MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

ただ叫ぶしかない胸の痛み

2018-05-30 17:07:15 | 健康・病気

5月のメディカル・ミステリーです。

 

5月26日付 Washington Post 電子版

 

At night she suffered through searing pain, by morning it mysteriously vanished

夜間、彼女は激しい痛みに苦しんだが、不思議と朝には消失した

 

Marion Millhouse Barker さんの痛みは非常に強かったので、ベッドを抜け出して来客用の部屋に行き、ドアを閉め、あらん限りの声で叫んでいた。

 

By Sandra G. Boodman,

 その痛みが耐えがたいものとなった夜には Marion Millhouse Barker さんはベッドを抜け出して来客用の部屋に行き、ドアを閉め、あらん限りの声で叫んでいた。

 「それが救いになっていました」 身体をよじらせなければならないほどの胸郭の右側の突き刺すような感覚に対応するために考え出した対策を思い起こしながら Barker さんは言う。「私は痛みに対して我慢強い方です」と彼女は言うが、その痛みは薬が使われていない出産や急性虫垂炎以上に強いものであった。

 別の夜には Barker さんはシャワー室に向かった。彼女は痛みの場所に我慢できる限り熱い湯を勢いよく浴びせた。叫ぶことと同じように、それによって一時的に救われた。

 現在65歳になる Barker さんは、ほぼ2年間、その発作を抱えて生活したが最初のうちはその発作は間欠的だった。一方、当時、彼女の家族は、それより優先度の高い一連の医療的危機に向き合っていた。

 しかし、発作は月に一回からほぼ毎晩となり痛みを我慢することが不可能となっていった;しかし、奇妙なことにそれは日中には決して起こらなかった。

 「もし、その痛みが日中も消えることがなかったら、私はずっと早く医師を再び受診していたでしょう」と彼女は言う。「悲しいかな私はあまりに長くかかってしまいました」

 

Marion Millhouse Barker さんは身体をよじらせなければならないほどの胸郭の右側の突き刺すような感覚に襲われた。

 

Kayaking injury カヤックでの損傷

 

 彼女の症状は2012年の秋に始まった。その前の年に、Barker さんは引退を決意し、共同で立ち上げていた Maryland 郊外にある医療通信の会社を売却していた。

 Barker さんは体調を維持するためにカヤック乗りを結構行っていた。胸郭が痛くなり始めたとき、肉離れを起こしたと考えて気楽に構えようとしていた。

 2013年1月、痛みが消失しなかったため彼女はかかりつけの内科医を受診した。その医師は胸部レントゲン撮影、Barker さんの胆嚢の超音波検査、および肝機能検査を行った。全ては正常だった。

 「残念ながら、その医師はその病気の正しい診断を可能にする検査を行っていませんでした」とBarker さんは言う。

 その内科医は、彼女の痛みは、おそらくカヤックを漕ぐことに関係した胸郭の軟骨の炎症である肋軟骨炎(costochondritis)によるのではないかと考えていると Barker さんに説明した。医師は炎症を抑えるために処方用量の非ステロイド系鎮痛薬を内服するよう勧めた。

 しかし効果はなかった。数ヶ月後、Barker さんはプライマリケア医を変更し、家庭医療専門医を受診した。その新しい医師もこれまでの診断に同意見で、抗炎症クリームを処方した。それもまた効果はみられなかった。

 その翌年から Barker さんは自分自身で痛みに対処していた。折から彼女と家族は、より差し迫った問題と向き合っていた。妻に先立たれリッチモンドに一人で暮らしていた90歳代の Barker さんの父親が転倒し股関節を骨折、手術が必要だった。また、Barker さんの継娘の一人は、40歳のときに命に関わる再発乳癌の治療のためにペンシルベニアの自宅からボストンの病院まで往復していたのである。

 国立衛生研究所の研究医師だった夫を持つ Barker さんは、自身の奇妙な痛みを抑えてくれる薬に遭遇することを期待して、様々な市販薬を試してみることにした。そして彼女は医師を再受診しなかった。

 「すでに診断はついていると思っていました」 彼女は、受診した二人の医師が重大な病気は除外してくれたと指摘する。再受診は“無駄”なことと思っていたという。

 「『もし再受診したとして、彼らが何をしてくれるというの?』そう私は考えました」

 

