ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

劔岳 平蔵谷:平蔵谷へ・・・

2015年08月30日 21時29分51秒 | Weblog
前夜は殆ど眠れなかったこともあり、この夜は20時過ぎには眠りに就いてしまった。
予定起床時刻は3時30分。
やや遅れてしまったが4時前には起床。
早速外へ出てみた。

空が白み始め、徐々に碧みがはっきりと確認できるようになってきた。
「よっしゃ、行ける!」
小さく呟き拳を握りしめた。
この時はもう迷いはなく、通常ルートでの登攀などは頭の片隅にも無かった。

朝食用と昼食用の弁当を頂き、最終パッキングをした。
「水、行動食、救急セット、雨具、中間着よ~し。メット、ピッケル、アイゼンOK」
軽く準備運動をし、小屋をスタートした。
まだヘッデンは必要だった。

雪渓沿いに夏道を下って行くが、昨年の同じ時期と違うのは雪渓の雪解けが多いということだ。
この先スノーブリッジが出ているらしいので、今年は先ず夏道を下って行くしかない。

なるほど、確かに去年の同じ時期にこれは無かった。
やはり雪解けの量は今年の方がやや激しい。
ということはだ、雪渓全体の雪の緩みやクレパスやシュルンド、見えないスノーブリッジなどが多く存在する可能性が高いと言うことだ。


日が高くなり、雪渓に当たるようになってきた。
スプーンカットの表面がガンメタリック調に光彩陸離し始めた。
まだ表面は固く、アイゼンの爪が程よく噛んでくれているが、時間が経つにつれ緩くなってくることは明らかだ。
特に平蔵谷のラストは斜度が相当厳しいらしいし、できるだけ早い時間帯に雪渓を登り終えたい。

ここの下り斜面は良く覚えており、平蔵の出会いが近いということだ。
腹も空いてきた。
そろそろ朝食にしようかと思っていたが、適当に腰を下ろせるポイントが無くもう少し下ることにした。

平蔵の出会いに到着。
ここまで約30分程だが、この先は全面登攀斜面であり、勾配は徐々にきつくなってくる。
やはり朝食はここで済ませた方が良いだろう。
幸い腰を下ろせるだけの岩が頭を覗かせていた。
エスビット(固形燃料)でみそ汁一杯分のお湯を沸かした。
弁当はとっくに冷たくなってしまっていたが、温かいみそ汁が嬉しい。

食べながらふと思った。
初めて劔岳を目指そうと下調べをしていた頃、地図に記された別山尾根ルート以外のルートには一切目もくれなかった。
そんな気持ちのゆとりがなかったのだ。
だから去年の長治郎谷も今年の平蔵谷も夢のまた夢のようなルートだった。
ましてや単独で挑もうなどあり得ないことだった。

食事を済ませ一服し、仕上げにBCAAを飲んでみた。
普段も必ず持ち歩いてはいる物なのだが、雪山以外ではそう滅多に口にすることはない。
「今日は年に一度のスペシャルだしね。」
ちょっと苦笑いをしながら久しぶりのBCAAを味わった。

タイムスケジュールでは、平蔵谷は休憩を含めて約3時間で登攀を終える予定でいる。
途中にアクシデントがなければ・・・・、自分の体力がもってくれれば・・・、天候が良ければ・・・。
いろいろな条件はあるが、あくまでも予定は予定であり、心臓をバクバクさせての登攀だけはやめておこう。
去年の長治郎谷で懲りたしね(笑)。

ゆっくりと200歩登っては約30秒の休憩。
暫くはそれを繰り返して登攀を続けた。
たとえ「あと100歩行ける」と思っても、200歩で必ず一息は入れた。
「おっ、これっていいかも♪」
まだ登攀開始30分にも至っていなかったが、体が楽に感じた。
もちろんそれは斜度がそれほどではなかったということでもあるのだが・・・。

