MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

どこまでが心の問題か?

2013-04-03 16:40:41 | 健康・病気

月が変わってしまいましたが
2013年3月のメディカル・ミステリーです。

3月26日付 Washington Post 電子版

Eating made her sick, but it took doctors years to figure out why 食べることで彼女の調子は悪くなっていたが、医師によって原因が解明されるまで何年もかかった

Teenagersstomachpains
バージニア州の十代の女性の腹痛は、そのすべてが一部の医師が指摘していたような心の問題ではなかった。

By Sandra G. Boodman,
 Margaret Kaplow さんは、娘のお腹の症状が始まって一年後、自分自身にも痛みを感じるようになった。
 家族と夕食の卓につくと Kaplow さんのお腹は自然としめつけられるように痛むようになった。娘の Madeline(Maddie)が数口食べては、持っていたフォークを置いてテーブルから離れ“気分が悪い”と今夜も言い出すのではないかと見守っているうちにそうなってしまうのだった。

Teenagersstomachpains02
今 Maddie Kaplow の痛みは和らいでおり、好きなものは何でも食べることができる。

 約6年間、13才の誕生日の直前に始まった Maddie Kaplow の繰り返す激しい腹痛は様々な病気のせいであるとされてきた。コロンビア特別区、メリーランド州、バージニア州の専門医らはそれぞれ、彼女がグルテン不耐症であるとか、卵巣嚢腫の破裂であるとか、虫垂の病気であるとか、過敏性腸症候群( irritable bowel syndrome, IBS )であるとか診断を下した。彼女の症状は心理的なもので、注目されたがりの神経過敏な十代の少女だと確信しているものもいた。
 「それはひどい悪夢のような出来事でした」と Kaplow さんはあのころの数年間を思い起こす。娘が大げさに言っているとか仮病を使っているとは考えられなかったと彼女は言う。Kaplow さんによると、新たな診断がつけられるたびに医師が Maddie の痛みの原因を発見してくれたと有頂天になったというが、痛みが再発するとそれは押しつぶされるような失望へと変わっていくのだった。
 医師たちが最終的に原因をつきとめ、Maddie の思春期の大半を苦しめた病気を治療できたのは、自宅のある北バージニアから400マイル離れた大学病院に入ったときだった。
 「すべてが失意の数年間でした」と Maddie は言う。彼女は現在22才の大学4年生である。「ほとんど折り合っていけると時々感じられるところまでたどり着くことができました」

