2013年も残すところあとわずか。
年末恒例の今年の医学の進歩トップテン。
画期的な進歩がこれだけというのではまったくないのでしょうが、
一応紹介しておきます。
Top 10 Medical Breakthroughs 医学の進歩トップ10
By Alice Park,
10. Detecting Parkinson’s Disease Early パーキンソン病を早期に診断する現在、アルツハイマー病やパーキンソン病などの最も頻度の高い変性性神経疾患は、病初期に発見し治療的な介入を行うことができればより有効に治療できる可能性があると科学者は考えている。たとえば、手指や唇の振戦、嗅覚の喪失、あるいは表情の硬化などパーキンソン病の最初の症状が出現したときにはすでに筋の運動を調節する脳や神経回路へのダメージがしっかり固定化されている。
しかし、パーキンソン病の明確な特徴として有用な生物学的マーカーについて初めてとなる報告の中で、脳脊髄液中の一群のたんぱくが疾患の最初の段階で患者を同定するのに役立つかもしれないと研究者らが述べている。この知見によって、進行した患者で効果が得られなかった薬剤が、早期段階にある患者の症状の制御に有効かもしれないという可能性を検証する新しい研究につながると専門家は期待している。
(参考:髄液中で調べられたのはアミロイドβ〈ベータ〉蛋白、総タウ蛋白、リン酸化タウ蛋白、α〈アルファ〉シヌクレイン、総タウ-アミロイドβ比の5つの値。健康な対照群と比較して、初期パーキンソン病群では、髄液中のアミロイドβ蛋白、総タウ蛋白、αシヌクレインの値が低いことが判明した。さらに、タウ蛋白とαシヌクレインの値が低い患者ほど運動機能に大きな障害がみられたという。)
9.Genetic Bonanza: New Genes Linked to Alzheimer’s 遺伝子の鉱脈:アルツハイマー病に関する新しい遺伝子
人生の晩期に発症する最も一般的なタイプのアルツハイマー病に関連する新しく発見された十以上の遺伝子によって、本疾患に関連していることが現在知られている遺伝子数は24となっている。新しく加わった遺伝子は、アルツハイマー病に関連する脳変化と関係のある身体の免疫反応や炎症に関与するものである。さらなる遺伝的影響因子とともに、この脳疾患の特徴となっている記銘力障害や認知障害などの症状を治療できる可能性がある薬剤のターゲットを研究者らはさらに得たことになる。
8. Turning Poor Quality Eggs into Healthy Ones 質の悪い卵子を健康なものに変える
質の悪い卵子は、一部のアメリカの女性でなかなか妊娠できない理由の一つになっている。しかし Stanford University の研究者たちは、卵巣機能不全の女性が、再び健康で成熟した卵子を作れるようにする技術を開発した。イン・ビトロ活性化と呼ばれるこの過程には、卵巣あるいは卵巣組織の一部分を取り出し、実験室にてそれに含まれる未熟な卵胞が卵子に発達するのを促進するたんぱくや他の因子で処理する作業が含まれる。活性化された組織は卵管近くに再移植される。これまでこの技術の試験に志願した27人の女性のうち、5人が能力のある卵子を産生し、一人の女性が妊娠、別の一人は健康な赤ちゃんを産んでいる。
7. Introducing…The Poop Pill 登場~うんちの薬
はい、その薬は実際に糞便中に認められる細菌で構成されているのだが、大体どういうことかおわかりだろう。我々の腸はいいことをする細菌でいっぱいであることがわかっており、それらは、我々の食べ物を消化するのに有用で、他の腸管内の病原性微生物からまもっている。細菌の正常な集団は Clostridium difficile も撲滅することができる。これは下痢、あるいは致死的となることもある大腸の炎症を引き起こすため病院を悩ませるもととなっている菌である。薬の中に細菌群を詰め込むというのは University of Calgary の Thomas Louie 博士の素晴らしい発想である。このゲルカプセルを試された27人の患者中、Clostridium 感染症による再発症状を示したものはいなかった。さらに患者らはこの容易な投薬方法を非常に歓迎した。この方法はこれまでの別の方法、すなわち、不潔で強い毒性の成分は浄化されているとはいえ経鼻胃管により投与される便の移植という方法に比べ進歩となっている。
6. Hair, Hair Everywhere 毛髪、所かまわず毛、毛、毛
新しい髪の毛を増やすことの答えは、文字通り、髪の毛をひっくり返す(turning hair on its head)というところにあるのかもしれない。Columbia University の研究者は、新たな髪の毛の基礎を含む毛包と、それらを囲む細胞とを、反転させて移植することが豊かな新たな増殖への鍵となる可能性があると報告した。割礼を受けた赤ちゃんからの陰茎包皮のパッチがこの実験で用いられ、マウスに移植された。陰茎包皮は、それ自体毛包を持たないために利用されたわけだが、残念ながら反転させて植え込まれ根付いた毛包は本来のものと見まごうものとはなりえなかった。しかしこの新しい毛包は根付き生長した。毛がないため期待を寄せている人たちにとって大きな後押しとなっている。
5. Less Is More: One Dose of Vaccine Instead of Three May Be Enough to Protect Against HPV 少ないことはいいことだ:HPV の予防に、3回の代わりに1回の量で十分な可能性
ヒトパピローマウイルス(HVP)ワクチンは、陰部疣贅、および子宮頸がんを予防する最善の方法の一つであるが、11才と12才の少年少女の約半数しか3回すべての予防接種を完遂していない。幸運にも、国際的な研究者グループによる最新の研究が確認されればその必要がなくなる可能性がある。この科学者たちは、コスタリカの女性グループにおいて、一回分のワクチンで、このウイルスによる実際の感染後に作られるものの24倍以上の抗体が作られたことを発見した。このレベルが感染予防に十分であるか、さらに癌のリスクを下げるかどうかは明らかではないが、このワクチン一回分でもHPVに対していくらかの予防効果を与えるのに十分である可能性がこの結果から示唆される。
