ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

雲龍渓谷(ピーカンバージョン):雲龍鍋

2013年04月30日 00時47分40秒 | Weblog
「キャー!!!」とか「ギャー!!!」とか、時々頭上から聞こえてくる。
更には「ガラガラー バリバリー ドスーン!」といった不気味な音もすぐ後ろから聞こえてくる。

この不気味な音は、雲龍瀑のでかくぶっといつららが滝壺へと落下する音。
そして割れた時の衝撃音や転がったりする時の音だった。
「もう少し安全な場所の方がいいかな・・・」
そう思いながらも、既に具材を入れ煮始めたこともあり、移動はせず滝壺で調理を続けた。



今日の昼飯は「キムチチゲ鍋うどん」だ。
辛みのスープに白菜、えのき、水餃子、そしてうどんなどの具材をたっぷりと入れた名付けて「雲龍鍋」。
ただ単に場所の名前を付けただけのことであって、スープの味や具材が何であれ関係ないのが本当のところだが(笑)。



あふれんばかりの具材だったが、徐々に煮詰まると鍋の中に収まっていった。

今日は暑い!
このピーカンにキムチチゲはちょとミスマッチだったかなとも思ったが、雪(氷)景色の世界で食べれば何でも美味いだろう。

だんだんといい匂いがしてきた。
「早く食べたぁ~い」
と次の瞬間「ギャー~~!」という悲鳴。

「りょうちん、もうすぐできるよ」
と今度は「バリバリガラガラ ドッシャーン!」と、でかいつららがすぐ傍に落ちた。

何となく落ち着かない食事になりそうだ。


これは別に酔っている写真ではない。
美味そうな匂いに喜んでいるだけ。

「よっしゃぁー! りょうちんできたぞ♪」

ではいただきます。 m(_ _)m

日帰りにしては水や具材の重さで結構ザックの総重量はあった。
(「これで帰りは楽だな・・・」)
食べることよりも、ザックが軽くなってくれることが嬉しかった。
しかし、いざ一口食べてみれば・・・。
「うっめぇ~~♪」
できあいのスープとはいえ、実に美味い「雲龍鍋うどん」だ。
我ながら今でももう一度食べたいと思える味だった。



やや味は濃かったが、半日汗をかきながらここまで来た体には、逆に嬉しい「濃さ」だ。
フリーズドライのお手軽簡単調理は確かに楽だが、たまにはちょっと手を加えてみるのもいいものだ。
日帰りならではの、一度きりの調理だからこそできる贅沢昼食と言ってもいい。

食後に、りょうちんが作ってくれた珈琲もまた美味かった。

でもって本日の“SURPRISE”の登場となる。

雲龍渓谷(ピーカンバージョン):悲鳴轟く雲龍瀑

2013年04月28日 22時19分42秒 | Weblog
氷柱の付近には割れた氷柱の「かけら」やつららが一面に落ちていた。
太さはまちまちで、太い物になると直径が1メートルはあろうかと言うほどのものがあった。

一面すべてが氷に覆われており、そこに数多の氷柱が落ちているわけであり先へ進むには注意が必要だ。
アイゼン無しでは一歩一歩がかなり厳しい。
先ずは「雲龍瀑」へ行こうと思ったのだが、またまたりょうちんが・・・(笑)。



何十㎏あるのかはわからないが相当な重量であることは見当が付く。
自分は自分で早くシャッターを切ってあげればいいものを、わざと「おっ!りょうちんガンバガンバ!」などと言ってじらしてやった。

急登ではあったが、10分もあれば滝壺へ着くことができた。
見上げれば、それは見応えのある氷の滝である。
しばし佇み氷の滝を見上げた。

声が聞こえる。
一人は滝上の方から男性の声だった。
もう一人は下の方から女性の声だった。
アイスクライミングのペアだった。


「すっげぇなぁ・・・でもよくやるよなぁ。」
感心しながらも自分にとって未知の世界のことであるだけに見ているだけで恐怖心が生まれてきた。

[赤丸部分が女性クライマー]