そんなことを考えていると、早速お出ましだ。

「こんなに早々とお目にかかってしまうのか・・・。」
中央寄りは空洞になっているかも知れないという不安はあったので、ここは小幅で登った。

「大丈夫だからゆっくり登ろう。」
見上げれば空はいつの間にか晴れ渡ってくれていた。
そして時々だが、ガスの切れ間から「平蔵のコル」と思われるポイントが見えた。

「先は長いなぁ~」
まだ始まったばかりだというのに愚痴が出た。


劔岳 平蔵谷:前夜

2015年08月26日 23時16分15秒 | Weblog
雷鳥とチングルマに癒されながら別山乗越へと着いた。
ここまで休憩を入れて5時間30分。
休憩と高山植物を確かめながらの縦走としてはまずまずだろうか。

ここから小屋まではゆっくり下っても40分程だし、14時30分には到着できよう。
慌てることはない、今日だけは花を愛でることも許されるんだ。
岩場のガレ道を下って行くと、左右が急に開け一面のお花畑となった。
残念ながらガスっており、その美しさを一望することはできなかったが、主にチングルマやミヤマダイコンソウなどの群生を目視することができた。

(たぶん)タテヤマリンドウ
尾瀬で見たものよりも花は大きいが、悪天候の時には花を閉じてしまうこともあることからたぶん間違いないだろう。

ミヤマダイコンソウ
去年、長治郎のコルからバリエーションルートの岩稜地帯を縦走し、90°の岩壁をよじ登っている時、その岩肌にへばりつくように咲いていた花だ。
忘れることができない。

これも今日やっと出会えることができたハクサンイチゲ。
どこにでもあるのかと思っていたが、立山縦走時には見かけなかった。

う~ん、やっぱり群生になったチングルマは可愛い♪

などと見とれている内に雪渓へと出た。
ここから小屋は近い。


別山で出会った四人組の若者グループがおり、彼等も明日劔に登るそうだ。
今夜は剣山荘に泊まるということで、この雪渓まで一緒に下りてきた。
「私は平蔵谷ルートなので、皆さんとはちょっとルートが違いますが、明日てっぺんで会いましょう。」
と言って別れた。

一年振りの劔沢小屋に着いた。
ほぼ予定通りのルートタイムだった。

受付には三代目の御主人である佐伯新平さんがいた。
「お疲れ様でした。」の一言の後、「あ~○○さん、今年もありがとうございます。」
いやぁーこの一言がどれだけ嬉しいか。
顔を見て名前を覚えていてくれたのだ。
「新平さん、またお世話になりますね。」
「○○さん、今年はどのルートで登るんですか?」
「明日の天候次第ってところもあるんですが、一応平蔵を予定しています。」

そんな会話をしながら部屋を案内され、先ずは一息ついた。
簡単に荷物の整理を済ませ、受付へ行きルートの説明を受けた。
雪の量は多いが、クラックやスノーブリッジに要注意らしい。
そして雪渓の最後には数本の亀裂が真横に走っているとのこと。
しかも最も斜度が厳しいポイントでの亀裂なので乗り越えるには更に注意が必要だとのこと。
「いやいや○○さんなら大丈夫ですよ。でもどのポイントから乗り越えるかは判断が難しいと思いますので、慌てずじっくりと見て決めてくださいね。」
気の引き締まる思いだった。

外へ出て一服したが、今日一番の雨あしとなっていた。
もちろん劔はぶ厚いガスのカーテンの先で、その畏怖たる勇姿は見えなかった。
「明日は曇りでも十分です。不安はありますが、また自分にチャレンジしに来ましたので、よろしくお願いします。」
両手を合わせ劔に祈った。

劔岳・・・。
不思議である。
何故か無意識で両手を合わせたり、お辞儀をしたりしてしまう想いに駆られる山だ。
何度登ってもその想いや行動に何ら変わりのない自分だし、知らず知らずのうちに神聖な気持ちにさせられてしまう。
例え今は見えていなくても、「禊ぎ」に来ているような錯覚を覚える自分なのだ。

熱いシャワーを浴び、明日のアタックに向け準備を進めた。
この時期、12本爪のアイゼンとピッケルを装備に加えることは珍しい。
それ以外はいつもの装備と殆ど変わりはない。

