ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

劔岳 平蔵谷:頂へ

2015年10月31日 22時12分19秒 | Weblog
カニのタテバイに登る時、三人組のグループが登り口直前で止まっていた。
「どうしました?」
「いやぁ初めてなので、もう一度確認してから登ろうと思ってるんです。」

そうとなれば事は早い。
「じゃぁ私が登りますから、手がかりとか足がかりとか見ていてください。少しは参考になるかと思います。」
そう言って登り始める前にカメラを渡した。
時々お願いしている「カメラ交換プレー」ってやつで、自分のカメラを渡して撮っていただくというものだ。

不思議だった。
まったく苦にならない。
いや、むしろタテバイ登攀が楽しくて仕方なかった。
これがいい意味での「慣れ」ってことなのだろう。
もちろん気を抜くことはない。
一挙手一投足に集中して登った。






どちらかと言えば単調な動きであった平蔵谷雪渓からやっと解放され、ある意味自由に手足を動かすことのできる岩稜登攀への歓びがあった。
もちろん傷口は痛い。
それでも嬉しい思いが遙かに上回っていた。

後から登ってくる人達の写真を撮った。
御礼を言い先を急ごうと思ったが、ふと見下ろせば苦労して登ってきた雪渓が眼下に広がっていた。

「おぉシュルンドが見えるなぁ。あそこだけはきつかったなぁ。」
そして下山のルートには「平蔵の頭」が屹立していた。
こうして客観的に見てみると、とても自分の力では無理だと思える難コースだ。

カニのヨコバイとの分岐点に着いた。
誰も人がいなかったので、ちょっと寄り道をしてみた。
鎖につかまりのぞき込む様にして上半身を出し、腕を伸ばしてパチリ。

つい先日ここで滑落者が出たばかりという現実を思い出した。

「さて、もう一息だな。」
大きな岩の固まりが積み重なってきた。
いよいよPEAKが近いということだ。
山頂の天候は良さそうで、見上げれば碧空が自分を迎えてくれている。
一歩一歩近づく。

祠が見えてきた。
そう言えば、去年の夏に祠は無かった。
落雷で崩壊してしまったはずだったが、その後建て直したのだろう。
後から来た三人の方に「あそこがPEAKですよ。」と教えると、「いよいよですね。」と嬉しそうに微笑んでいた。

9時20分登頂。
ここまで4時間20分の行程だった。


何度登ってもやっぱり劔はいい!
何度登っても満足感で満ち足りた思いだ。

劔岳 平蔵谷:GALLERY

2015年10月07日 22時51分23秒 | Weblog
しばらく仰向けになったままでいたが、アイゼンの前爪で刺してしまった傷の痛みはなかなか引いてくれなかった。
「さぁて行くか・・・」
疼きを引きずったまま、雪渓の最後を登り切った。
目の前には十数人の登山者が休憩をしていた。
平蔵のコルは、これから登頂を目指す人がカニのタテバイを登る直前に必ずと言って良い程一端休憩するポイントであり、カニのヨコバイを下ってきた人が休憩をするポイントでもある。
つまり分岐点であり、合流点でもあるのだ。

雪渓を登り終え、自己満足で振り返った。
「きつかったなぁ・・・」

多くの登山者達に見られていた。
「ご苦労様」
「やりましたね」
「いやぁ凄いですね」
「こんなところ登ってくることができるなんて知りませんでした」
いろいろな言葉をかけられたが、正直言って傷の痛みで言葉を返す余裕がなかった。

「え~っ、血が出てますよ!」
もちろん分かっていたことだが、こんなにも多くの登山者の前で痛がることの方が恥ずかしかった。
「大丈夫ですよ。これくらいは雪山で何度も経験していますから。」
完全なやせ我慢である。

アイゼンを外す前にシャッターをお願いした。

だが、当然傷の具合が気になる。
スパッツを下ろし、ズボンを膝までまくり上げるとソックスにまで血がべっとりと染み付いており、なかり出血していた。
「本当に大丈夫なんですか。傷薬ならありますよ」
そう言ってくれた方がいたが、ここでもやせ我慢。
「応急処置程度のものならありますから。それに大した傷じゃありませんし・・・。」
(ん~~、本当は痛い!)

水で傷口を洗い、消毒薬をかけ、ガーゼに化膿止めを塗り、最後はテーピングテープをぐるぐる巻きにして完了。
「そんなものでいいんですか? まさかまだ登るんじゃ・・・」
「タテバイですか。もちろん登りますよ。」
この言葉はやせ我慢ではなく、本気の言葉だ。

応急処置を済ませ、ゆっくりと煙草を吸った。
再び雪渓を見下ろした。

目標の第一段階は終わった。
これからは慣れたルートになるが、怪我をした分だけ不安もある。
ピッケルとアイゼンを収め、タテバイへと向かった。