夜の9時には完全消灯となった。
「いよいよ明日だ」という興奮と不安でなかなか寝付けない。
体は疲れているはずなのだが、一向に眠気がこなかった。
深夜12時を過ぎてそっと起きだし、表へと出てみた。
当然のことながら人工的な明かりは360°一切無い。
一つあるとすれば、その時自分が吸っていた煙草の火だろうか。
おそらくは正面に見えているであろう劔岳の山影を確かめたくても、夜空に星は見えず、月もない。
「寝なきゃな・・・」
布団に戻り目を閉じる。
いつしかやっと眠りについたのだが、4時頃には周囲の身支度の音で目が覚めた。
結局は2~3時間の浅い眠りだった。
5時には朝食だ。こんな睡眠不足で大丈夫だろうか。
心配だったのは疲労の回復だが、それよりも高山病を懸念した。
二度と経験したくはないものだけに、不安は大きい。
睡眠不足の割には腹は減っていた。
出された朝食はどんぶりにご飯大盛りだったが完食。
アタック開始前にこれほどの量を食べたのは初めてじゃないだろうか。
まぁこれで前半の「シャリバテ」は防げる。
天候は今ひとつはっきりしない。
Y君は今日のアタックは諦めるとのことだった。
「俺もどこまで登れるかわからないけど、天候が許す限りは行けるところまで行ってみる。」
「登頂成功を祈ってます。でも絶対に無理はしないでください。」
そう言って握手を交わし小屋を出発した。
午前5時45分、アタック開始だ。
小さな雪渓を二つ越え、しばらく進んだ。
振り返ると劔澤小屋が見える。
幸いに周辺にガスは発生していない。
贅沢は望まないから、どうかこのままの天候を維持してほしい。
そう切に願った。
出発して約20分ほどで「剣山荘」へと着いた。
外に出ている人は誰もいない。これからアタックする人はいないのだろうか。
まぁいい、今は自分のことだけで一杯だ。
ここからが本格的な登攀開始となる。
斜度も少しずつきつくなってきた。先ずは「一服劔」に向けて登ろう。
自分の前後には人影はない。
聞こえてくるのは風の音、時折聞こえてくる鳥の声、登山靴が岩場を踏みしめる音、そして自分の息づかいだけだ。
「まさか今日は俺一人、いや、『独り』ってことはないだろうな・・・」
ツアーで来ていた団体の方々は、ガイドさんの判断でもう少し天候の様子を見てから登攀を決めると聞いている。
つまり、劔澤小屋の宿泊者でアタックをしているのは現時点で自分一人ってことになる。
そんなことを考えていると、遂にくさり場が現れた。
「来たか」
確か往復のルートには13箇所のくさり場がある。
その第一番目の登場だ。
ほとんどくさりを頼らずに進むことができ、6時25分、一服劔へと着いた。
「一服劔」と記された標識があると聞いたのだが、どこにも見あたらない。
高度計で標高を確認し、周囲の地形でここが一服劔と判断した。
名前の通り一服しようと思ったのだが、何とか天候が落ち着いている今を逃したくはない。
この先には「大岩」、そして「前劔」が待っているだけに1分だけの休憩をし先へ進むことを優先した。
「いよいよ明日だ」という興奮と不安でなかなか寝付けない。
体は疲れているはずなのだが、一向に眠気がこなかった。
深夜12時を過ぎてそっと起きだし、表へと出てみた。
当然のことながら人工的な明かりは360°一切無い。
一つあるとすれば、その時自分が吸っていた煙草の火だろうか。
おそらくは正面に見えているであろう劔岳の山影を確かめたくても、夜空に星は見えず、月もない。
「寝なきゃな・・・」
布団に戻り目を閉じる。
いつしかやっと眠りについたのだが、4時頃には周囲の身支度の音で目が覚めた。
結局は2~3時間の浅い眠りだった。
5時には朝食だ。こんな睡眠不足で大丈夫だろうか。
心配だったのは疲労の回復だが、それよりも高山病を懸念した。
二度と経験したくはないものだけに、不安は大きい。
睡眠不足の割には腹は減っていた。
出された朝食はどんぶりにご飯大盛りだったが完食。
アタック開始前にこれほどの量を食べたのは初めてじゃないだろうか。
まぁこれで前半の「シャリバテ」は防げる。
天候は今ひとつはっきりしない。
Y君は今日のアタックは諦めるとのことだった。
「俺もどこまで登れるかわからないけど、天候が許す限りは行けるところまで行ってみる。」
「登頂成功を祈ってます。でも絶対に無理はしないでください。」
そう言って握手を交わし小屋を出発した。
午前5時45分、アタック開始だ。
小さな雪渓を二つ越え、しばらく進んだ。
振り返ると劔澤小屋が見える。
幸いに周辺にガスは発生していない。
贅沢は望まないから、どうかこのままの天候を維持してほしい。
そう切に願った。
出発して約20分ほどで「剣山荘」へと着いた。
外に出ている人は誰もいない。これからアタックする人はいないのだろうか。
まぁいい、今は自分のことだけで一杯だ。
ここからが本格的な登攀開始となる。
斜度も少しずつきつくなってきた。先ずは「一服劔」に向けて登ろう。
自分の前後には人影はない。
聞こえてくるのは風の音、時折聞こえてくる鳥の声、登山靴が岩場を踏みしめる音、そして自分の息づかいだけだ。
「まさか今日は俺一人、いや、『独り』ってことはないだろうな・・・」
ツアーで来ていた団体の方々は、ガイドさんの判断でもう少し天候の様子を見てから登攀を決めると聞いている。
つまり、劔澤小屋の宿泊者でアタックをしているのは現時点で自分一人ってことになる。
そんなことを考えていると、遂にくさり場が現れた。
「来たか」
確か往復のルートには13箇所のくさり場がある。
その第一番目の登場だ。
ほとんどくさりを頼らずに進むことができ、6時25分、一服劔へと着いた。
「一服劔」と記された標識があると聞いたのだが、どこにも見あたらない。
高度計で標高を確認し、周囲の地形でここが一服劔と判断した。
名前の通り一服しようと思ったのだが、何とか天候が落ち着いている今を逃したくはない。
この先には「大岩」、そして「前劔」が待っているだけに1分だけの休憩をし先へ進むことを優先した。