷い事になったものだ。このニュースが地球を一周して各国市場を打ちのめし、第2のリーマンショックになる可能性が高い。一層の円高は日本の輸出産業にも更なる打撃を与え、経済・雇用環境・年金基金運用などあらゆる領域に悪影響を与えるものと予想される。反対した共和党議員は一体何を考えていたのだろうか。

当初から民主党原案が反資本主義的と見られ、その行方と論拠を注目していた。立法化を急ぎたい民主党は救済計画の内容を見直し、政府が自動車業界の大株主になって、自らリストラの指針を示し実行を厳しく監視するものだった。銀行に続き、自動車業界を実質国有化するものだった。

というのも米国は市場原理主義を宗教のごとく信奉してきた国であり、救済計画はその真逆をやることになる、銀行に加え自動車業界も国有化する社会主義国家になるのかという反発の大きさは今更ながら驚きだ。欧州はより現実的で、殆ど議論も無く当然のごとく救済策を決めたのと対照的だ。

穿った見方かもしれないが、多分それは信仰の強さの差と思う。米国民の宗教心の篤さは、時に私のような無宗教者が驚くようなことを平気でやる。世界一の大富豪が開発途上国の国家予算を超える個人資産を慈善事業に寄付するといい、一方で年収2万ドル(200万円弱)程度の社員がその1割の額面の小切手を切ってチャリティに寄付するのを目撃した事がある。

上院の反対は、こういうメインストリートの人達が自動車業界の救済を反対している状況が背景にあるのではないかと私は推測する。GMやクライスラーが破綻すれば米国経済は大打撃を受け、世界経済への影響は計り知れないことを、上院は知らないはずが無いのに反対した。

「全ては市場が決める、政府は手を出すべきではない」という、強い信仰がさせたとしか説明が付かない。だが、それは身勝手というものだ。百歩譲って破綻させるにしても2,3年かけて安楽死させるべきだ。世界経済に迷惑を掛けないやり方はどうあるべきか悩んだ気配を感じない。やり方は全く違うが、米国が世界に大恐慌をもたらした判断ミスを繰り返すことなど考えなかったのか。

だが、多分これが市場に任せる政策決定の最後になるだろう。

1月に大統領となるオバマ氏は当初リベラルと見做されていたが、新味が無いと批評されるほどにクリントン大統領時代のスタッフを重用し、極めて現実的な政策をとるものと予想されている。オバマ新大統領は主義主張に拘らず時々の最善を追及し、「超現実主義者」と呼ばれるかもしれないと思う。

議会での救済計画の立法化は失敗したが、これで終わりというわけではないらしい。報道によれば、次の段階として米国政府が救済に動く選択肢が残っているという。具体的にはポールソン財務長官が与えられた権限を行使することになるらしい。

しかし、私風の天邪鬼な言い方で意訳すると、ブッシュ大統領の選択肢は、ビッグスリーに引導を渡す歴史的な役割を果たすか、最低限のつなぎ資金を貸し付け実質的な決定をオバマ新大統領の手に委ねるか、彼の判断基準はその程度のレベルだろう。この時点では皮肉というよりも、それが現実的で適切な政治判断かもしれない。

いずれにしてもその判断基準は、多少誇張気味かもしれないが、あるべき姿を妥協無く追求する原理主義の時代から、どの判断が最も有利か或いはダメージが少ないか理屈を超えた現実的な政治判断の時代への転換になるのではないかと私は予測する。言い換えればよりプロ・アメリカン(米国第一主義)の時代になるのではないだろうか。■

コメント (1)
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