装備の一つに、いつも三脚を持って登っている。
ソロでの登攀である以上、シャッターを他の登山者に常に頼めるとは限らない為であり、要所要所で自動シャッターで撮っている。
この三脚がまさかギアとして役に立つとは、その時になるまで予想だにしていなかった。

夕食を済ませ、同室の人や談話室でくつろいでいる人に平蔵谷ルートについて情報を仕入れてみたが、誰も分からないという。
みんな通常の別山尾根コースからしか登っていないし、これから登る予定だった。
やはり雪渓のラストに待っているクラックが気になる。
どれほどの幅があり、どれ程の高さがある垂直の雪壁なのだろうか・・・。

外に出て一服した。
雨は上がり劔のPEAK付近だけがガスがかかっていた。
ふーっと大きく煙を吐いた。
「ビールでも飲もうかな・・・。いや、明日無事登頂し下山してからにしよう。」
本音を言えば、明日のアタックが心配でならないのだ。
それ故に酒さへも飲む気になれない自分だった。
本当にメンタルが弱いなぁっとつくづく思う。

装備の再チェックをし、寝る前にもう一度外へ出てみた。
月が出ていた。
「行けそうかな・・・」
漆黒の闇の中の向こうに劔がある。
月明かりのおかげで、何となくではあるが劔の輪郭が見えた。
そして、ふと今日ここまで来る間に見てきた数々の可憐な花を思い出した。
花に癒され、劔に心を凍らされ、自然のもつ不思議な力に一喜一憂している自分が可笑しかった。
「やっぱり通常ルートで行こうかなぁ・・・。」
現実逃避をしたくてたまらない自分だった。



旧海軍兵学校、そして現在の防衛大学校において言い伝えられてきた「五省」というものがある。
簡単に言えば、今日一日を振り返った時に自己反省をする為の五つの言葉だ。
数ヶ月程前に、その五省を基に自分なりに「登山における五省の訓」なるものを作ってみた。
その第一として作ったのが「己を知り足りて なかりしか」である。
意味は、
『己の体力、技量、知識、総じて経験を十分且つ客観的に理解判断し、足りないものが何であるのかを知ると共に、己が如何に非力で未熟であるかを認め、決して驕らず身の丈に合った山であったか。』

やたら理屈っぽくて、趣味の登山にこんな事まで考える必要はない。
そうも思ったのだが、あの一月の厳冬期に縦走した横岳での出来事は、自分にとってそれだけのことを考えさせるに値するものだったのだ。

劔岳平蔵谷ルートが、「己を知り足りて なかりしか」であったかどうかはまだ分からない。


劔岳 平蔵谷:別山

2015年08月24日 22時47分16秒 | Weblog
岩稜地帯の登りが続く。
そしていよいよ小雨が降り始めた。
「あ~やっぱりもたなかったか・・・」
小屋に着くまでは何とか降らないでほしかったのだが、そううまくは行くまい。

見覚えのある右への登攀ルートとなった。
するとどうだ、ルート左側の岩場の斜面にあったではないか。

やっと出会えた「チングルマ」。
ということはだ、やっぱり自分の記憶が正しかったということか。
たったそれだけのことが嬉しかった。

別山PEAKに近づけば近づく程にチングルマが群生となり咲いている。
この先、おそらく劔岳はガスの先で見えないだろうことは予測できた。
だからせめて高山植物を愛で、このひとときを楽しみたいと思った。

コイワカガミ

(たぶん)アオノツガザクラ

いやぁーなんか凄く今までの自分と違って思えた。
花に癒されたことは数多くあったが、それもその場限りのことであって、だからといって覚えようなどとまでは考えたこともなかった。
そんな自分が、花を見て名前を言えるだなんて・・・。
職場の女性スタッフがいたら大笑いされそうだ。

少し違った角度から撮ってみたチングルマ。

ディスプレイを見て「おぉ~なかなか良いかも!」
と、自己満足の一枚となった。

花に見とれてしまい、ややスローペースとなってしまったが別山PEAKに到着。

周囲はガスであり、風も雨あしもさっきより強くなってきた。
さっさとここを下り、別山乗越へと向かうことにした。

「天候悪化かぁ・・・こりゃぁ雷鳥日和かな。」
なんて思っていたら、こんな偶然があるだなんて(笑)

この日、遂に出会えた雷鳥さん。

チングルマ、そして雷鳥との出会い。
やっぱりここは立山・劔縦走ルートだ!