Shooting pains うずくような痛み

 これらの症状が始まった時を Maddie は覚えている:2003年2月、Fairfax County middle school のフランス語の授業中だった。時折嘔気を伴う鋭い痛みが、右上腹部の肋骨に近いところに集中して見られ、背中の両方の肩甲骨の間に広がった。痛みが治まらなかったため母親は彼女を小児科医に連れて行った。
 「その医師(彼女)は何も発見できませんでした」Post 紙の教育サービス・マネージャーを務める Kaplow さんはそう思い起こす。数日後にはその痛みは消失したが、約6週間後に再発した。その小児科医は、痛みを誘発している可能性のあるものが何であるかを発見するために Maddie に食事日記をつけるよう指示した。それでも何も発見できなかったため、彼女はコロンビア地区の小児婦人科医に紹介した。その婦人科医も何も発見できず、Maddie は小児胃腸科医に回され、その年の5月に診察を受けた。
 その胃腸科医は、彼女の問題は便秘であると診断し、守るべき食事療法を指導するとともに、彼女にグルテンに対する過敏症がある場合に備えて小麦を避けるよう忠告した。便秘は治ったものの、下痢や悪寒をしばしば伴う痛みは軽快しなかった。グルテンを避けることも効果はないように思われた。
 その胃腸科医は、彼女の上部および下部消化管を観察する検査である、胃カメラや大腸カメラを勧めた。大腸カメラでは何も見つからなかったが、胃カメラでは、痛みと一致していると思われた場所の十二指腸潰瘍が認められた。Maddie は過度の胃酸の産生を阻害する薬剤、ネキシウムなどの内服を開始したが、食事によって誘発されるようにみえた痛みに対する影響はほとんどなかった。
 Maddie は麻薬性鎮痛薬での治療が必要となるほど痛みがひどくなって北バージニアの緊急室に行くこともあったが、そのようなできごとは6年間に18回くらいあったという。Kaplow さんによると、Maddie の体重が落ちていなかったのでかかりつけの小児科医はさほど心配していないようだったという。「その医師はこう言い続けていました。『うーん、彼女に衰弱はないようですね』」
 ある受診時、ERの医師は問題の原因を発見できたと考えた:CTスキャンで卵巣嚢腫の破裂の可能性が認められたのである。それに対する治療の必要はなく、治癒すれば痛みも消失すると期待された。
 2004年5月、Maddie の胃腸科医の勧めで受診した外科医は虫垂を切除することを決めた。その医師は母親に対して、虫垂の切除をしておけば、少なくとも今後の症状の原因から虫垂炎を除外できるようになると説明した。「他に何をすべきか思い当たりません」そう彼に告げられたと Kaplow さんは言う。
 最初のうち、それは正しい判断だったように思われた:その外科医は彼女の虫垂が正常に見えたと思ったが、病理医は疾病の初期の徴候が認められると指摘した。「『やった、ついに解決した』と私たちは考えていました」そう Kaplow さんは思い起こす。
 しかし彼らの安堵は長続きしなかった。3ヶ月後、Maddie は再び強い痛みでERに戻ることになる。広範囲の精密検査や虫垂切除が最近行われていたことから、Maddie の病気は精神的なものではないかとERの医師は考えた。
 Kaplow さんは、娘の症状が「すべて想像によるもの」との示唆に腹を立て、「この痛みが彼女に不安を起こしているのであって、その逆ではないと思いました」
 2005年、Maddie は新たな胃腸科医を受診し始めていた。彼には思いやりや気遣いがありそうで、彼女が IBS ではないかと考えた。これは発作的な腹痛、嘔気、あるいは下痢を特徴とするありふれたものだが定義の不明確な疾病である。彼は内服薬を切り替え、2度目となる胃カメラと大腸カメラを施行した。両者とも正常で、例の潰瘍も治癒していた。
 「おそらくIBSが問題なのだろうと期待していました」そう母親は思い起こす。

