ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

劔岳そして雲海「晴れるといいね」

2020年01月29日 23時42分34秒 | Weblog
日中はそれほど体を動かしていなかったこともあり、登った時よりは空腹感はなかった。
しかし食べなきゃ明日がきつくなるだけ。
やっと雨も上がってくれたことだし、外でお湯を沸かして夕食の準備に取りかかった。
二日目の夕食の定番はレトルト食品だ。
といっても自分が好きなのはカレーではなく「シチュー」。
同じレトルトカレーと比べればやや値段は高かったが好きなのはビーフシチュー。
2パックを持ってきており、ルーの量としても十分だ。
でもっていつもの「コンビーフ」を入れて肉増し増し!


家でもレトルトのカレーやシチューは殆ど食べないが、山で食べればこれがまた美味い!
外で食べれば尚美味い!


フリーズドライの白米が出来上がるまでの時間を含めても15分程で準備完了。
ではいただきます。 m(_ _)m

劔岳は残念ながらまだガスがかかっており拝むことはできなかった。
それでも慣れたテン場とは言え、年に一度(今年は二度)のこの場所で食べる飯は格別な味となる。


N君はご飯の他にカップ麺を持参してきた。
ラーメンは好きだが昼食に食べてしまったし、それに明日下山したらどこか美味いラーメン屋に行く予定なので今回は止めておいた。

日が暮れる前に後片付けを済ませゆっくりと珈琲を飲んだ。
そしてもう一度明日の日程を確認した。
剱には17回登っているが、実を言えば登ったその日の内に完全下山をするのは初めてのことになる。
ましてやテントの入った大型ザックを背負っての完全下山ともなればやや不安にもなる。
体力も無いし・・・、自分が心配になってきた。

ふと振り返れば・・・

やっと顔を見せてくれた。

「晴れるといいね。」
「そう願っています。」

シュラフに入るにはまだ早すぎる。
もう少し体を動かしてからと思い、昼間あれほど歩き回ったテント場を散策した。
少しずつ周囲が暗くなってきているのがわかる。
ヘッドランプを灯しながらゆっくりと歩いた。




明日は晴れるかな。

劔岳そして雲海「ため息の一日」

2020年01月25日 23時34分02秒 | Weblog
早朝5時、フライシートに当たる雨粒の音で目が覚めた。
「はぁ~・・・」
今日一発目のため息だった。
(「やっぱりか。もう少し様子を見るか・・・。」)
再びシュラフにくるまり目を閉じるが、雨音に徐々にいらつき始めた。
6時、隣のN君に声を掛ける。
「ガスで何にも見えないし、この雨じゃ無理だねぇ。一応朝食だけは食べておいて、8時の段階で状況が変わらなかったら今日は止めておこう。明日の下山日の夜明け前に出発すれば間に合うから。」
とは言ったものの、内心「今日はダメだ」というほぼ確定した思いがあった。

8時、状況は何も変わらず。
外へ出てテン場を散策した。
立って歩きたかった。
そうでもしないと縮めたままの体がどうにかなってしまいそうだった。
(「まだ9時か・・・。戻って寝るか。」)
またため息が出た。

しかし、あまり日中に寝てしまうと夜になって目がさえてしまい翌日のアタックに影響が出る。
それは分かっている。
分かってはいるがやることが何もない。
せめて本でもあればなのだが、まさかそんな荷物になるような物は持参してきてはいない。
まぁ昼寝は午後になってからでもいいと思い、テン場内の植物観察をすることにした。

う~ん・・・花が咲いていない。
当然である。
季節はもう秋。咲いている花はごく限られている。
それでも何かしなければ気持ちと体が持たないような気がした。
だだっ広いテント場内を歩き、固まりかけている体を無理矢理動かした。

テントに戻る。
10時を過ぎたばかりだった。
「あ~ぁ」
伸びをするも、狭いテントの中では動かせる範囲は限られている。
仕方なしにうつ伏せに体を横たえ、ジッパーの隙間から劔岳を見る・・・が、濃いガスの中だった。

いつの間にかうたた寝をしてしまったようで、目覚めた時は12時を過ぎていた。
それほど腹は減ってはいなかったが昼食を食べることにした。
非常食として持ってきたカップ麺。
お湯を沸かして注ぐ。
大汗をかいた後のような美味さは無かった。