劔岳 平蔵谷:植生

2015年08月19日 21時53分58秒 | Weblog
今回に限っては、過去の立山縦走・劔岳登頂とは少しだけ目標が違っている。
違っていると言うよりは、目標が一つ増えたと言った方が正しいだろう。
ただ登るだけではなく、先日尾瀬でちょっとだけ覚えた高山植物について、新たな植物名をここでも覚えられたらと考えている。
おそらくは殆ど名前は分からないが、画像だけ撮っておき帰宅後に調べることもできよう。

雄山を越えた途端、予想していた通りのルート状況となった。
ガラ~ンとした岩稜群が目の前に現れたのだ。

ガスってはいたが、空いていてくれるルートは何だかんだと言ってもありがたい。

高山植物はそこここに見つけることはできたが、このブログでは主な物だけとし、後日まとめてアップしたい。

10分程歩くとすぐ右手前方に「大汝山」のPEAKが目視できた。
と言うことは休憩所もすぐのはずだ。


「おっ、懐かしいね。ちょうど一年振りかぁ・・・」

予定していた昼食の場所と時間には少し早いのだが、この後降雨の確立が高いこともあり、この場で食べることにした。
何か温かいスープが飲みたかったのだが、雨のことを考えればセッティングや後片付けの時間さへも惜しい。
今夜は劔沢小屋での夕食だし、ごく簡単におにぎりとソーセージのみとした。


富士ノ折立付近だったろうか、右手に雪渓の壁が現れた。
「おぉ~、まだかなりだなぁ」と感心していると、珍しい高山植物が足下に・・・。
本当はそれほど珍しくもないのだろうが、自分にとっては「何だこれは?」というほどの珍しさ。
去年も、その前もおそらくは自分の足下にきちんと咲き誇り、そして視界に入ってはいたのだろうが全く見覚えも記憶にも無い。

白いのが「タカネツメクサ」で、紫が「イワギキョウ」。
イワギキョウは、この後至る所で見つけることができたが、タカネツメクサを見つけることはこの一帯以外できなかった。

「そう言えばまだチングルマもハクサンイチゲも見ていないなぁ」
群生となっていくらでも見つけられそうなものなのだが、未だ見かけていない。
植物の分布や植生などについては全く知らないが、やはりこの一帯にも当然植生というものはあるのだろう。
去年と一昨年と唯一覚えているのは、別山に近づいたころやっとチングルマを発見できたということ。
ということはもうすぐチングルマに出会えるかも知れない。

真砂岳から西に折れ、別山へと向かった。

風が強くなり肌寒い。
本日最後の登攀道だが、この先チングルマを見ることができるかも知れない。
自分の記憶が正しかったかどうかも知りたい。

劔岳 平蔵谷:今年も!

2015年08月16日 00時24分27秒 | Weblog
「孤高の単独行」と言ってしまえば聞こえはカッコイイが、単独行は時に気楽で時に惨めさを痛切に感じる。
両極端な思いを常時抱きながらも、今年も懲りもせず劔岳へ登ってきた。

今年のルートは平蔵谷のバリエーションルートを選んだ。
去年が長治郎谷だから2年連続でバリエーションルートで単独登頂を目指すことになる。
別山尾根の通常ルートでも良かったのだが、真夏に登る雪渓は風が心地良く、登り甲斐があるというものだ。

昨年同様に7月の下旬に日程を決め、夜行バスで一路室堂を目指した。
不安は殆ど無かったのだが、何故か目が冴えてしまい一睡もすることができなかった。
むしろ眠れなかったことの方が不安でならなかった。

室堂到着時は風雨で、この先が気になるところだったが、朝食を済ませ身支度を整えている間に天候は緩やかに回復してくれた。
8時30分、いざ室堂を出発。
今回も立山三山を経由して劔沢へと向かう。

