就任早々に中韓関係修復と迅速な北朝鮮核実験対応で順調な滑り出しを見せた安倍新政権は、このところ世論と市場からの信頼が揺らぎ始めた。復党問題で支持率が下がり、改革路線継続に対する市場の疑いが日本市場の株価を足踏みさせ、それが具体的な数字で現れ始めた。
先月19日「復党問題を考える」で市場が安倍政権どう見るか参考になると書いた。彼らには守るべき既得権益等なく、掛け値なしで安倍政権下の日本経済の将来性がどうなるか見極め巨額の投資を決定するのが仕事だからだ。
その後発行された内外のアナリストや関連メディアの新政権に対する評価の多くは、先々日本経済が何処に向かうのか不透明であることに対する「苛立ち」が正直に現れていた。ある意味地方や団体の利権を代表する政治家より余程国としてどうあるべきか見る目があるのである。
海外ではモルガンスタンレー、国内では三菱UFJのアナリスト、メディアでは日本経済新聞など市場のメインストリームが苛立ちを隠さなくなった。日本だけでなく世界を見れば苛立ちの理由は明確だ。今年中頃から世界中の株価が上昇したのに、日本だけ取り残され一進一退を繰り返しているからだ。
つまり世界の投資家は日本市場が魅力的とは見てないのである(相対的に)。日本の個人資産は預金が大半で株式にはそれほど投資されていない。かつ株式の保有期間が長く売買頻度が少ないのに対し、日本市場で株式の2割を保有する外人は取引の5割を占め、彼らの評価が市場を決めるといって差し支えない影響力なのである。
彼等の疑いは改革継続政権としての安倍内閣の姿勢がどうにも曖昧なことである。農業や公共事業改革の具体的な問題の審議に入った途端族議員の大声ばかり聞かれ、改革の座標軸が揺れ首相のリーダーシップが見えなくなった。良いように受け取っても、小泉時代と異なり「人の意見を聞く」という姿勢が、族議員に力を与え首相は決断力がないという印象を与えているのだ。
内閣支持率はどのメディアの調査も発足当時より15ポイント程度低下した。先に述べたように復党問題は昨年の郵政民営化選挙をどう理解するかによって異なる意味を持つ。政策決定プロセスを根本的に変える構造改革に対する承認だったと考える人達は、造反組の復党が筋の通らない決着とみなし支持しない側に回ったと考えられる。
復党問題はこれで決着したわけではない。既に作業が始まった来年予算策定では従来の既得権益をベースに族議員が活発に動き、安倍首相の指導力が表立って発揮されている感じがしない。青木・片山・森氏などベテランの発言が大きな扱いを受け報道される露出度に比例し、安倍政権は小泉以前の時代に戻った印象を与え、いわゆる無党派層の支持率を減らしていく恐れがある。彼らは若くて経験のない政権という印象を与えるのにある程度成功している。
安倍首相は来年の参院選に勝つまでロープロフィールで行き、その後思い切った政策を打ち出すとの見方もある。現在の支持率と両院での勢力という政治の現実を見ながら天秤にかけて政権を運営していくのが当面の方針のように思えるが、このまま曖昧な姿勢をとり続けると大きな落とし穴が待ち受けている気がしてならない。■