いつの間にか雨が上がっていた。
食後の散歩ではないが、N君を誘って劔沢小屋まで行ってみることにした。
テン場から約10分程で着くが、それでも時間稼ぎには役立つ。


雨は上がってもやはり剱はガスの向こう。
あの雄々しくも畏怖的な姿は見えない。

小屋の中に入り新平さんに挨拶をした。
小屋を利用していないという申し訳なさもあったが、そんなことを気にする新平さんではない。
しばらく話をし、いつもの土産である「バンダナ」を購入した。
N君は劔沢小屋オリジナルのステッカーを購入。
「ヘルメットに貼りますよ♪」とご機嫌の様子だ。

小屋を後にテン場へと戻った。
雨はすっかり上がっている。
岩に腰を下ろし、明日の予定を話し合った。
4時にスタートをするためには、遅くとも3時には起床。
予定通りに戻ったとしても、スムーズにテントを撤収して室堂に向かうためには、出来るだけ荷物を整理しておくことが大切。
昼食はゆっくりと食べる余裕はないことを前提とし、行動食を多めに持つ。
とにかく室堂ターミナルには16時頃には到着したい。
すべてはそれを逆算しての行動となる。

振り向けば劔岳が顔を見せてくれていた。


「晴れるといいね。」
それ以上の言葉はなかったし、それ以上の言葉もいらなかった。

夕食は外で作って食べられそうだった。
まだ時間はあるが、ため息ばかりの長かった昼間がやっと終わってくれそうだ。

劔岳そして雲海「明日はどうなる?」

2020年01月19日 22時00分14秒 | Weblog
剱沢テント場へとゆっくりと下って行く。
その一歩一歩が劔岳へと近づいている訳であり、N君にとっては胸躍る思いなのではないか。


「圧倒されますね。なんか今までの北アルプスの山とは違う感じがします。」
緊張もあろうが、自分自身と対峙するにはもってこいの山が劔岳だと思っている。


見慣れた、そして来慣れた場所ではあるが、夏とはまた違った趣を見せて(魅せて)くれている。

剱沢テント場へ到着してすぐ設営場所を決めた。
ラッキーなことにいつも設営しているお気に入りポイントが空いており迷わず決定した。
設営はすぐに終わり受付へ行ったのだが、明日の天候がどうやら今一つ良くない。
まぁ初めから分かっていたことではあるが「やっぱり・・・」という感情がまるで曇天のように重くのしかかった。
アタック予定の中日が無理であったなら下山日に登ってしまおうということになっている。
そうなればまだ暗い時間帯に出発しなければならない。


今はまだ青空が覗いている。
(「どこまで崩れるんだろう・・・」)
そう思いながら珈琲を飲んだ。


N君もテントから顔を出せば目の前には「剱」という絶好のポイントに設営。
「たまらないですね♪」

夕食は後片付けを含めてヘッドランプを使用しないで済む程度の時間と決めていた。
少々早いが16時30分くらいから作り始める予定だ。
それまではまだ時間があり、中でのんびりと体を休めていた。


テントの中から剱を見る。
ガスがかかってきていた。
(「大きく崩れなければいいけどなぁ」)
そんな願いを込め、(「明日はよろしくです。」)と両手を合わせた。

ぼちぼち夕食の準備に取りかかるとこにした。
今夜のメニューは中華料理。
いつもの「青椒牛肉絲」とも考えたのだが、具材だけを同じにして味付けを変えてみた。
「回鍋肉」だ。


ピーマン、竹の子の水煮、牛肉(コンビーフ)、そこにもやしとキャベツを入れて炒める。


回鍋肉の素はまだ入れていないが、いい匂いがしてきた。
スープは固形のブイヨンをお湯で溶いただけものだが、これが登山ともなれば侮れない美味さとなる。
具材は青椒牛肉絲の回鍋肉、これなかなかいける!


N君は缶詰の焼き鳥を温め、ご飯はトマト風味のリゾット(フリーズドライ)。

「テントを背負って北アルプス重登山もいいけど、たまには『ゆるキャン』もやってみたいね(笑)。」
「○○さんの柄じゃないですよ。イメージが湧きませんよ(笑)。」
楽しい会話が進むが、やはり明日の天候がどうしても気になる。
予定では7時スタートで十分に間に合うのだが、9時になっても天候が回復しないようであれば明日のアタックは中止とし、最悪下山日の早朝にアタックをすることを確認した。


食後の珈琲タイム。
「本当ならここからの夕焼けが綺麗なんだけどねぇ・・・」
残念ながらガスで劔岳の姿は拝めなかった。
それでも今ここに居ること、それだけでも十分に嬉しいとN君が言った。
嘗ては自分にもそんな新鮮で純な思いがあったのだろう・・・。
もう忘れてしまった、若かりし頃の遠い思い出に過ぎない。

