かぶれの世界(新)

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小さく生んで大きく育てる

2006-07-11 23:45:27 | 社会・経済

日本のものづくりの復活について先に「摺り合わせ方生産」を追及すべき、しかし万能ではないと述べた。だが摺り合わせ生産の優位性を利益が出るビジネスモデルにまでもっていくのは別の話である。これを5-10年の時間軸で見て議論したい。

先に日本の半導体事業は世界市場戦略を欠いた為ニッチ産業に没落したと説いた。言い換えると「大きく生まないと大きく育てられない」ということだった。しかし、「小さく生んで大きく育てる」ことが出来るアプローチがあり、既に日本企業にも成功例がある。最初にパソコンの例をあげる。

Windows95とIBMPCの出現によってパソコンがモジュール生産可能になり水平分業化した結果、誰でも部品を買ってきて最新のパソコンを作れるようになり、ビジネスモデルが根本的に変わった。これを機会に生産が東南アジアから始まり現在は中国シフトされ、大幅な価格下落が起こった。パソコンメーカーは淘汰されマイクロソフトとインテルは巨額の利益を上げるITの代表企業になった。

実はパソコンのOS(Windows)やCPUの価格は当時から殆ど下がっていない。当初OSやCPUはパソコン原価の数%しか占めずマイクロソフトやインテルは駆け出しの弱い立場にいた。それが一旦採用され必須部品になり価格維持する一方で本体価格は下落し原価の10%以上になり、数量増による利益は殆どマイクロソフトとインテルに流れるビジネスモデルになった。

このウィンテル・モデルはパソコンメーカーに本体を値下げさせ需要を喚起する一方で、OSとCPUの知的財産保護と技術開発の両面から独占供給体制を堅持して価格維持することにより効率的に利益を吸い上げるビジネスモデルを確立できた。これはまさに「小さく生んで大きく育てる」例であった。但し彼らは初めから世界市場を視野に入れていた。

90年代中頃まで日本がほぼ100%のシェアを誇っていた液晶ディスプレイや光ディスクでも実は類似のことが起こっている。開始したときは設備投資の割りに殆ど売り上げが得られず、利益を出すまでに何年もかかる非常に特殊な部品や材料が内蔵されている。

90年代後半から日本からその部品や材料が韓国・台湾に輸出されて液晶パネルなどに内蔵されるサブユニットが作られ,それが中国に輸出されて最終製品が組み立てられるハイテック製品の国際機能分業体制が短期間で作られた。

液晶パネルの場合もモジュール化が進み、日本の最終製品生産は急速に競争力を失い淘汰された。しかし、カラーフィルタや偏光板などの部品とそれに使うフィルム等の「川上部品」は日本企業が独占的に供給し価格が安定しているのに対し、最終製品は需給が緩むと価格下落が続き、「川上部品」の占めるコストが60~70%と過半を占めるようになった。

このビジネスモデルは流動的でパソコンほど安定していない。韓国・台湾企業は川上部品このビジネスモデルを変えようと必死の努力を続け一部に成果が出始めたが、最終製品組み立てほど容易に日本にキャッチアップできてないのが現状である。

川上部品や材料は巨額の設備投資、長い時間かけたノウハウの蓄積、摺り合わせ生産など日本が得意とする生産システムに依存するところが多々ある。日本から工作機械を買ってくれば直ぐに作れるようなものではない。

歴史の浅いせいか国民性か分からないが中韓企業はじっくり時間をかけて基幹部品を作る経営戦略は見かけず、結果として日本の川上部品メーカーが独占供給し利益を得る構図になっている。このビジネスモデルの起源は異なるが、パソコンにおけるOSやCPUと同じように一旦採用すると代替はない。

ところで日本に独占供給体制堅持のため知的財産保護を含めた明確な優位性維持戦略があるだろうか。現在の状況は日本企業が国内生産から海外生産にシフトするという過程から図らずしも生まれた。

海外生産シフトが進み生産現場と技術開発の距離が出来、得意の摺り合わせが機能しなくなってきたというアラームが発せられている。国際機能分業体制をもっと意図を持った戦略に高めていくことが重要と私は考える。

日本の上流部品・材料の優位性を可能ならしめた原理と構造を科学的に解き明かしそれを強化していかなければ、今日の立場を長く維持できない。横断的な活動が活発な日本特有の組織の「摺り合わせ」活動だけで優位性を保つことは難しい。■

コメント (2)
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