真正面に見える立山三山がちょうど逆光気味となり眩しい。
ピーカンとまでは言わないが、このままの天候であって欲しい。

一ノ越へと向かう途中で中学生の団体一行に追いついた。
「そう言えば去年もかなりの団体がいたなぁ」
そう、一ノ越から雄山までは比較的楽に3000mを登ることができることから、学校の団体が多いことを思い出した。
しかし、登山者が多いのも雄山までであろう。
そこから先へ縦走してしまうと、その日の内に団体が室堂に戻ってくることはかなり厳しいからだ。

室堂平を振り返ると青空も見え始めてくれた。
「いいねいいね。これこれ、夏はやっぱり緑と残雪と碧い空だよ♪」
そんな勝手な思いを抱いていると・・・「あぁ~やっぱり・・・」ってなことになってしまう。
一ノ越に到着した頃はガスが出始め、徐々に雄山の頂も見えなくなってしまった。

今のところルートは空いているようだったので、団体さんがスタートする前に登ってしまうことにした。
ところがだ。
人数にして10名足らずのとあるグループが一足先に登り始めた。
このグループときたら何と表現すればよいのか、まぁ仲良し男女グループなのだろうが、とにかくうるさい。
うるさすぎる程大声を出し、ギャーギャーキャーキャーワイワイとわめき散らしながら登っている。
時に「ギャーーー!!! キャーーーー!!!」と悲鳴のような声を出すものだから、落石か滑落事故でも起きたのではないかと周囲の人達も気が気ではない。
おまけによく見れば、小型のザックすら背負っておらず、手ぶらの若者も数名いた。
靴はごく普通のスニーカーの様なもので、ソールはほぼフラット。
でもってジーンズでの登攀。
「こいつら分かってるんか?」
見ている自分の方が心配でならなかった。

相変わらずギャーギャーとお楽しみ登山の彼等であったが、あまりの騒ぎ過ぎ状態にこっちとしても我慢の限界が来てしまった。
年寄りがうるさいと言われればそれまでだが、彼等を追い越す時に一言だけ注意をした。
「あまりギャーとか、キャーとか不必要に大声を出すと、山岳警備隊が事故と勘違いして来てしまいますよ。楽しいのは分かりますが、迷惑にならないようにもう少し周りに気を遣ってくださいね。それに、ソールの凹凸が殆ど無い靴だから、足下を注意して登らないと、本当に滑落してギャーだけじゃ済まなくなってしまいますよ。」
自分としてはかなりやんわりと注意をした。
するとこの若者達、意外と素直に受け入れてくれた。
彼等にしてみればハイキングの延長のようなつもりで登っていたのだろうが、100%岩場、ガレ場の雄山ルートを決して侮ってはいけない。

一ノ越から50分程で雄山に到着した。

ガスは濃くなる一方であったが、幸いに気温はそれほど下がってはいなかった。

「いやぁーやっぱりここは混んでるなぁ。」
一服してから神社で「安全登山」のお守りを購入した。
ほどなくしてあの若者達が登ってきた。
「頑張ったね!」
「こんなきついとは思わなかったです。これだけ大きなリュックを背負って辛くないんですか?」
「全然平気という訳じゃないけど、このルートは楽な方だからね。」
「え~っ、これで楽なんですか? 一体どこまで行くんですか?」
「目標は劔岳。でもそれは明日登る予定ですよ。」
劔岳と言われてもピンと来なかったようだが、それよりも案の定心配していたことが起こっていた。
仲間の一人が靴ずれを起こしてしまったようだ。
「見せてごらん」
ソックスを脱いでもらうと、見事に水豆状態の踵となってしまっていた。
救急セットから安全ピン、軟膏、キズバン、テーピングテープを取り出して応急処置を開始した。
「どうせ豆が潰れるのは時間の問題だから。」
と言って針先をライターで炙り穴を開け水を出し、軟膏を塗りキズバンを貼った。
最後はテーピングテープを三重に貼って終了。
「一ノ越までは十分に持つと思うけど、一応これ予備だから。」
と言ってキズバンを2枚渡しておいた。
かなり感謝されたが、靴ずれは起こるべくして起きたものだと思う。

若者達よ、今を大いにエンジョイするがいい。
ただし、程々にね。(笑)