日が落ちる頃になると急激に肌寒さを感じた。
ここは標高2500m、9月の北アルプス。
予備の中間着を着た。

一瞬だがガスが切れ剱が見えた。


今度はココアを飲みながら山談議に花が咲いた。

不思議である。
新鮮さはもう殆どないが、決して飽きない山。
それが自分にとって劔岳だ。
見る度に、来る度に同じことを思う。
決して飽きない山だと。

劔岳そして雲海「初秋に登る」

2020年01月16日 23時44分06秒 | Weblog
一シーズンに二度劔岳に登ることはこれで何度目になるだろうか・・・。
贅沢なことでもありこの上なく楽しみな山行であった。

9月17日、扇沢駐車場を出発し室堂へと向かう。
一緒に行くのは若手のホープN君だ。
北アルプスのあちこちの山は登ってはいるが、劔岳は彼にとってまだ未踏峰。
ガイド兼インストラクターとしてご一緒願えないかというたっての依頼を受け登ることにした。
(「俺が剱のガイドか・・・なんか笑っちゃうなぁ」)と思いながらもやっぱり登りたい。


黒部ダムにて。
ここは写真撮影の定番スポットで、登山者と観光客で賑わうポイントだ。

バス、ロープウェイ、ケーブルカーなどを乗り継いで室堂へ向かういつもの慣れた行程ではあるが、N君にしてみれば一つ一つが新鮮であり、少しずつ劔岳に近づいているという実感が湧いていることだろう。

室堂ターミナルに着き、登山届けを提出。
新鮮な湧き水を汲みいざ劔岳へ!

ほぼ快晴の秋空の元、足取りは軽かった。
「もう少し行くと剱の一角が見えるよ。」
その一言にN君の胸躍る様子が伺える。


ミクリガ温泉を過ぎた辺りで劔岳の北西部(早月尾根)が見え始めた。
「あれが劔岳だよ。」
「おぉ~」という言葉以外に何も出てこないようで、しばし黙ったまま見つめているN君だった。
感動だけでは無いかも知れないが、その気持ちをいつまでも忘れないでいてほしい。
自分とは違い、これからまだまだ続く山男人生にとってその新鮮さは大切だと思う。


ややアップの画像。
「あしたはあそこを目指すんですね。」
その一言が何を意味しているのか・・・。
登頂を目指す意欲だけでなく、「劔岳」という名の持つ畏怖心があることは間違いのないところだろう。


雷鳥坂が一目瞭然で見ることができた。
(赤い線が登頂ルート)
部分的にはこの位置からでもルートを確認することができ、N君に説明した。
「あそこを登り切れば目の前にドドーンと剱が現れるからね!」
ニッコリと笑っていたが、テントを背負って登り切ることが結構きついことは彼自身もよく知っている。
「頑張ります!」
「大丈夫、今日はテン場までだから慌てずゆっくりと行こうや。」


7月に来た時もこのポイントで休憩を取った。
残暑とはいえあの時よりも水は冷たく感じ、さすがに足を浸すことはできなかった。


これから始まる今日の難所「雷鳥坂」登攀を前にして軽く行動食を摂った。
真夏の雷鳥坂よりはまだましなのだろうと推測するが、何もかもが初めてのN君にとっては少々きついかも知れない。
そこは若さでいくらでもカバーリングできる。(羨ましい・・・)

紅葉にはまだ早かったが、ナナカマドの葉がやや色づき始めていた。
雷鳥坂を登り始めてすぐのポイントに「ナナカマドカーブ」というポイントがある。
これは自分が勝手に名付けたもので、「ここからいよいよ始まる」というポイントでもあり、下山時には「もう終わるよ」というポイントでもある。

しばらくは稜線を境に右へ行ったり左へ行ったりを繰り返して標高を稼ぐ。
そして大きく右へとルートを伸ばせば雷鳥坂の2/3を越えた辺りになる。


約2/3を越えた辺り。
暑いことは暑いのだが、風はもう秋風を思わせるほど肌に冷たかった。
それでもまだこの時は心地よかった。


「たぶんあと1時間はかからないと思うよ。まぁゆっくり登ろうか。」
「早く剱が見てみたいです。」
「その思いを思い切り溜めておいて、乗越に着いたら爆発させるといいよ。感動ものだから(笑)。」