[アップの写真]

凄いことは凄いのだが、困ったことに時折「キャ~~!!!」とか「ギャ~~~!!!」とか、断末魔のような女性の悲鳴が聞こえてくる。
食事の準備をしながら、悲鳴が聞こえてくるその度に振り返っては見上げた。
これでは食事作りに専念できるはずがない。
ましてや落ち着いて食べることなどできないだろうなぁ(笑)。
もし「滑落」などの事故が起きてしまったら、たとえ食べている最中であっても救助活動の協力をすることになる。
協力は当然のことではあるが、あの悲鳴だけは勘弁して欲しいなぁ(笑)。

さて、今日の昼飯は「鍋」だよ♪
りょうちん待っててね。

雲龍渓谷(ピーカンバージョン):氷柱

2013年04月25日 21時59分40秒 | Weblog
スタートから約3時間30分、目指す氷柱が見えてきた。
近づくに連れ、その高さ太さに感嘆の声が上がる。


「すっげぇー!」とか、そんな言葉しか出てこなかった自分が恥ずかしいが、将に「凄い!」のひと言に尽きる見事な氷柱だ。
一番太いもので直径数メートルはあるだろう。
自然だけがなせる「業」、「創造物」であることを改めて思い知らされた。

さっそく触れてみた・・・が、りょうちんは・・・(笑)


自分はと言えばすぐに登りたがる性格(タチ)のようで、どこまで登れるかチャレンジしてみた。


氷柱は太いが一本一本の氷は意外に脆く、ピッケルを打ち込んでみたが深く突き刺さることはなく、崩れるように割れた。
「危険だし、自然を壊すようでやだな・・・」
後から来るであろう人達の為にもできるだけこのままの状態であるべきだと反省した。

この氷柱は裏側にもまわることができた。
だが、写真のように氷の坂を登らなければならない。
アイゼン無しでは為す術もないポイントだった。


情報によれば、暖冬の影響で以前よりも氷柱の数や太さは減っているという。
もちろん降雪の日であれば、また違った顔を見せてくれるのであろうが、ここ数年はかなりの人気スポットで訪れる人の数は年々増えているらしい。
「あぁ~もっと早く、去年の内に来るべきだったなぁ。」



これだけの氷に囲まれた世界は生まれて初めてだ。
雪とはまた違った冬の情景に感動しっぱなしだった。

「さぁて、ちょっとひと登りして滝壺へ行こうか!」
「腹減りましねぇ(笑)」

今日は食後にちょっとしたサプライズを準備した。
ここ(雲龍渓谷)ならではのサプライズが楽しみでならない。


雲龍渓谷(ピーカンバージョン):遊んでばかりでゴメンね♪

2013年04月21日 23時49分46秒 | Weblog
再び川を横断し登攀となった。
わずかな登りであり、しばらくゆるやかな傾斜を進むと急に開けたポイントへと出た。
ここが別ルートとの合流点らしい。

ここにザックをデポし、最深部へと向かっている人達がいた。
また戻ってきて、食事をしている人もいた。
ちょっと小腹は空いてはいるが、今日の昼飯は「雲龍瀑の滝壺で」と決めている。
ザックは下ろさず渓谷の上流へと向かった。



左右の岩肌にへばりついている巨大つららは、次第にその姿を「氷壁」へと変えていった。

「友しらず」と呼ばれる氷壁があるはずだったが、まだ見えてこない。
画像でしかしらないその氷壁に胸躍る思いだ。

スタートからここまで3時間近くもかかっている。
そりゃそうだ。
厳冬期の芸術品に目を奪われっぱなしで、立ち止まってはしばしながめ写真をパチリ。
ずっとその連続だった。
今日はそれほど急ぐ行程でもない。
自然を愛で、楽しみながら行こう♪

