ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

やっと雪の世界へ:滝壺へ

2016年03月30日 23時35分00秒 | Weblog
久しぶりに「雲龍渓谷」を再開したい。

「友知らず」を過ぎればすぐに氷柱のある通称「神殿」へと辿り着く。
例年と比べれば少々物足りなさを感じる氷柱ではあるが、初めて見る彼女にしてみれば「うわぁ~~きれい」の言葉の後に、感嘆符が5つは付くのではないかという程感動してくれた。

氷柱に近づくと、その奥には高さ約100mの「雲龍瀑」が見えた。
「あれが雲龍瀑だよ。どうする、滝壺まで行ってみる?」

滝壺まで行くかどうかは、はっきり言って彼女の返事次第で決めようと考えていた。
決して無理強いはしたくないし、無理強いできるようなルートではない。
「行けるところまでは・・・」という、なんとも中途半端な返事ではあったが、いざとなれば自分のピッケルを使ってもらおうと考えていたし、彼女には内緒でアンザイレン用のザイルを準備してきていた。

しばらくはこの氷柱に感動してもらおう。

ここから滝壺へ行くには、先ず急斜面を登らなければならない。
距離は短いが、落ちたらかなりやばい区間だ。
その登り口に一人の男性がいた。
行くかどうか迷っている彼女にその男性が一言。
「連れて行ってくれる人がいるうちに行った方がいいよ」
その一言で彼女の腹が決まったようだ。

カメラを向けるとすぐにポーズをとってはくれるのだが、はっきり言ってここはかなりの斜度だ。
これを余裕ととるかどうかは難しい。

途中、一ヵ所だけなかなか足を上げられずに苦労したポイントがあったが、それでもここまで付いて来ている。
距離をあけないよう配慮はしているが、実を言えば滝壺へのルートは全くのノートレース状態だったのだ。
ノートレースであることそのものに問題はないのだが(むしろ嬉しい!)、スタンスポイントの間隔が彼女用にしなければならなかった。
身長差がかなりあるためそれは当然のことであるが、ついそれを忘れてしまい、彼女に辛い思いをさせてしまった。
これは大いに反省しなければならないことだ。


滝壺へ下る手前に、急斜面をトラバースしなければならない。
「大丈夫かな・・・」本当に心配だった。

できる限り細かなアドバイスをしながら様子を見るが、これなら滝壺まで行けそうだ。

ハイ、またポーズ♪
もう~こっちは心配してるのに(苦笑)。
このポイントは結構危ないぞ。
落ちたらちょっとの怪我では済まされない。
ん、ひょっとして彼女は自分が思っている以上にビビってはいないのではないか・・・。
相当なポテンシャルを秘めているのではないか・・・。
そう思えてならないくらいのゆとりを感じる。


ここまで来ればもう安心だ。
ここを下れば滝壺であり、やっと昼食にありつける。

それにしても本当によくここまで付いてきたものだ。
それとも自分が心配しすぎなのか・・・。

「生かされている」という想い

2016年03月18日 00時07分01秒 | Weblog
2月に上る予定だった八ヶ岳(赤岳)は、インフルエンザで断念。
そのリベンジとして先日八ヶ岳へ向かった。
詳細は後日として、今回の雪山登山で感じたことを綴っておきたい。

本来予定していたコースは「硫黄岳→横岳→赤岳」の縦走コースだった。
アプローチの日はまずまずの天候で、午後は汗ばむ程となった。
しかし天気予報では明日は降雪。
「ホントに?!」
と思う程、初日の天候は良く、夕方になっても明日の雪が信じられなかった。

翌早朝、外は吹雪いていた。
おまけにかなりのガス。
「赤岳にするか・・・」

硫黄岳は雪山としては初級コースであり、さほど難しい技術はいらない。
だが頂上は広く、一端ガスってしまうとルートを見失いやすいため、決して侮れない。
そして去年の失敗からも、降雪直後の横岳は避けたかった。

素直に赤岳のみに決定し、文三郎尾根から登攀開始。
いきなりのノートレース状態。
「昨日あれだけの登山者が登ったのに・・・」
登攀開始直後はまだ足首程度までしか埋もれてはいなかったのだが、徐々に標高を上げるに連れラッセルに近い登攀となった。
幸い樹林帯の中はルートが溝のようにはっきりとしており迷うことはなかった。
それでも雪は間断なく降り続いている。

樹林帯を抜け、森林限界線の2500mを越えると鉄パイプの階段の手すりが頼りだった。
ルートの目印としてありがたかったが、積雪に足を取られてばかりで、体力の消耗が気になる。
視界は20~30m程だろうか。
見上げた先にフラットであろうと思えるポイントが目視できた。
「あそこで休憩しよう」

ポイントに着いたのは良いが、周囲に風を防いでくれる物が一切無い。
まともに向かい風を受けるのはさすがに厳しく、背中を風上に向けて一息ついた。

休憩後は再び風上に向かって登る。
分岐点はまだ見えてこない。
と言うより、ガスで視界が悪く分岐点の指標が目視できないのだ。

ラッセルは膝までとなっていた。
足を上げるのが辛かった。
「今日もまた誰一人とも会わないんだろうなぁ・・・」
そんな愚痴にも近い思いが出始めた。

ガスの隙間から一瞬だけ指標が見えた。
ルートファインディングのミスが無かったことがことのほか嬉しかった。

ここでも一息ついた。
ここから先は岩稜地帯のルートとなることは分かっていた。
PEAKへ向かう最後の難所だ。

「あと標高差100mちょっとでてっぺんだ。 頑張ろう・・・」
そう思いながらゆっくりと登り続けた。
ややルートから外れても、できるだけ岩が見えている上を探して登った。
ラッセルをしなくて済むからだ。
もちろんそれが楽だからと言ってコースから大きく外れることだけはしなかった。