平日とはいえ、夏山と比べれば登山者の数はあきらかに少ない。
まぁ混雑がないということでどちらかと言えばありがたいと思う。
何故ならマイペースでの登攀ができるからだ。
そして季節柄もあり、発汗量は7月の時よりも少ない。
これがバテ防止にも繋がっている。
秋の北アルプスって、やっぱり「有り」かもね。


別山乗越が見えてきた。
「あれが剱御前小舎だよ。もうすぐだ!」
「いよいよ剱とご対面ですね!」

雷鳥坂登攀タイムは、休憩を含めて2時間10分だった。
まずまずのコースタイムに自己満足だった。
乗越に着き真っ先にやったことはザックを下ろすことではなかった。
何よりも目の前に屹立するその全容を見せてあげたかった。
「こっちこっち」と言ってN君を案内し、絶景ポイントまで急いだ。


でかいザックを下ろすことも忘れ、しばし見入っているN君。
「どう?」とかの一言であっても言葉は掛けないほうがいいだろいと思い、何も言わず何も聞かず。

彼の後ろ姿を見ながらゆっくりと煙草に火を付けた。




長治郎谷右俣「美味いビールは充実感から」

2020年01月14日 21時07分49秒 | Weblog
テント場へと戻りすぐに撤収を開始した。
約11時間の縦走だったが、去年のような熱中症気味にならなかったこともあり体調はまずまず。
もちろん疲労感はあったが、右俣を登り切ったという充実感が勝っていた。

いつものように受付を済ませ熱いシャワーを浴びた。
さっぱり感の後の冷えたビールがこの上なく美味い!
外に出て劔岳を見上げながら長かった一日を振り返った。
体力の衰えを感じながらもまだ何とか若者について行くことが出来たことは嬉しいが、技術や知識、経験はまだ譲れない。
特にルートファインディングにおいては今まで培ってきたものが生かされる。

さて、待ちに待った夕食となった。
が、この時もあまり関わりたくない人と偶然同じテーブルとなってしまった。
やたらと愚痴や文句ばかりが多く、周囲の宿泊者も嫌な思いをさせられていた。
「ったく、なんだよこのおかずは。」
「飯が美味くないんだよなぁ・・・」
とにかくすぐに不満を口に出す。
やや酔ってはいるようだが、それを抜きにしても不快感を与えまくっている輩だった。
そして劔岳を登ったことを盛んに自慢している。
もちろん初登頂の自慢だが・・・

その時だった。
同席していた老夫婦の方が自分に聞いてきた。
「今日登られたんですか?」
「はいそうです。」
「タテバイのコースですか?」
「いえ、北方稜線を縦走してきたのでバリエーションルートでした。」
「あまり詳しくないのですが、やっぱり厳しいんでしょうねぇ・・・」
「そうですねぇ、自分でルートを探さなければならないので結構危険ですね。」
「もう何度も登っているんですか?」
「剱は今日で17回目になりました。」
当然その迷惑な輩もこの会話は聞こえており、それ以降大人しくなったようだ(笑)。

翌朝小屋を出発する前に、快晴の空と剱をバックに写真を撮ることにした。
庭に出るとご主人の新平さんがおり、何年かぶりで一緒に撮ることができた。


新平さんと一緒に!

「また来年お世話になります。ありがとうございました。」
一抹の淋しさはいつものこと。
いつものことではあっても、劔岳においては殊更に淋しい。


別山乗越に向かって登攀開始。


テント場を過ぎ、振り返れば劔岳。
そして北方稜線の一部も垣間見ることができた。


別山乗越が見えてきた。
テントを背負っているとはいえ足取りは軽い。
これも充実感や達成感、そして天候のなせる業だろうか。


別山乗越で「剱御前(2792m)」へちょっと寄り道。


雷鳥坂を下る。
これから剱や立山を目指すであろう多くの登山者とすれ違う。
「あとどれくらいで乗越に着きますか?」
「そうですねぇ、頑張れば30~40分ってところだと思います。」
「え~っ! まだそんなに・・・」
毎回そんな会話が飛び交うのがこのエリアだ。


二日前にもここで登山靴を脱ぎ休憩した。
丸三日間の疲労が抜けて行くような気持ちの良い冷たさだった。

AM君と昼食をどこで食べようかと決めかねていたのだが、彼がまだ中には入ったことがないということで「ミクリガ温泉」へと寄り、そこで昼食を食べることにした。
「ここでは外でソフトクリームしか食べたことがないですから楽しみです。」

ランチメニューとなっており、自分は「富山ブラック」というご当地ラーメンを注文した。
AM君は先ずは生ビール。
彼の飲む姿を見て辛抱しきれず自分も生ビールを追加注文した。


たまらない美味さだ!

