追認された庶民の実感
日本の景気拡大は2002年以来4年10ヶ月続いているにもかかわらず「好景気を実感できない」という声が強い。私もそれが庶民の実感であることに間違いないと思う。しかしそれがあたかも非難すべきことのように扱うもので無いと思う。むしろ何故そうなのか解きほぐして理解すべきことであると考える。
遡れば今回の景気拡大は企業が構造改革して3つの過剰(設備・雇用・負債)を克服し、グローバリゼーションに対応できる体質に転換したときから始まった。つまり輸出増とそれに対応した設備投資が景気拡大を牽引し企業部門の収益が大幅に改善した。次の段階として家計部門への景気の波及が期待されたが11月の月例経済報告では、「個人消費が後退している」ことを認める内容にトーンダウンした。
グローバル労働分配率裁定
つまり雇用は改善しつつあるが給料は上がっていないのである。アナリストはこのような状況を「労働分配率裁定がグローバルレベルで起こっている、平たく言うと同じ労働に対して世界中で同じ報酬になるよう調整されている」と見ていると先月紹介した。だからそう簡単に給料は上がらないと。
しかし、もしそうなら今回の好景気は国内消費が弱くいつまでたっても輸出頼みのひ弱な景気拡大ということになりはしないかという疑問が湧く。残念ながら私はその通りだと思う。だからこそ企業は用心してベースアップせず、好業績はボーナスで報いようとしているのである。
トヨタの利益の7割、アジアは殆ど全て海外から
それをもう少し数字で見て確認する。日本経済新聞によるとトヨタやコマツの営業利益の75%は海外で上げたものなのだ。日本の主要企業の稼ぎ頭は海外であり、世界の景気が企業収益を左右しているのである。実は中国を含むアジアの輸出依存度はこんなものではない、物凄く高い。
アジアの輸出対GDP比率はこの20年間に20%から40%になり、国内消費の対GDP比率は30年間で70%から50%にまで低下した。中国にいたっては、国内消費は40%しかない。しかも輸出の60%は日米台などの外国資本のサプライチェーンに組み込まれ、商品は米国に輸出される構図にある。全ては米国の景気次第の構造なのである。
鍵は米国消費
従って米国の景気拡大が軟化する兆しが見られる昨今、企業はベースアップしたくとも用心深くならざるを得ないのである。米国の景気は金利上昇後、バブルといわれた住宅市場が暴落しGDPの7割を占める消費に悪影響が出ることが心配された。
ブラック・フライディといわれる感謝祭後の金曜日の売り上げが、米国の個人消費イコール景気全体を決定付ける兆しと見て世界中が毎年注目する理由である。その影響力はきわめて直接的だ。グローバリゼーションによってアジアと欧米の消費地が有機的に繋がった現在、米国のレジで売り上げ計上されると時間をおかず中国工場に伝えられ生産を決める。
今年の米国年末商戦
出足は悪くなさそうである。世界最大の小売業ウォールマートに先月24‐26日に何と米国の7割の人が買い物に行ったという。しかしその後の報道によると売り上げが伸びていないらしい。一方で高級品がバンバン売れているらしい。大画面の平面ディスプレイが次々と売れているという。終にアマゾン・ドット・コムでさえ10万ドルの宝石を売り始めたそうだ。
つまりウォールマートのお客はそこそこで、より富裕層の消費が急増し、トータルでは今年の年末商戦は前年比5-6%増になるだろうと楽観視する声が多いようだ。その根拠としてマクロで見た時雇用情勢が安定しており住宅市場の低迷を補い家計の正味資産は過去最高値になり、可処分所得は減ってない(日経ビジネス岡野氏)と指摘している。
労働分配率に配慮する時
ということで、日本経済に戻る。米国経済の軟着陸の見通しが出てきた。安倍政権は設備投資関連などの企業減税導入を決定した。いよいよ労働分配率を高めるときが来た。企業減税の狙いはそれによって得た業績改善を家計に還元し、個人消費を活気付け経済全体を浮揚させることだ。
この2‐3年で生産性も改善された。そろそろ企業は生産性改善に見合う賃金を考えるべきだ。もう一つ、企業・消費者のマインド「これだけ好景気が続けばもう悪くなるくしかない。」があるという(モルガンスタンレー、Rフェルドマン氏)。そして小泉前首相が郵政民営化選挙直後起きた消費増のように、安倍首相の毅然たる改革続行の姿勢がマインドを良くすると期待したい。■