嘗て同じ職場で働いていたAM君。
ジャンダルム、北方稜線を含む劔岳、冬期であれば避難小屋泊での谷川岳、テント泊で八ヶ岳縦走など、いくつもの山を共に登ってきた。
異動してからはなかなか会うことができず、また日程も取りにくくなってしまい一緒に登る機会がなかった。
年が明けてからどうにかやっと日程を合わせることができ、残雪期ではあるが3月に八ヶ岳に登ることが決まった。
5年振りになろうか・・・。
難所や厳しい状況の下ばかりを共にしてきた彼と再び山に登れることがたまらなく嬉しかった。
自ずと事前の下調べや情報収集、そして事前準備にも力と喜びが入った。
互いに仕事が終わってから待ち合わせをし、先ずは夕食を食べた。
食べながらも仕事のことやプライベートなことなど積もる話も多く、話題には事欠かなかった。
AM君に会うことと同時に楽しみでならなかった事がもう一つあった。
彼が新車を購入したのだ。
しかも購入しただけではない。
「これでもか!」という程にアウトドア仕様にカスタマイズを施していた。
このとこは後に綴るとして、一路互いに懐かしさもある長野県へと向け出発した。
目指すは主峰赤岳。
駐車場は毎度おなじみの美濃戸口であり、ナビを使わずとも行ける。
深夜1時過ぎに到着し、車中泊となった。
翌朝7時に起床し目覚めの珈琲を飲んだ。
当然お湯を湧かすのだが、そこはアウトドア仕様の新車、すべて車内に揃っていた。
因みに寝るにあたっては、商業用の車ということもあり、二列目のシートを畳めば三人用のテントほどの広さとなる。
もちろんザックなどの大型の荷物を置いてもその広さは余裕だった。
更にバックドアを開けた後に、閉める時は外から行わなければならないのが一般的だが、なんとドアの内側に取っ手を取り付け車内からでも開閉ができる様にカスタマイズしてあった。
唯唯感動しっぱなしのアウトドア仕様であり、羨ましくもあった。
両サイドに様々なものをつり下げられ、何泊でも車中泊ができるようにしたとのこと。
さすがは商業用タイプ、広い!
内側から見た後部。
「水と食料とガスがあれば長期旅行も楽しめますよ♪」の一言が実に嬉しそうだった。
自分がやってみたかったことを具現化し実現実行したAM君。
アウトドア好きな男にとって、これは将に浪漫である。
目覚めの珈琲を飲むAM君。
もちろんドリップでのレギュラー珈琲だ。
自分も頂いたが、味だけではないもう一つ上の美味さを感じた。
今日は赤岳鉱泉小屋までの行程であり、出発は慌てることはない。
小屋泊でもあるので、到着時刻は常識の範疇で考えればよい。
10時となり登山届けを提出し美濃戸口をスタートした。
地面に雪はなかったが、スタートして10分も歩けば徐々に雪面となってきた。
12本爪のアイゼンの他にチェーンスパイクを持参してきたが、まだそれすら装着する必要もなかった。
美濃戸口を出発。
AM君とこの道を歩くのはこれで何度目になるだろうか。
もちろん雪の季節しか歩いたことがない。
今日明日の天候はまずまずだが、歩きはじめてすぐに汗をかくようになった。
ジャケットを脱いだり着たりの繰り返しだが、寒さと強風に煽られて進むよりどれだけ楽であろうか。
体作りと慣らしを兼ねて慌てずのんびりと鉱泉小屋を目指せば良いだけの初日。
気分は上々だった。
少しずつ積雪が目立ち始めた。
二月は個人的なことで山に登ることが叶わず今日まで足伸ばしとなってしまった。
思い切り雪山を楽しみたい。
約1時間して美濃戸へと着いた。
真っ白な雪を纏った阿弥陀岳が屹立している。
あの山も雪の季節にAM君と一緒に登ったなぁと、つい懐かしんでしまった。
美濃戸で軽く行動食を食べた。
小屋へは14時頃に着く予定であり、休憩時間もいつもよりは長く取ることができようか。
ここからは北沢ルートで鉱泉小屋へと向かうが、この二人が揃うと悪い虫が疼き出す。
「ちょっとバリってみようか。」
「いいですね。軽くやってみましょう♪」
つまり、本来の正規ルートから少しだけずれて進もうということである。
厳密に言えばバリエーションルートなのだが、そこまで大袈裟なものでもない。
もちろん安全を第一としてルートファインディングはするし、決して無理はしない。
プチバリエーションルートを楽しもう的なものに過ぎない。
美濃戸にある分岐点。
予定では北沢ルートなのだが、今日は北と南の中間的なポイントからスタートし、北沢寄りに進むことにした。
まだ樹林帯の中であるだけに藪漕ぎもあるだろう。
二人が揃うと悪い癖が出る。(笑)