やっと「友しらず」のお出ましだ。

全体像を写真に収めることはちょっと難しかったが、じつに見事な芸術品だった。
なんとか向こう岸へ行けないかとルートを探し、川を渡った。
「でかいなぁ~」
ため息が出る。


こうして人間と比較すればその氷壁の大きさが分かる。
もちろんこれは氷壁のごく一部に過ぎない。
アイゼンとピッケルでちょっとだけでも登攀をと試みたがあまりにも危険過ぎた。
当たり前のことだが、アイスクライミング専用のギアが無ければ無理である。


それでも最高に気分が良い♪
圧倒されながらも、初めて氷の壁にへばりついていることが嬉しかった。
りょうちん、昼飯はもうちょっと後になってしまうかな(笑)。
かといってあまりここで遊んでばかりもいられない。
先へと進まねばいつまで経っても雲龍瀑にお目にかかることができない。


足下は雪、両サイドは氷壁という世界に足を踏み入れることがこんなにも素晴らしいとは・・・。
自分の予想を遙かに上回っていた。
そして今度は、青空以外はその殆どが氷の世界へと自分たちをいざない導いてくれることになる。
そう、もちろん足下もすべて氷の世界だ。

雲龍渓谷(ピーカンバージョン):つららは痛い!

2013年04月18日 00時39分36秒 | Weblog
本来であればヘルメット不要のトレッキングなのだが、今日は氷上を歩くことが多くなることから「転倒」が懸念された。
また、見たこともないようなでかく長いつららの束がお目にかかれることもあり、ヘルメットを着用しての歩きとした。

雪上を歩くとほどなくして岩の壁が目に入った。
そしてその岩壁にはでかく長いつららが形成されていた。
わずかにしたたり落ちる水が、この冬の氷点下にさらされて出来上がったのだろう。



これだけでも見事だった。
これほどのつららは見た記憶がなかった。
しかし、この程度のものはまだ序の口であることを数時間後に知らされることになる。

さっそく大自然の造形美に触れてみた。
いつ瞬時につららが崩れ落ちてくるかは分からないため怖さはあったのだが、感動はその怖さを上回っていた。
「ねぇりょうちん、このつららで何杯分のオンザロックができるかな?」
などとおバカな質問をしたが、りょうちんはりょうちんでつららで遊んでいる(笑)。



「いてぇ~!」
と、言ったかどうかは分からないが、まったくもって子供なんだからぁ。
・・・かく言う自分もやってみた(笑)。

今自分たちが歩いているポイントは本来であれば「稲荷川」と呼ばれる渓流である。
それ故に川石がごろごろとあり、その表面を雪が覆っているに過ぎない。
固く締まっている部分もあるが、所々は雪面が柔らかく足は膝上くらいまで埋もれてしまう。
それが恐かった。
つまりは、どれほど大きくても目には見えない石と石の隙間に足がはまってしまうわけであり、「捻挫」などの怪我を負うことも十分に考えられるのだ。

できるだけトレースに沿って進んだ。
それでも初めて訪れたこの地の芸術品に目を奪われっぱなしだった。



見とれてしまうなぁ。
右を見ては「おぉ~」
左を見ては「おぉ~」
そんな具合だからなかなか先へと進まない。

ここから僅かに山を登るのだが、目印であるピンクのテープを見逃してしまい、川沿いを進んだ。
結局は行き止まりの様な感じとなり戻らざるを得なかった。



少々ブーツが濡れてしまうのは致し方のないことだが、水深に関係なく水の中だけはごめんだ。

登ってはすぐの下りとなり再び川沿いを歩いた。
そしてまた川を横断する。

渓谷の最深部へと一歩ずつ踏み入れるに連れ、周囲の造形美も徐々にあでやかさを増し、未曾有の氷の世界を見せて(魅せて)くれはじめた。

雲龍渓谷(ピーカンバージョン):林道は退屈だ

2013年04月16日 00時54分51秒 | Weblog
昨シーズンの冬、計画倒れとなってしまった山があった。
正確には「山」というよりは、半ば氷の世界を満喫するトレッキングと言った方が合っている。