お花の勉強会:やっと出会えたね♪

2015年08月12日 00時35分55秒 | Weblog
昼食を食べ終えた頃、ぽつりぽつりと雨が降り始めたが、まだレインウェアはいいかなと思い帰りの準備を始めた。

復路においても幾つかの花の名前を覚えることができた。

ミツガシワ
あまりにも小さくて発見するのが難しかった。
おそらくは何度も視界には入っていたのだろうが、見落としていたに違いない。


白っぽいのがコバイケイソウ。
かなり目立つ花ではあったがなかなか名前が覚えられず「コバヤシケイゾウ」と、人の名前にあてはめてやっと覚えた花だった。
とにかくできの悪い生徒であったことは確かだ。

今日のルートにニッコウキスゲが少ないことは、予め書籍やネットで調べてあり分かっていたことであるが、やはり淋しい。
でもって悔しい。
「やっぱりここにはキスゲは無いんですね。」
「そうねぇ、群生でなくても見たかったわね。」

雨あしが強くなってきた。
お互いにレインジャケットを着込み、蒸し暑い樹林帯の中を歩いた。
ふとK先生を見ると・・・おっ、あれっ、なんか可愛い♪


足下に落ちていた朴の葉を拾い、傘代わりにしていた。
これ、シャッターチャンスかも!
後ろから数枚撮らせていただいた。

もうあと10分も歩けばゴールという地点まで来た。
「やっぱりキスゲは無理でしたね。」
そう言った直後のことだった。
「ねぇ、あれあれ。見て! 咲いてる♪」
K先生の歓喜に満ちた声にちょっと驚きながら顔を上げ、指さす方を見ると・・・。
たった二輪だけだが、黄色い花が咲いていた。
「えっ、でも朝ここを通った時には何も・・・」
「おそらくつぼみだったから気付かずに過ぎちゃったのかもね。」


やっと見つけたニッコウキスゲ。
やっと咲いていてくれたニッコウキスゲ。
出会うことができた嬉しさは、花の苦手な自分でさえも思わずプチ興奮状態となってしまった。

ニッコウキスゲは、朝咲きはじめてその日の内にしぼんでしまう。
つまり、一輪のキスゲはたった一日しか咲くことがないということ。
それだけに、このキスゲはおそらくはもう数時間もすればしぼんでしまうだろう。
最後の最後でやっと出会えた、そしてそれはしぼむ直前の出会いだった。

「最後に出会えたって、なんかすごくラッキーだなぁ。それに明日になればこのキスゲとはもう出会えないし。一期一会のキスゲなのか。」
そう言いながらシャッターを押しまくった。
そしてカメラをほんの少しづらして、K先生に向けパチリ。


花は咲くべき所に咲いてこそ美しい。
花は持つべき人が持ってこそ美しい。
そして一緒に写る人べき人が写ってこそ美しい。

これは決してお世辞ではなく、真に思ったことだ。
だって俺なんかが一緒に写ってたって、美しいどころかなぁ~んの趣も良さもありゃしない。
花の美しさにマイナスイメージを与えてしまうだけだ。
K先生と一緒に写して大正解の一枚を最後に撮ることができた。

お花の勉強会:三条ノ滝

2015年08月07日 23時48分42秒 | Weblog
御池をスタートして約2時間、裏燧橋まで来た。

この橋はよく覚えている。
ちょうど3年前の7月に女房と二人でこのルートを歩いた時にも記念の写真を撮ったポイントだ。
「もうあれから3年かぁ・・・相変わらず山ばかりだな、俺は・・・」

何も変わっちゃいない・・・ことはない。
それ相応の経験値を間違いなく積んできた。
よく今日まで生きてるなぁと思うこともある。
しかし辛い思い出ばかりではない。
多くの人達との出会いや感動を得てきたのは事実だ。

さて、ここから滝まではまた殆どが樹林帯の中となる。
「だぁーっ! 風が吹いて欲しい!」思わず出た弱音の一言だった。


やっと分岐点まで辿り着いた。
ここから先のルートは初めてとなるが、滝までは下りが多い。

段差の大きい下りはあまり好きではない。
スリップしやすいのは当然として、やはり膝への負担が大きいからだ。
ストックを用いたり、やや体を斜めにして段差を下りることで膝への衝撃を減らしてはいるが、もとより半月板損傷で痛めているだけに膝に良いわけがない。