A fresh perspective 新たな視点

 しかし、その後の2、3年で Maddie の病状は悪化、症状はより頻回となり、しばしば痛みは耐えられないほどになった。家族は2ヶ所の緊急室を繰り返し受診した。「その都度、新たな視点から見ればその原因を突き止められると期待し続けていました」と Kaplow さんは思い出す。
 この十代の少女が大げさに言っていると考える立場を繰り返し明確にしていた小児科医への受診を Maddie は断固として拒絶していた。「その医師はひどく懐疑的で、幼稚園の先生のように単調な声でこう言うのです。『Maddie、今日は何?』」そう母親は言う。
 その頃、その痛みとはうまく付き合っていけるような状態になっていた。「奇妙なことでした。というのもお腹はすくのですが吐き気はしていたのです」と Maddie は思い起こす。「そして自分のお腹を押押さえ込むと気分が良くなるのです」病気のために頻回に欠席していたが、なんとか彼女は高校の厳しいカリキュラムをパスした。
 2008年4月、University of Rhode Island の一年生のとき、休みで自宅に帰っている間に症状が出た Maddie は McLean にある緊急医療センターに助けを求めることにした。そこの医師は、彼女の症状が胆嚢に関係している可能性を示唆し、精密検査を勧めた。
 Kaplow さんによると、彼女がこの勧めについて例の小児科医に話した時、その医師は全く動じなかったという。Kaplow さんはそれまでにも、その小児科医や他の医師たちに対して、家族内に多発する可能性のある胆嚢疾患のために自分と3人の姉妹たち全員が40才までに胆嚢を摘出していることを伝えていたのである。しかしその医師は胆嚢のスキャンを行うことを拒絶し、代わりに3度目の大腸カメラと胃カメラを勧めたが、両者とも正常だった。
 2009年1月、Maddie は、自宅から Rhode Island に飛行機で戻ることになっていた2日前にこれまでで最も激しい発作を経験した。その週の初めに、答えが得られることを期待して彼女は Baltimore の有名な胃腸科医を受診していた。その医師は、抗不安薬を処方したが、胆嚢のスキャンは夏まで待てると判断していた。彼はグルテンの消化ができないことに起因する腹痛と下痢を起こす疾患であるセリアック病の検査を行った。以前の小麦を含まない食事では効果が見られていなかったにもかかわらす゛である。
 でもそのときは「『ほら、やっぱりセリアックだったんだわ』と思いました」そう Kaplow さんは思い起こす。
 痛みが強くて Maddie はベッドを離れることができないほどの症状になっていた深刻な状況にうろたえた Kaplow さんは Martin Luther King holiday(1月第3月曜日)の週末には必死になってあちこちに電話をかけた。北バージニアの胃腸科医から鎮痛薬を処方してもらい、「どうにか彼女は飛行機に乗ることができました」と母親は思い出す。
 2日後、依然として強い痛みがあり、食べることができなかった Maddie は大学の学生健康センターに行った。そこの医師によってようやく HIDA(hepatobiliary iminodiacetic acid)スキャンが予約された。これは、消化液系の胆汁の流れを追跡するために放射性を帯びた物質を用いる画像検査で胆嚢疾患の検査に用いられるものである。

A definitive result 確定的結果

 その結果により、原因が何であり、何をすべきかということについてほとんど疑いの余地はなくなった。この検査で、Maddie が重症の biliary dyskinesia(胆道ジスキネジー)、別名 acalculous cholecystopathy(無石性胆嚢症)であることがわかったのである。これは右上腹部に痛みがあることと胆石が認められないことを特徴とする疾患で稀なものである。
 この検査で彼女の胆嚢の駆出率が測定された。これはこの器官が胆汁をどれほどの効率で絞り出せるかを評価するものである。彼女の結果は3%で異常な低値を示した。American Pediatric Surgical Association(米国小児外科学会議)によると、駆出率が約40%未満の人は胆嚢摘出手術の適応となるという。同会議は胆道ジスキネジーは年長の子供や成人に最も多く発症すると指摘している。
 手術は痛みが消失することを保証するものではないが、症例の70~80%では有効な様である。
 「この疾患の本質については多くのことがわかっていません」今回の診断を行った Rhode Island、Wakefield の一般外科医 Umberto Capuano 氏は言う。彼によると、以前は、本疾患は稀なもので、特に小児ではめずらしいと考えられていたが、医師らはむしろ多くの症例に遭遇するという。
 Capuano 氏は「これまで、何年間も苦しんだ多くの若い女性を治療してきたが、彼女はまさにその一人だったのです」と言う。「彼女たちはすべて手術後に軽快しています」
 Maddie を治療した多くの医師たちのほぼ全員がなぜ彼女の胆嚢に問題があるかもしれないと考えなかったのか理解できないと、この外科医は言う。
 「医療には地域格差が存在します」と彼は言うが、彼女の明確な胆嚢疾患の家族歴は“確かに警告を発するものである”と指摘する。
 Kaplow さんが検査の結果と娘の胆嚢を摘出する方針について聞いたとき、ドッと泣き出した。「『信じられない。このことについに終わりがやってくるなんて。』そう私は思ったのです」
 2月下旬に腹腔鏡手術が予定されたが、Maddie がさらにひどい胆嚢の発作で入院してきたので、Capuano 氏は数週間前倒しで手術を行った。
 その後、Tulane University に移った Maddie は、この手術によって痛みに終止符を打つことができた。「私はもう授業を休んでないし、欲しいものは何でも食べられます」と彼女は言う。
 今回の経験で、Maddie がヒステリー症のティーンエイジャーと何度も見なされたことから医師に対して警戒心と怒りを覚えたと母親は言う。
 「とてもばかげた話ですが、私は、もし医師に何かを言われたら、神父に言われたと同じようにそれは絶対的真実なのだと聞かされて育ちました。彼らは私たちよりよく知っているのですから。だけど、今は、もし何か疑わしいと思ったら、私は間違いなくもっと積極的になるでしょう」
 起こったできごとを Maddie の以前の小児科医に伝えたとき、その反応は Kaplow さんが期待したものではなかったと言う。「彼女は『治療されて大変うれしく思います』と言ったのです。『何年もの間すみませんでした』ではなかったのです」そう Kaplow さんは言う。