栃木にこんな素晴らしい景観ポイントがあるとは、実際に訪れてみて驚いた。
厳冬期の、しかもわずか数週間しか見ることのできない氷の世界だった。

2月1日、職場の仲間であるりょうちんと二人で日光にある「雲龍渓谷」へと向かった。
先ずは日光東照宮の裏手にある林道を車でどこまでも行く。
途中に「車止めゲート」があり、そこまで車は入れるのだが、すでに何台かの車が駐車してあった。
かなりの人気スポットで、早い者勝ちの狭い駐車スペースだけになんとかセーフだった。

今日は間違いなくピーカン。
厳冬期ではあっても汗をかくことは予測できる。



アルパインブーツに履き替えさぁ出発だ!
「りょうちん、今日は男二人の冬山だし、思いっきりバカなことをやって楽しもうぜ!」
「いえ、僕は真面目ですから・・・。」
「何を今さら無駄な言い訳を!」

しばらくは林道に沿って登って行く。
路面は雪だが、日陰になっている部分は完全凍結状態。
バカなことを言いながら歩いているだけに、時折「おっとっと!」てな具合で転倒してしまった。


ひたすら上り坂を行く。
本来であればアイゼンを装着しても良いのだが、ここから先に渓谷沿いのルートがあり、そこまではつぼ足で進んだ。

10分も歩けば汗をかくほどの好天だった。
斜度はそれほどきつくはないが、のどが渇く。
「管」の凍結が懸念されたため、今日はハイドレーションは備えてはきていない。
「サーモフレックスパック:1.5㍑」、所謂「ぺしゃんこ水筒」ってやつを持ってきた。


道の片側は斜面になっており、足跡一つ無い雪面となっていた。
こういうスペースを見つけると人間という生き物は何故か「跡」をつけたくなってくるようで、りょうちんもその一人。
雪面の上に大の字になって飛び込み人型の跡をつけた。
まったく恥ずかしいったらありゃしない。
他の登山者がいなかったからいいものを、思わず他人のふりをしてしまいたいほどだ。
(実は「りょうちん行けーっ!」と言ったのは私です 笑)

40分も登り続けただろうか。
「稻荷川展望台」に到着した。
小休止をするには丁度良い場所だ。



この展望台から「日向砂防ダム」が見下ろせた。
そしてその奥には雪を纏った女峰山などが見える。
「登りたいなぁ」と思うが、今日はおあずけだ。

地図によれば、先に見える雪山のすぐ真下あたりが今日の目的地である「雲龍渓谷」そして「雲龍瀑」である。
実に楽しみだ。

展望台から更に30分も歩いただろうか。
「洞門岩」と呼ばれるポイントに着いた。
ここからルートが二手に分かれるのだが、一方はこのまま林道コースをひたすら登る。
もう一方は坂を下り渓谷に沿って進む。
結局は同じポイントで合流することになるのだが、「どちらを選ぶ?」と問われれば、迷わず「渓谷コース」と答える。
事前にコースの状況などは人から聞いたり、ネットで調べてはあったが、実際にどの様な渓谷で、その難易度や危険度は未知数な部分があったことは事実だ。
それだけにある種の期待感もある。

洞門岩でアイゼンとヘルメットを装着した。
いよいよここからが本来の目的である厳冬期の渓谷歩きだ。



いざ、渓谷コースに向かって出発!