小さな田代を過ぎ、再び下る。
水の流れ落ちる音が徐々に響いてきた。
音は大きくなってきているが、滝は樹木に遮られて目視することができない。
やっと見えてきたのは展望台に着く直前だった。

「いやぁー思っていたより落差のある滝なんだ」
写真や画像では何度も見てきたが、やはり目の前で見る本物の三条ノ滝は素晴らしい。
思い切りマイナスイオンを吸い込んだ。
気持ちがいい!

軽く昼食を摂り再びピストンで御池へと戻る・・・が、その前にK先生一人でパチリ。

う~~~ん・・・、何故に女性は絵になるんだろう。
自分が一人で写っても何も感じないが、女性の場合不思議とそれが絵になる。

この思いは、この後もう一度衝撃的に感じさせられることになる。

お花の勉強会:暑いけれど発見多し

2015年08月05日 21時47分45秒 | Weblog
燧裏林道コースは、田代よりはどちらかと言えば樹林帯の中を歩くコースだ。
それだけに今の季節は蒸し暑い。
せめてもう少し風がそよいでくれればありがたいのだが・・・。

しかし樹林帯でしかお目にかかれない初夏の花を見ることができた。

「アカモノ」
レトロ風な街灯とか、つり下げ型のシャンデリアのガラスを思い起こす花だが、一つ一つの大きさは1㎝程度の可愛らしい花だ。
よく見ると、白というよりはうっすらとピンクを帯びた色をしていた。


「ナナカマド」
名前はよく知っていたが、花がこんな独特な形をしていようとは。
こんなにも目立つ花であるにも関わらず今まで知らなかった。


「サラサドウダン」
少し離れた所から発見した時は、花ではなくまるで赤い実が成っているのかと思った。
近づいてみると実に面白い形の花だった。

例えるなら、1㎝ほどのチューリップを逆さにして束にした様だ。

蒸し暑い樹林帯の中にも、こんなにも多くの初夏の花を愛でることができた。
それにしてもK先生の植物の知識はすごい!
おみそれしました。 m(_ _)m

お花の勉強会:新たなジャンル

2015年08月02日 22時47分33秒 | Weblog
今にも泣き出しそうな空模様であったが、なんとかもってくれている。

それにしてもK先生の観察力の鋭さと花の知識には驚かされっぱなしだった。
例えば「ギンリョウソウ」という花。
背丈は僅かに10数㎝程度で、純白の花。
湿った樹林帯の中に生息しており、落ち葉や他の草木の隙間に埋もれるように咲いている。
それだけに見つけることは自分には難しかった。
それをいとも簡単に「あったよ♪」ってな具合で発見。
「またあったよ」と言われてやっと見つけることができた程だ。
自分なりに注意して観察しながら歩いていたのだが、おそらくは視界には入っていたのだろう。
だが、どう見ても濡れたティッシュが丸まって落ちているだけにしか見えていなかったのだ(笑)。

これが雨に濡れて丸まって・・・いやいや、ギンリョウソウという高山植物。
自分の歩く足下ばかりを見ていては先ず見落としてしまうだろう。

天神田代に入った。
右手前方にはまだ残雪のある平ガ岳が見えてきた。
何度見ても苦い思い出が蘇ってくるなぁ。


田代であれば視界も良好で、自分でも小さな花を発見することができた。

コイワカガミ(ピンク)とチングルマ(白)
これなら自分にも分かる高山植物だ(笑)。
ん?、待てよ。
チングルマって、もっと標高の高い地帯に生息しているものとばかり思い込んでしまっていた。
へぇ~~、そうだったんだ。
尾瀬でも見ることができるんだ。
今日は花の名前を覚えることがメインだが、チングルマの生息域にまで学習できようとは何というラッキー。