4. Finally, We’re Just Like Dolly ついに我々は Dolly と同じに
17年を要し、そして科学の不正や着服などのスキャンダルを経て、幹細胞科学者らは長年雌羊で行ってきたこと、つまりクローニングをついにヒトの細胞で成し遂げた。ヒトの皮膚細胞を用いて、Oregon Health & Science University の教授 Shoukhrat Mitalipov 氏は、核移植という、1996年に最初のクローン哺乳動物である羊の Dolly を作ったのと同じ手法を利用した。韓国の研究者によるこれまでの試みでは、この研究チームが核移植の代わりにIVF(体外受精)によって作られた胚を用いていわゆる人間クローンを作ったことが明らかとなったがそれが不正に示されていたことが判明した。
しかし Mitalipov 氏のゴールは小さな自分を作ることではなかった。彼は核をくり抜いたヒトの卵子の中に十分に発達した皮膚細胞を挿入することに成功、この卵子を化学的、電気的に刺激し、分裂を開始させ胚幹細胞を作った。(この手技はそこまでにとどまった。歩いたり、話したりするクローンではない)幹細胞は、一部の身体の組織や器官の細胞基盤として役立ち、期待されるのは、それらがいつかアルツハイマー病から心疾患や糖尿病に至るまでの疾患の治療に用いられるようになることである。
3. The First Home Pregnancy Test That Tells You How Pregnant You Are 妊娠の状況を教えてくれる初めての家庭での妊娠検査
妊娠検査はまさにアップグレードした。Clearblue Advanced Pregnancy Test with Weeks Estimator は米国食品医薬品局によって承認されたそんな初めての検査であり、これは妊娠を検出するだけでなく、排卵からの時間に基づいてどれくらい前に妊娠したかを測定する。この検査はそれを見積もるため妊娠を示すのと同じホルモンであるヒト絨毛性ゴナドトロピンの値を用いている。
2. Dramatic New Changes to Cholesterol Treatment Means More People on Statins コレステロール治療への新たな劇的な変化はスタチンを内服する人々の増加をめざすこと
コレステロールと言えば、医師からは何年間も“自分の数値を知っておきなさい”と言われ続けてきた。American Heart Association(米国心臓協会)と American College of Cardiology(米国心臓病学会)から出された新しいコレステロールのガイドラインではそれが変わる可能性がある。この改訂された勧告は高コレステロール値に加え心疾患の原因となる多くの因子と、それらの最善の治療法に焦点が当てられている。もし心臓病の既往がなければ、年齢、性、喫煙歴、糖尿病、血圧、およびコレステロール値を考慮した新たな計算が有用で、スタチンと呼ばれるコレステロールを下げる薬を飲むことで恩恵が得られるかどうかを主治医が決定する。それによって、初回の心血管イベントを予防できる可能性がある。
1. Road to the End of AIDS: A Newborn Is Functionally Cured of HIV AIDS 終結への道:新生児が機能的に HIV から回復する真実とすれば出来過ぎた話に思われた。そのため University of Mississippi Medical Center の小児科医 Hannah Gay 医師は数値を再びチェックした。しかし、同じ結果を示した。HIV に感染した母親から生まれた幼児は2年後、ウイルスが消失したように思われた。その子供は機能的に HIV から回復したのである。
生直後感染の徴候を示していたこの赤ちゃんは、年長児や成人に対して医師たちが標準的に用いている3種の抗 HIV 薬の組み合わせのおかげでそのウイルスを除去することができたのである。一般に、HIV 陽性の母親と新生児に対しては、母親から子へのウイルスの移行を阻止するために妊娠中に1種類の抗ウイルス薬が投与される。しかし、この赤ちゃんの母親は自身が HIV 陽性であることを知らなかったため、その予防措置がとられなかった。そのため Gay 医師らはより強力な複数の薬剤に賭けた。結果、それは有効で、その子が薬剤の服用を止めてからもウイルスは再発してこなかった。
これまで考えられていたより60%高い率で HIV が感染者において休止状態となることを示す最新の研究結果の観点から、専門家たちは手放しに喜ぶことは避けている。こういった保菌者が新たな感染を広げ新たな症状を起こす可能性がある。しかしこの Mississippi の幼児から、もし HIV 感染後十分早期に介入されればこの疾患を完全に止めるチャンスがあるかもしれないという期待が示される。
(参考:2013/10/25 日本経済新聞より:生後30時間で抗ウイルス薬投与を始めたことで、母親から感染した新生児のエイズウイルス(HIV)が消滅した事例を、米ジョンズ・ホプキンス大のチームが米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに報告した。この事例は3月に学会で発表され、エイズ撲滅につながる初の子供の完治例として注目された。チームは引き続き経過を見守るとともに、この手法の有効性を確かめるための新たな研究を検討している。新生児は米南部ミシシッピ州で生まれ、1歳半で投薬を中断したが、2歳半の時点で症状はなくウイルスも未検出。一部の専門家からは新生児が本当にHIVに感染していたのか疑う声も出たが、チームは今回の報告で、子宮内でのHIV感染を裏付けるデータを示した。投薬は、母親からの感染リスクが高かったため標準的な感染検査結果を待たずに開始。これがウイルスの活動を抑えて高い治療効果につながったとチームはみている。)
医学は着実に進歩しているようですが、
生きているうちに私たちは
どこまでその恩恵を受けることができるでしょうか?
地道な進歩をこれからも見守り続けていきましょう。