と、いきなりの川越えだった。
トレースはしっかりとついてはいるが、石の上をアイゼンを装着した状態で越えるのはちょっと緊張する。
いくらブーツが完全防水で川の深さはさほどではないものの、ブーツの中に水が侵入してしまうことだけは絶対に避けなければならない。
下手すれば指先が凍傷になりかねないし・・・。



ここは一歩ずつ慎重に渡った。
だが、この先何度となく川越えをすることとなる。

雪の降る夜:驕ることなかれ

2013年04月14日 23時31分53秒 | Weblog
強烈な西風だった。

三脚が立てられるだろうかという不安はあったが、ピッケルで固い雪面を少し掘り、その穴に脚を埋め込むようにして三脚を固定して記念写真を撮った。



すぐにでも下山をしようと思っていたのだが、周囲の山並みが思いとどまらせた。
南に赤岳を主峰とする八ヶ岳連峰。
西に中央アルプス、そして北アルプス。
「参ったなぁ・・・こんなのってありかよ。」



いつかは登ってみたいと思っている冬の赤岳がすぐ目の前に屹立している。
クライマーでも何でもない、唯の山好き男に過ぎない自分だが、いつしか雪山に魅せられ今ここにいる。
たかが天狗岳かもしれないが、まさか独りでテントを担いで冬山に登ろうとは、つい数年前には考えられないことだった。



3000メートルクラスの冬山登攀は将に憧憬そのものだ。
「俺の技術じゃまだ無理だろうなぁ・・・。」
「いや、気持ちの問題だよ。」
そんな相反する思いを抱きながら下山を開始した。

下山はほぼ同じルートであったが、わずかに45分で小屋まで戻ってくることができた。
それほど腹は減ってはいなかったが、ここから登山口まで下山しなければならないことから小屋のスタッフに頼んで「山菜うどん」を作っていただいた。


小屋の中は自家発電を用いているために、省エネ対策として灯りは殆ど消していた。
確かに薄暗いが、その薄暗さが木のぬくもりを感じさせる色合いとなって視界に入ってきた。

汗をかいた体にはうどんの汁が最高に美味かった。
唐辛子をたっぷりとかけ、体が芯から温まってくるのが分かった。

「ごちそうさまでした。では下山します。お世話になりました。」
そう言うと、「天気はいいから焦らないでゆっくり下りてくださいね。どうぞ気をつけて、また来てください。」
丁寧にお辞儀をされ恐縮した。

再びあの重いザックを背負うことになるのだが、食料が減った分だけ軽くなっている。
まぁ大した減量ではないが、昨日よりは楽・・・なのかな。

下山のルートタイムは、途中休憩を含めてなんと1時間15分だった。
やや急ぎ足ではあったが自分でもビックリだった。



スタート地点の橋が見え、温泉宿を過ぎてからアイゼンを外した。
テントの中以外は、ほぼ丸二日間アイゼンを装着していたことになる。
「お世話になりました。」


タクシーを呼んだが、ここまで来るのに40分ほどかかる。
その間、女房にメールを入れた。
「無事下山。夕食は家で食べる」
いつもの素っ気ない文面だ

職場には電話連絡をし、登頂と下山の報告をした。
怪我の有無と天候を心配していただいたが、目標達成に喜んでくれた。

今回は初めてのソロによる雪山テント泊。
辛口自己採点をしたが、8~9割は達成できたと言えよう。
しかし、そこに落とし穴があることを忘れてはならない。
強風ではあったが、天候にも恵まれたこと。
そしてそれによりルートを見失うことなく登頂できたこと。
上手くいったからと行って驕ってはならないのだ。

最も恐いことの一つが「驕り」だ。
数回の山行が成功すると、「俺はもう大丈夫だ。山には慣れている。」
そんな錯覚をしてしまうことがある。
それはたまたま上手くいっただけのことであり、全くの偶然に過ぎない。
確かに準備や装備、事前の下調べなどはしっかりとやった。
それでもラッキーなだけだったに過ぎないことを、決して忘れてはならない。

「赤岳」のリタイアがそのいい例であるように。



雪の降る夜:誰もいないPEAK

2013年04月09日 00時28分30秒 | Weblog
もうすぐ「天狗の鼻」というところで一息入れた。
特に疲労があったわけではないが、何故かこの強風の中で煙草を吸ってみたくなったのだ。