大きな岩が見えてきた。
「やっとここまで来たか・・・」
嬉しい思いと、危険地帯に入ったことの緊張感が走る。

鎖が見えている。
見えてはいるのだが、見るからに積雪は高く「吹き溜まり」的な感じに見て取れた。

「行けるところまでは行こう」
そう思い、岩と鎖の間のルートに足を踏み入れた。

いきなり腰まで埋もれた。
吹き溜まりの雪とは言っても、この時期の雪は水分を多く含んでいるため重い。
この急斜面で腰までのラッセル登攀が如何に危険であるかなど、自分でも分かっていること。
一歩一歩登ってはいるが、雪が重い。
その時、突起物のような物の上に右足が乗った。
たぶん岩の先端だろうが、それは深い雪の中であり確かではない。
だが、岩の面の上に乗っていた時と違い、一瞬で安定感を失い「ギギッ」というアイゼンの爪と岩とがこすれる音と共に靴(アイゼンのプレート)がずれ、体は右側から崩れていった。
進行方向の右側は崖である。
「まずい!」と思ったが、2mほど吹き溜まりの雪と共に落ちた。
ピッケルで停止姿勢をとるにはとったが、うまい具合に落ちた先の岩の上に足が乗ってくれて止まったようだ。

冷や汗をかいた。
気を落ち着かせルートに登ろうとしたが、同時に「これ以上の無理は危険すぎる」と感じた。
PEAKまであと標高差70m程しかないことは分かっていたが、この先まだ吹き溜まりは続いている。
「こんな赤岳は初めてだ」
自分としては珍しく無理をしない方に決めた判断だ。
もちろん残念であり悔しくもあるが、「この強風と降雪、安全策で行こう。」
それを根性無しととるか・・・、そんなことはどうだっていい。
ビレーも無いまま、この状況で単独で行くことは無謀だ。

同じルートで下山したが、あれだけ深く掘られていた自分のトレースは綺麗に埋もれていた。

赤岳鉱泉小屋に寄って遅い昼食を食べた。
小屋の人から「さっきこの辺一帯に大雪警報が出たんですよ。途中で下山して正解ですよ。」と言われた。
この時期になってこの地域に大雪警報だなどと、殆どあり得ない事だとも言われた。

茅野駅に戻っても雪は降り続いていた。
背中が寒い。
急ぎトイレへ行き着替えた。

翌日、昨日とは一転し嘘のような快晴となった。
「だぁーっ、なんでこうなんだ」
とも思ったが、その日の午後、阿弥陀岳で雪崩が発生。
三名が300mほど流され、一名が死亡したというニュースを見た。

ゾッとした。
すぐ近くのポイントで、しかもガイド付き登山での死亡事故だった。
おそらくは表層雪崩であろう。
場所は違うとはいえ、自分がいたあのポイントもかなりの急斜面であり、雪崩が起きた同じ南壁だ。
運が良かったのだろうか・・・。
亡くなられた方に対して「運が悪かった」などと軽々しくは言えないし、「運」の一言ですまされる問題ではない。
ただあの時、自分の判断と行動は間違ってはいなかった。
もし、そのまま上り続けていたら・・・。
それも紙一重のような判断のもとで・・・。

悪天候の中、スタートから下山までずっと独りきりだった。
いろいろなことを考えながら登った。
弱音も吐いた(吐きまくりだった)。
降雪や強風や吹き溜まりやガスを恨んだ。
自然そのものの当たり前の現象を恨みながら登った。
そしてその自然現象の一つである「雪崩」により人が亡くなった。

「俺はこうして生きている。いや、そうじゃなく、あれだけ恨んだ自然によって生かされているんじゃないか・・・」
自然に対し逆らい抗うのではなく、時に対処し、対応しながらも生かされている。
何となくそんな想いがしている。

やっと雪の世界へ:雪から氷へ

2016年03月02日 23時52分43秒 | Weblog
樹林帯の中の緩やかな上りを過ぎれば林道との合流地点へと出た。
ここは展望台となっており、多くの人達はここに荷物をデポし戻ってから昼食を摂るのが普通だ。
だが、今回は二年ぶりに滝壺で昼食を食べることを計画しているため、デポはしなかった。
小休止を取りすぐに渓谷へと降り、再び積もった雪のルートを歩く。

トレースはしっかりと残されており迷うことはない。

それにしても、どう? この写真、このポーズ(笑)
カメラを向ければ山ガールモデルの「Y」さんを意識してか、必ず斜め上の目線。
「まったく・・・(笑)」と思いながらも、後日写真を見てみればやっぱり楽しい方がいいに決まっている。
自称「綺麗なお姉さん」の彼女、本日は雪山ガールのモデルとなってくれました。

さて、綺麗なお姉さんと一緒にしばらく歩いて行くと遠くに「友知らず」とおぼしき氷壁が見えてきた。

「あれが友知らずの氷壁だよ」と教えると彼女の表情が一変。
そして氷壁に近づくに連れ満面の笑顔と感動の言葉。
過去のスケールからすればまだまだと言える氷壁だが、暖冬の今年に限って言えば上出来だろう。

早速渡渉し、氷壁に触れられる距離まで近づいた。
年に一度の限られたこの時期だけの氷の造形美。
やはり何度見ても美しい。


「こちらが友知らずの氷壁でこざいまぁす♪」
そんな言葉が聞こえてきそうな彼女だった(笑)。