肝臓で作られた胆汁は胆管を通って十二指腸に分泌される。
その途中にある、胆汁が溜まる袋を胆嚢といい、
これらを総称して胆道と呼ぶ。

Photo
胆道系解剖図(http://www.ususus.sakura.ne.jp/053bileduct.htmlより)

胆道ジスキネジーとは
胆嚢を含む胆道系に
胆石・癌など明らかな器質的病変が存在しないにもかかわらず
腹痛、発熱、黄疸などの胆道疾患様症状を呈する病態である。
その発症機序として、胆道系に存在する括約筋群の攣縮や、
胆汁排泄システム(主に胆嚢)の機能不全に基づく
胆汁うっ滞などによる胆道内圧の亢進が考えられている。
本疾患の根本的病態となっている括約筋の緊張亢進や、
胆嚢の機能低下の原因は不明だが
自律神経やホルモンの異常が関連が推察されている。

胆道ジスキネジーは次の3つの型に分けられる。
①緊張亢進型:胆嚢出口付近の緊張が亢進しているために
胆汁の排泄が遅れる。
②運動亢進型:胆嚢収縮ホルモン刺激によって
胆嚢が直ちに収縮し、胆汁が急速に排出される。
③緊張低下型:胆嚢は弛緩気味で胆嚢収縮ホルモン刺激でも
胆嚢の収縮が不十分で胆汁の排泄が遅れる。
いずれのタイプも
食後に右上腹部やみぞおちの痛みが起こることが多いが、
嘔気、腹部の膨満感、下痢などが見られることもある。
血液検査では胆道系酵素のγGTP やアルカリフォスファターゼ
などの数値が上昇する。
慢性的腹痛がありながら長い間診断に至らないケースも多い。
診断には超音波検査や逆行性膵胆管造影検査を行って
胆道系に器質的病変がないことを確認する。
さらに胆道内圧の測定も行われる。
また、肝臓から胆嚢・胆管への胆汁の流れを観察する
胆道シンチグラフィー(胆汁に取り込まれる放射性同位元素を
用いて胆汁の流れを追跡する)も診断に有用である。
治療にはまず、食事療法、精神療法、薬物療法が行われる。
緊張亢進型と運動亢進型では、脂肪の摂取を控え、胆嚢の
収縮の抑制を図る。
緊張低下型では逆に脂肪を多く摂取し、胆嚢収縮を促す。
薬物療法は、緊張亢進型と運動亢進型には胆嚢の収縮を抑える
抗コリン薬や精神安定剤が用いられる。
緊張低下型では利胆薬、平滑筋収縮薬が用いられる。
薬物療法による効果が不十分な場合、
十二指腸開口部にある乳頭括約筋の緊張亢進例では
内視鏡下に括約筋を切開し胆汁の流れを改善させる。
胆嚢に問題がある場合には、
本症例のように腹腔鏡下胆嚢摘除術が行われる。
本疾患は自律神経不安定型の神経質な人に起こりやすく、
ストレスの影響など心因の関与も否定できないが、
心の問題だけで片づけてしまうには、本人・家族にとって
その症状はあまりにも辛すぎるようである。

コメント (1)
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