わかりきったことであったが、ライターの火が着かない。
風下に体を向け、ジャケットで周囲を覆い防風効果を高めても強風には勝てなかった。
こうなると意地でも吸ってやろうと思うが、何度チャレンジしてもダメだった。
「そっか、強風が弱まる一瞬の刹那を狙って・・・。」

成功した。
グローブを外さなければ着火できないため、手首から先がかじかみ、煙草を挟んでいる指の感覚が無くなってきた。
意地でも一本吸ってやろうと思った。
「美味い! 寒すぎて美味くないけど・・・美味い!」

ついでにチョコレートも食べた。
顔面が寒さで強ばっている。
恥ずかしい話だが、チョコを口に入れ、口を閉じて溶かしている途中で口を開けると瞬時によだれが流れ出し、そのよだれが強風に乗って飛ばされて行く。
「美味い! 甘すぎるけど今は美味い!」

ルートが明確になったという安心感から気持ちにゆとりが出てきたんだろう。
そう、もう慌てる必要などないんだ。
慎重に登ればそれでいい。

ここまで登ってきて何となくではあるが分かってきたことがあった。
雪面の見分け方だ。
つまり、この雪面であればそれほど埋もれることはないだろう。
ここはやばそうだ。腰くらいまで埋もれてしまうかも知れない。
100%の確証ではないが、徐々に的中してきた。
表面が氷のようになっていれば誰でも分かるだろうが、たとえその様な表面でなくてもだいだいの見分けがついてきた。
そしてそれ以降はかなりスムーズな雪面登攀をすることができた。

さぁ、天狗の鼻を越えよう。



よりによって強風がまともに当たる西側をまわらなければならない。
足下も岩だらけだった。
一歩ずつ慎重に進んだ。
ゆっくりと三点支持で行くと、その先にPEAKと思われる柱が見えた。
「もう少し・・・。」

左は岩の壁、そして右は谷。
ここは決して慌ててはならないポイントだ。



岩の上にアイゼンを乗せる時も、一発で乗せて越えるのではなく、二・三度踏み直すようにしてグリップを確認した。

風が強い。
幾度となく煽られながら一歩ずつ・・・。

ちょうどその時だった。
自分のすぐ右手横、数十メートル先の谷間をヘリコプターが飛んで行った。
おそらくは黒百合ヒュッテに向かっているのだろう。
気持ちにそれほどの余裕はなかったのだが、パイロットに手を振った。
パイロットの方もそれに気付いてか手を振ってくれた。

こんな強風の日に天狗の鼻にへばりついている馬鹿は自分一人だけだし、いくら青いジャケットとは言え目立っているんだろうなぁ(笑)。

ヘリが通り過ぎ、再びPEAKに向け登りだした。
「あと5分・・・かな。」

アイゼンの爪が硬い雪面をほどよく噛んでくれている。
ピッケルのスピッツェもいい感じで刺さる。



11時09分。
東天狗岳、標高2646メートルに登頂。
所要時間、1時間45分。
自分の他は誰もいない
いい歳をして思わずバンザイをしてしまった(笑)。






雪の降る夜:ジグザグ登攀

2013年04月07日 00時51分12秒 | Weblog
「天狗の裏庭」あたりから岩場が目立ち始めた。
アイゼンを踏み込むと「ギシッ!」というような岩を噛む鈍い音が聞こえる。


岩の上にアイゼンを乗せる時はちょっと慎重になる。
岩の形状(カーブ)に合わせて、絶対と言うほどに靴底は曲がらないために捻挫をしやすいからだ。

目の前に樹林帯がある。
おそらくはこの樹林帯を抜ければ稜線へと出るだろう。
そしてそこからは強風との闘いになることは明らかだ。
樹林帯に入る前にもう一度稜線を見上げた。
やはり風は強い。
時折「ブワッ!!」っという感じで稜線上の雪が大きく強く舞い上がっているのが目視できた。