Asleep at the wheel 居眠り運転

 

 しかし Barker さんの中で、彼女を疲労困憊させる発作に対する心配が増していった。それらは通常、夜の7時ころに始まり、数時間後に弱まったが、朝の5時ころに、再度2、3時間出現して消失することもあった。

 日中は痛みはなかった。Barkerは何時間かを昼寝にあて、妨げられた睡眠を補った。

 「それは散発的に起こっていたので、ある程度慣れてきていました」と彼女は言う。一方、Barker さんは2014年7月の10日間の家族旅行中には『一度の発作もなかった』ことを不思議に思った。

 しかし1ヶ月後、症状が再発し、ほぼ毎晩起こるようになった。叫ぶことも、シャワー療法も、市販の鎮痛薬の併用も効果はなかった。      

 一度、リッチモンドの父親のところを訪ねて運転して帰る途中、昼ひなかに州間高速道路95号で短時間居眠りをした。そのできごとが彼女をビビらせた。「事故にならなくて本当に良かった」と彼女は言う。

 労働者の日(9月の第1月曜日)、サンフランシスコの心臓内科医をしている彼女の兄が訪ねてきたとき、Barkerさんは彼に助言を求めた。彼女の側胸部の痛みは胸郭からではなく背部、おそらく上部脊椎から起こっているのかもしれないと彼は彼女に告げた。その鋭い痛みの性質から、炎症ではなく、神経の痛みが考えられると彼は言った。彼女が何ヶ月も内服してきた鎮痛薬は神経の痛みには効果はみられないものだった。

 彼の助言はこうだった:MRI検査を受けなさい。

 

An unusual finding 異常な所見

 

 数週間後、Barkerさんはかかりつけ医を再受診した。彼女は自身の持続する症状を説明し、兄の見解を伝えた。その医師は2つの検査を依頼した:彼女の脊椎の MRI と CT スキャンである。

 その検査で Barker さんの痛みの原因が明らかになった:おおよそ小型のソーセージ(cocktail frank)の大きさと形をした大きな腫瘍が、彼女の脊柱管の中を占拠していた。それが肩甲骨の下方に位置する第6胸椎を圧迫していた。

 その腫瘍が良性か悪性かの判別の参考とするために Barker さんは脳のMRI検査を受けた。

 「私は怖くはありませんでした」と彼女は思い起こす。「それは私の脳にはないと思っていました。頭痛も、視力の変化も、平衡障害もありませんでしたから」それらは脳腫瘍で見られる症状である。

 彼女の脳検査は正常だった。

 Barkerさんの家庭医は彼女を二人の神経外科医に紹介した。ベセスダにある Suburban Hospital で一緒に脊椎手術を行っていた Shih-Chun "David" Lin と Quoc-Anh Thai の両氏である。(Thai 氏は最近アーカンソー州に異動した)。

 「通常、台所に二人の料理人はいらないでしょう」Johns Hopkins 神経外科のワシントン地区の部長である Lin 氏は言う。しかし、彼によれば、脊椎手術の場合、別の手や眼を持つ人材が貴重となることがあるのだという。

 「非常に狭いスペースの慎重に扱うべき場所で仕事をしており、悲劇的な結果となる可能性もあります」と Lin 氏は言う。彼は Hopkins 医科大学の神経外科准教授でもある。二人の外科医が患者の両側に位置することで手術を効率よく行い、合併症の危険性を最小限にすることができる。

 その神経外科医は Barker さんに、その腫瘍がゆっくりと増大する稀な腫瘍のシュワン細胞腫(schwannoma, 神経鞘腫)であると考えており、これは通常は良性であると説明した。しかし、手術を行ってみるまではそれが何であるかを確信できないことを神経外科医側から Barker さんに告げたと Lin氏は説明する。

 シュワン細胞腫は末梢神経系の要素であるシュワン細胞(Schwann cells)と呼ばれる神経構成細胞から発生する。大部分のケースでは原因不明に偶然に発生し、身体のいかなる場所で増大しうる。症状を起こさないケースもあるが、Barker さんが経験したような種類の放散痛を引き起こしたり、腫瘍が頭頸部に位置する場合には聴力障害をもたらすことがある。