そしてこれは「タテヤマリンドウ」

名前を聞いて驚いた。
「えっ、これがリンドウなんですか? リンドウって言えば・・・」

花の直径は1㎝ほどだろうか。
あまりにも可愛らしい青い花は、およそ自分の知っているリンドウとはかけ離れていた。
そしてこの花は、太陽が当たらないと花を開くことがなく、雨に濡れると花を閉じてしまうとのこと。
帰路で見かけた時には確かに花を閉じてしまっていただけに、偶然とはいえ雨が降る前に撮っておいて良かった。

今までの登山は、技術や様々な道具の使い方、エマージェンシー的な場面での対処法などを中心とした、どちらかと言えばハード面ばかりを意識したものだった。
高山植物の世界は、何とも奥深く初めて知ることばかりだ。

お花の勉強会:やっぱり尾瀬でしょ!

2015年08月02日 01時02分13秒 | Weblog
恥ずかしいことだが、花、特に高山植物に対しては全くと言って良い程興味や関心がなかった。
「お~花が咲いてる」「可愛いなぁ」「なんかホッとするね」
そう感じることは幾多とあったが、かといって名前を調べてみようなどと行動に移したことは皆無かもしれない。
岩稜地帯の縦走や岩場を登攀している時に、身の危険を感じながらもふと足もとを見ると可憐な花が・・・。
そうやって刹那の癒しをもらっていながらただそれきりだった。
では何故今更「花」なのか・・・。
「仕事上必要に迫られて」もあるのだが、これからも山に登るのであれば覚えておいて決して損はないと思い始めたのがそもそものきっかけだ。

事実つい先日、毎年恒例になっている「劔岳単独登攀」に行ってきた時に、自分でも「うっそ~」と言う程高山植物の写真を撮った。
それにより今まで感じることの無かった「もの」を感じ取れるようになったのだ。
もっとはっきり言えば「登山スタイル」にちょっとした変化が生まれた。
今までは技術を主とした経験値や実践力の向上とか、ギアの使いこなし方とか、どちらかと言えばハード面が中心の登山だった。
ところが高山植物の写真を撮ることで、より周囲に目が行くようになった。
名前は知らない花の方が圧倒的に多いのは事実だが、それでも登山に「幅」が生まれてきた様に思える。

前置きが長くなったが、幸いに自分の職場に高山植物に詳しい女性スタッフがおり、その方と尾瀬に行くことになった。
尾瀬と言えばお花の宝庫!
おそらくは全く知らない花ばかりだろうが、これは明らかにチャンスだ。
それに7月に入った今なら「ニッコウキスゲ」が見られるかも知れない。
ガイドブックをザックに入れ、いざ尾瀬に出発♪

7月8日、まだ梅雨明けはしてはおらず、雨は覚悟の上。
早朝に宇都宮を出発し、今回は福島側から尾瀬入りとした。
北の入り口である「御池」から「燧裏林道」を通り「三条ノ滝」を目指す。
尾瀬には何度も足を運んではいるが、三条ノ滝へはお互いにまだ行ったことがなかった。
ピストンルートではあるが、湿原だけでなく樹林帯も通るし、多くの花と出会えそうだ。


こちらの女性が、本日の私の先生であるKさん。
「よろしくお願いします。m(_ _)m」と言いながら、でかい態度の写真。
果たしてどれだけ自分が覚えられるか(汗)。

小さな林を抜けるとすぐに御池田代へと出た。
お目当てのニッコウキスゲは一週間程時期が早いらしいが、それでも結構咲いているという情報は得ていた。
田代の木道沿いに早速見つけたが、残念ながらまだつぼみだった。
が、しかしその先にオレンジ色のツツジを発見。

名前は・・・え~っと確か「ヤハタツツジ」だった・・・かな(汗)。
それとも・・・・・

こんな具合で、もう既に名前を忘れかけてしまっている。

上田代に入ると、今度は「ワタスゲ」が咲いていた。
(これなら俺も知ってる。ホッとした。)
しかし、見慣れているはずのワタスゲをこれほど接近して観察するように見るのは初めてだ。

「ワタスゲかぁ・・・。なんか一口サイズのわたあめだなぁ。」
そんなことを言っているからいつになっても覚えられない。

先が思いやられる一日になりそうだった。