何となくではあったが、稜線に沿ったトレースも見えた。
「あそこまでなら沿って行けるかな・・・」
心細い思いであったが、後は誤りの許されない自分の判断力だけが頼りだった。


樹林帯の中で山肌のルートを考えながら進む。
「少し西寄りに登るか・・・」
そんな程度しか思いつかなかった。

樹林帯の中には雪に埋もれかけているトレースがあった。
おそらくは昨日のものだろう。
いよいよ樹林帯を抜ける。
その前にバラクラバをかぶり、ゴーグルをかけ、アウタージャケットのファスナーを上まで引き上げた。

先ずはトレースに沿って登攀開始。
だが、そのトレースもすぐに完全に消えてしまっていた。
雪面は思っていた以上に固く、アイゼンの爪痕しか残らない。
「これじゃぁトレースなんて当てにできないのは当たり前か・・・」
こんな時になってまで他人のトレースを当てにして登ろうとしている自分が情けなくもあった。
「今があの時の反省を生かす時だろうなぁ・・・」
そう思い、地図とコンパスと高度計を基に現在地からルートを考えた。

「あの時」とは・・・。
そう、12月に登った安達太良山の時だ。
登頂はしたものの、下山ルートを誤った時のことだ。
勝手な思い込みやおぼろげな記憶だけで「たぶん・・・こっち」。
結果は散々たるもの。
挙げ句の果てに極度の低血糖症にまでなってしまったあの時だ。
一度あったことは二度あってはならない。

幸いに視界は良好だ。
周囲の地形の形状をも含めて自分の位置とコースを確認できる。
東側の稜線より標高を上げながら西に登攀を続けた。


無茶苦茶風が強い。
何度か強風に体を煽られた。
雪面の雪の固まりは雪ではなく大粒の氷の様に固く、風で運ばれ顔面に当たってくる。
それがまた痛いの何のって(笑)。
いったん脱いでしまったバラクラバをもう一度かぶり直した。

徐々にだが標高は確実に上がっている。
上がってはいるのだが、スムーズな運びではなかった。
ピンポイントで雪面が緩いところがあり、そこにはまってしまうと体は胸近くまで埋もれてしまう。
事実何度かはまってしまい、なかなか抜け出せないで足掻いてしまった。
また、岩が進行の邪魔をし、進みたい方向を変えざるを得なかった。
つまりはジグザグに登攀していることになる。

「落ち着け。地図を見ろ。」
自分に言い聞かせる。
地図を取り出し、高度計の数値から大凡の位置を割り出した。
周囲を見渡すと、北の方角に「黒百合ヒュッテ」の建物が見えた。
地図に記入してあった磁北線、コンパス、ヒュッテの位置関係、西側の谷などを含めて「ここだ」と言えるポイントを絞った。
そして、事前にネットで調べておいた重要なヒントがあった。

『天狗の鼻のほぼ真下(北側)に、十字の標識があるので、その標識から西側(右側)へは絶対に行かないこと。
標識の左側を目指してください。
谷側(西側)に出てしまうと大変なことになります。』

という経験者のアドバイスだ。

目を凝らして見渡すが、まだ標識は確認できなかった。

再び斜め上に向かって西側に登った。
そして地図で確認。
どうやら僅かながら西側に来すぎてしまっているようだった。
少しずつ軌道修正を図った。
そして遂にあの十字型の標識を発見!


     [赤丸の部分が標識]

トレースもついている。
ギリギリと言えばギリギリだったが、軌道修正をしたことは間違ってはいなかった。
「良かったぁ~。地図の見方、コンパスの使い方を知ってて良かったぁ~」
大したことではなくとも、基本は疎かにしてはならないことを改めて痛感した瞬間だった。

後は天狗の鼻の西側を巻くように登ればよい。

ここまでの所要時間、休憩を含めて1時間20分。
ジグザグに進んでしまった割りには思っていた以上に早かった。

雪の降る夜:アタック開始

2013年04月03日 00時16分12秒 | Weblog
朝食はごく簡単にお茶漬けごはんと味噌汁、シリアル、そして珈琲だ。

荷物を整理していたおかげで後片付けとテントの撤収は素早く行うことができた。
普段は整理整頓が苦手な自分なのだが、何故か「山」となると人が変わったようになる。
女房にもよく言われることで、「まったく登山用具だけはきちんとしているんだから・・・」
(はい、すみません m(_ _)m)

メインのザックを小屋に預け、小型のアタックザックのみを背負ってスタートした。
時間にして1時間40分ほどが雪山の標準コースタイムとなっている。
予定より1時間ほど遅れてのスタートとなったが、日程の中では幅を持たせて組んであるので昼頃には戻ってこれるだろう。


夜間に雪が降ったとはいえ、前日までのトレースがしっかりと着いており安心した。
一応アイゼンは装着しており、膝近くまで雪に埋もれながら針葉樹林の中を進んだ。



ほどなくして「中山峠」に到着。
実を言えば、この中山峠は20年以上前に初めて八ヶ岳登頂を目指した夏山の時に通過していた。
あの時は白駒池から中山峠を経由してオーレン小屋でテント泊。
翌日に赤岳登頂をした。
だから天狗岳は過去に一度登っているわけである。
されど遙か20年以上も前の、しかも夏山。
記憶をさかのぼっても何も出てこなかった。



しばらく進むと正面に目立ったPEAKが見えてきた。
(「ひょっとするとあれが天狗のPEAKか・・・」)
先ずは地図で確認だ。
間違いない。方角、位置、形状からしてあれが東天狗岳だ。
だが、事前の調べでは今いるポイントからはPEAKは見えないとのこと。
おそらくは「天狗の鼻」と呼ばれる大きな岩だろうと推測する。

更に静かな樹林帯を進むとちょっとした急登攀となった。
高さはそれどほではないが、雪の壁のようになっていた。
そして樹林帯が切れ、青空には眩しい厳冬期の太陽が見えている。



「そろそろ天狗の裏庭あたりなんだけどなぁ・・・。」
そう思いながら急斜面を登った。
ザックが超軽量なだけに足取りも軽い。

登り終えると、そこには一面雪の平原が広がっていた。
そしてその先には、東と西の両天狗岳がどーんと迫ってきていた。



いいねぇ。
やっぱり今だけしかお目にかかれない、今だけしか感じ取ることができないものがあるってことか。
しばし立ったままでこの雪景色に見とれてしまっていた。

「ちょっと一服するか。」
そう思い、煙草に火をつけゆっくりと煙を吐いた。
周囲を見渡せば、西側には中央アルプスや北アルプスの連なった白い山脈が見えた。



言葉にならない風景だった。
「やっぱりアルプスはスケールが違うなぁ。」
心からしみじみと思える。
これも好天に恵まれたおかげであることは間違いない。

地図を取り出し、ルートを確認しながらもう一度東天狗岳を見た。
「ん? 待てよ。あの舞い上がっているものは・・・。 やっぱりそうか。」

真正面に見えている東天狗岳は、東側の稜線上がコースとなっている。
しかしその稜線上には、白く大きく舞い上がっている雪がはっきりと確認することができた。
今この場所ではほとんど感じ取ることのない風が西から吹いているのは間違いのないことだった。
風はかなりの強さであることは予測できる。
だが、それがどの程度なのか。
耐風姿勢を取らなければならないほどなのか。
それともアイゼンとピッケルで踏ん張れば登攀できる程度のものなのか。

いずれにせよ、本来のルートコースである東稜線上は避けた方がベターであろう。
強風で体ごと谷底に吹き飛ばされてはたまらない。

あまりのピーカンに浮かれていた自分への戒め的な強風であり、「不安がらなくてもいい。緊張感と集中力を忘れるなよ。」と言われているような気がした。