実を言えば、初秋となる9月にも劔岳に登る予定になっている。
同じ職場にまだ剱に登ったことのない若者がおり「是非連れて行って欲しい」と言われている。
体力、技術、知識は問題ない。

秋にも美味いビールが飲めることを願っている。

長治郎谷右俣「下山、そしてまた今回も・・・」

2020年01月11日 22時01分46秒 | Weblog
令和2年(2020年)初のブログアップとなる。

劔岳で初めてお目にかかった「ミヤマオダギリソウ」「コマクサ」と別れ平蔵の頭を登り始めた。
登っている途中で3名のグループに追いついたのだが、この3名が実にマイペース。
マイペースと言ってしまえばまだ聞こえはいいのだが、「また今回もか・・・」とあきれかえる程危険極まりない実力不足の3名だった。
つまりはクサリ場において両手でクサリにつかまり全体重を乗せそのまま下りて行くという素人丸出し。
そう、毎回出会う「関わりたくない登山者」である。
「何故来るの?」「何故平気なの?」「何とかなると思っているの?」と感じる登山者で、見ていて冷や汗が出てくるし、もしこの人達に何かあったら自分たちが一定の措置(処置)を行い、電波が通じるところまで走り、或いは山小屋まで行き救助要請をしなければならない。
いくら山は自己責任とはいえ、決して見て見ぬふりだけはできない。

劔岳ではそんな登山者と必ず毎回出会ってきた。
ため息が出た。
そして毎回必ず思うことがある。
「山岳事故が減らないわけだ・・・」

3名が平蔵の頭のクサリ場を下り終えるまで「どうか落ちないでくれよ」と祈りながら頭のてっぺんで待つしかなかった。
かなりの時間がかかったが無事下り終え、やっと自分たちの順番となった。
そそくさと下りAM君と顔を見合わせた。
言葉にこそ出さなかったが「追い越して下山してしまおう」ということだ。

一気に距離を離し下山を再開。
「何でなんだろうねぇ。何で来るんだろう・・・」
「登りたい気持ちだけは分かるんですけどねぇ。でもねぇ・・・」
そんなことを言いながら前剱へと向かった。

ガスが出始め、周囲は真っ白。
振り返ってももう3人の姿は見えない。
「ちょっと一服だけしようか」といい、腰を下ろした。
その時だった。
「あっ! あぁ~~・・・」という声がガスの彼方から聞こえてきた。
二人ともさっきの3人組であることに違いないと感じた。
「まったく・・・」と思いながらも状況を確認するために早足で声のする方へと戻った。
幸いに途中で足を滑らせ尻餅をついただけだった。
「良かったです。気をつけて。」とだけ言い残しAM君が待つポイントまで帰った。
「大丈夫、転んだだけだった。さっさと行こう。」
これ以上関わりは持ちたくはない。

怒りにも近い感情が湧いてくる。
彼等が何とか無事下山できたとして、その後起こるいつもの勘違い。
「自分たちは剱にも登れたんだ。上級者の仲間入りだ。だから次はもっと上を目指そう。」
という大きな思い違い。
もうバカらしくなり考えることを止めた。
せっかくの自分たちの楽しみが半減するだけだ。

ガスが取れ始め剱沢一帯が見て取れた。

赤い線がルートで、下の赤い○が今夜の宿である「劔沢小屋」。
そして上の赤い○が剱沢テント場。

少々イライラ感は残ってはいたが、心和ませてくれる高山植物にも目が行くようになった。


「ハクサンフウロ」
「タカネツメクサ」に次ぐ好きな花だ。


「ミヤマダイモンジソウ」
高山植物には「ミヤマ○○」という名の花が多い。
覚えきれないなぁ(笑)

前剱を下り終え、更に下山速度を速めた。
とにかくさっきの3人組と距離を離したかったのだ。
劔岳の下山コースタイムは、剱沢までであれば一般的には休憩抜きで3時間30分が標準とされる。
今回は休憩を含めて2時間20分だったことから、実質2時間での下山となった。

テント場へ戻る前に、いつものように劔沢小屋のご主人「新平さん」に挨拶に向かった。
「テントを撤収したらすぐに来ます。」とだけ伝えた。

熱いシャワーを浴びて冷えたビールが飲みたい。