 「この種の腫瘍は概してそれほどよく見られるものではありません」と Lin 氏は言う。外科医は腫瘍を切除することの危険性と有益性を検討しなくてはならないが、それはしばしば微妙な問題となることがある。

 Barker さんは、この知らせに驚くとともに安堵した。20年以上も前に、彼女の母親が頸部のシュワン細胞腫を切除する手術を受けていた。Lin 氏は Barker さんの腫瘍に遺伝的原因はないと考えているという。というのもそれが単一の腫瘍だったからである(遺伝性のシュワン細胞腫は通常多発性に発生する)。

 Barker さんの痛みが、日中ではなく夜間だけに起こった原因は不明であると Lin 氏は言う。「反対のことは時々あります」と彼は言う。

 Barkerさんによると、外科医らは彼女の痛みが強いことと、あまり長く放置するとそれが彼女の足に影響を及ぼし麻痺を引き起こす可能性があることから“すぐにでも”手術することを勧めたという。

 それに対し「私は愚かな決断をしてしまったのです」と Barker さんは言う。

 

'A stupid decision' ‘愚かな決断’

 

 当時、彼女の家族が感謝祭に訪れてきており、Barker さんは手術の後、動けなくなることを心配した。手術が緊急ではないと外科医が彼女に告げていたので、彼女は12月初旬に手術を予定した。

 しかしそれまでの間に、Barker さんの痛みは増強し、歩行機能が障害され始めた。

 さらに彼女は、外科医らから聞かされていたことがだんだんと気になっていった:腫瘍が切除された後も痛みが消失しないこともある、ということである。

 「私はそれを信じることはできませんでした」と彼女は言う。「もし、良くならなかったらこの状態を続けることはできないと夫に言ったことを覚えています」

 Barker さんにとって幸運にも症状は改善した。数時間かかるとみられていた彼女の手術は、腫瘍が比較的容易に摘出できたためわずか90分しかかからなかった。「腫瘍は被膜に覆われており、脊髄に癒着していませんでした」と Lin 氏は言う。

 「まさに文字通りポンと飛び出してきました」 医学生への教材として外科医が作成した自身の手術ビデオを数ヶ月後に見た Barker さんは言う。「それは実に見事でした」

 肋骨の痛みはすぐに消失したが、手術からの回復には一年以上かかった。Barker さんが正常に歩く機能を取り戻すために3ヶ月の理学療法も必要だった。そして彼女は完全に回復した。

 長引く原因不明の痛みに直面している他の人たちへの彼女のアドバイスは、特にそれが重篤である場合、シンプルである:それは、私がしたことをしてはいけない、ということである。「客観的になれる今、私は、それが比較的容易に回復できる問題であったことがわかります。医師を再受診するのを長びかせていたことは大きな間違いだったと思います」と彼女は言う。

 

 

シュワン細胞腫(神経鞘腫)は神経細胞を支持するシュワン細胞から

発生する腫瘍である。詳細はMEDLEYのサイトを参照いただきたい。

 

本腫瘍は、頭蓋内、頸部、脊髄、胸部、手足、皮膚などにできる。

原因はわかっていないが、遺伝子性のものは神経線維腫症と呼ばれ、

腫瘍が多発することがある。

頭蓋内で多く見られるのは聴覚・平衡覚を伝達する

聴神経(第8脳神経)に発生する聴神経鞘腫である。

脳神経にできるシュワン細胞腫の約90%がこの神経から発生する。

またシュワン細胞腫は脊髄神経より発生することがある。

脊髄では、胸髄に最も多く、男女差はない。

この場合、多くはその神経の支配領域への放散痛が初発症状となる。

進行は比較的緩徐で、数年の経過で脊髄症状が徐々に進行する。

本腫瘍は基本的に良性であることからそのまま様子をみることもある。

症状が強い場合や明らかな増大傾向が認められれば手術や放射線治療が

検討される。

脊髄シュワン細胞腫は稀な疾患でMRIを行わなければ発見されないが、

長く続く原因不明の痛みが見られるケースでは、

可能性の一つとして本疾患を考慮することが重要である。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする