ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

やっぱり登りたい!「慌てずゆっくりマイペースで・・・」

2019年08月28日 21時11分13秒 | Weblog
下山時の滑落事故は多い。
それが技術を必要とするコースであれば尚のこと多い。

雪壁を下るということは、アイゼンやピッケルの技術だけでなくそれなりにメンタルも必要とされる。
現場でこそ得られる技術を習得することは大切なことだが、落ちてしまえばそれまでだ。
本音を言えばアドバイスをする自分とて緊張が走った。

まずは一つ一つの動作を確認しながら動くこと。
そして動きの次は確実に刺すこと。
急ぐことは必要ではなく、自分のペースで確実に行うことだ。

一通りのアドバイスと説明をし、自分から先に下った。
自分はノートレースのコース取りをしたが、N君には凹凸のはっきりとしたトレースが残っているコースを下りてもらうことにした。
本人もそっちの方が安心できるらしい。


登攀時よりもゆっくりだがそれでいい。
絶対に急いではダメだ。
写真を撮りながらアドバイスを送るが、やはり登りの時よりも緊張感が伺える。


自分を追い越し、そのまま安定ポイントまで下ってもらった。


N君の声にニッコリ。
緊張感は大切だが、少しはリラックスも必要だ。


本音を言えば、ノートレースのコースは気持ちがいい。
殆どの登山者がトレースに沿っているだけに、「自分だけのコース」という自己満足に浸れる。
これもある意味贅沢なことだ。


今度は上からN君を見下ろしてアドバイスを送る。
現実としてはかなり厳しい現場だが、技術の習得にはこれ以上のセッティングされた現場はないだろう。
本人は辛いかも知れないが、経験値としては数段階アップしていることは間違いない。
そのためにも何としても無事下山させなければならない。

時間はかかったが、雪壁が終わり岩稜地帯へと戻ってきた。
ここはここでまた別の緊張感を強いられる。
アイゼンの爪が逆に危険性を高めてしまうからだ。

幸いに小屋からのスタート直後に経験していることもあり、それなりに爪を用いた岩場の通り方は分かっているだろうし、引っかけてしまうことさへ気をつければ小屋までもう少しだ。


ピッケルは用いず、両手両足で岩肌をつかむ。
もう小屋の屋根が見えている。
早く落ち着いて一服したいものだ。


鉄梯子は安全のための設置だが、アイゼンの爪にとってはかなりやっかいなポイントにもなってしまう。


雪壁よりは楽に下ってきているように見える。
そのままゆっくりマイペースで・・・。


いい調子!

13時に穂高岳山荘に無事下山した。
やっとホッとできる。
軽く昼食を食べ一服し、テン場で待っているKMさんにお土産を購入した。
ここからテン場までは一時間もあれば戻れるが、心配なのはザイテングラード沿いの雪崩だ。




やっぱり登りたい!「馬の背はどうだ?」

2019年08月24日 23時06分30秒 | Weblog
「馬の背」と呼ばれるポイントへ行くためには、夏ルートとは全く違ったルート取りをしなければならない。
両サイドが切れ落ちたナイフリッジの稜線上を通り、馬の背へと向かう。


トレースは一切無い。

ノートレース上のナイフリッジを進むことは何度も経験はしているが、このルートにおいては初めてだ。
緊張はあったが、それよりも期待感が上回っていた。
どこか楽しみにしている自分がいた。

かなり危険なコースとなるため、N君は奥穂のてっぺんに残し自分一人でスタート。
一歩一歩が楽しい、そして重い。
その重さは未知のルートへの緊張感でもある。
「夏は何度も歩いているけど、やっぱりこの時期はまったく違う。」
そんな当たり前のことを思いながら一歩一歩慎重に進んだ。

徐々にナイフリッジが厳しくなってきていることが嫌でも分かった。
両サイドの切れ落ち具合がスタート時よりもあきらかにきつい。


どこまで行けるかは行ってみなけりゃ分からないが、せめて馬の背を下りてみたい。
雪がしっかりと付いていてくれれば下りるだけの自信はあった。


N君が何枚か写真を撮ってくれていたが、「無理はしないでいいから。適当にね。(笑)」

途中何度か立ち止まり、雪質の状況を確認した。
緊張感は増している。
右も左も落ちたら「はいそれまで・・・」ということだけは確かだった。
より慎重に確実な一歩を刻む。
ピッケルで探りを入れ、行けそうだと思ったら一歩、そしてまた一歩。

なんとか馬の背の手前まで来たが、馬の背を見て愕然とした。

雪が無い・・・
雪が残っているのは完全にルートから数メートルも離れた下の方で、ザイルにより確保が必要だった。
「さて、どうするか・・・。アイゼンを装着したままでこの岩のかたまりの急勾配を下りるのはあまりにもリスクが大きい。」

そうは思っていてもこの先まで行ってみたいという欲求がある。
しばし二つの思いを天秤に掛け考えた。
「・・・止めよう。やっぱ危険すぎる。ザイルもないし、ましてや確保してくれるパートナーもいない。」

12本の爪がこの時ばかりは仇となったかも知れない。
それでも行けるところまでは行ってみたという実感は得た。
再びナイフリッジを戻り奥穂へと向かった。

N君には「無理だったよ」と笑って言ったが、内心悔しさはあった。
「さぁて、一服したら下りようか。小屋で何か食べたいね。」


山頂から見下ろした上高地方面。
河童橋も見える。


下山を前にくつろぐN君。


やっぱりてっぺんでの一服はうまいね♪


よっしゃ! いよいよ下りるよ。
覚悟はいいかな。


やっぱり登りたい!「分かち合う」

2019年08月16日 20時35分47秒 | Weblog
小屋から山頂まで一時間以上かかってしまったが、ほぼ順調に登攀出来たと言える。


標高3190m(日本で第3位)、奥穂高岳山頂。
登頂おめでとう!


三年ぶりの雪の奥穂高岳。
今回で4回目の登頂となるが、この時期にこれだけ快晴となったのは初めてのことだった。
これは将に感動だ。

いろいろと写真に残しておきたいところだが、まずは祠に登ろう。
アイゼンを装着して積雪のない石垣の上を登るには注意が必要だが、人工的に積み上げられたものでもあり、比較的登りやすかった。


槍ヶ岳をバックに一枚。


自分も一枚。


そしてN君憧れのジャンダルムをバックに一枚。

祠の上はさすがに狭く、三脚を用いての自動シャッターは無理があった。
一端下りて記念撮影。


ありきたりのポーズでなんかいまいちかな・・・


やっぱり感動を分かち合うならこれでしょう!

後日職場の人たちにも見せたが、この一枚が素直さをそのまま体現していると評価を頂いた。

しばらく絶景を堪能した。
いくら見ていても飽きることのない素晴らしい北アルプスの雪景色である。
この後、自分一人だけの別行動で「馬の背」あたりまで行ってみることになっている。
果たしてどこまで安全に行けるか、それは行ってみなければわからないが・・・。


「ジャンに登ってみたいですねぇ」
N君の一言は痛い程よく分かる。
自分も嘗てはそうだっただけに、ジャンへの憧憬は大きいのだろう。
ましてやここへ来てしまったら「後は行くしかない」って思いになるのは、山男なら至極当然のことだ。

さぁて、そろそろナイフリッジへ向け出発しよう。




やっぱり登りたい!:「続 雪壁を登る」

2019年08月12日 00時06分58秒 | Weblog
雪壁第二弾をスタートしようとした時だった。
自分たちより先に登頂し、下山を始めた三人グループが壁を下り始めていた。

「彼等が過ぎた後から登ろうか。こんな狭いトレースの幅じゃ交互通行は危険だし、ゆっくり行こう。」
N君の同意を得て三人組が通過し終えるまで待機した。

待機とはいえ、実践的な技術習得においてこれほど役に立つ待機はなかった。
つまり、彼等の技術をとくと拝見し大いに参考にさせてもらおうと考えた。
N君にとって是非ともお手本となるテクニックをお願いしたいところだったのだが・・・。

先行の一人はまずまずの技術であり、「なるほど・・・」とN君一言。
後の二人については、アンザイレンで体をつなぎ一人が下降し、もう一人はある程度ザイルにテンションを掛けながら上で一定の距離まで待機する「スタカット形式」で下降していた。

アンザイレンの方の先行者だが、お世辞でも中級レベル以下だった。
キックステップ時の蹴りこむ力があまりにも弱く、前爪がすぐに崩れる。
上下の歩幅が広すぎて体が伸びきってしまっている。
ピックは刺してはいるが、スピッツェが浮いたままで刺し込んでいない。もちろんピックの刺しも十分ではなく、すぐに雪面から浮いてしまっている。

「何かアドバイスを言ってあげればいいのに・・・」
そう思ってはいるが他の二人は何も言わない。
他人とはいえ、見ているこっちが冷や冷やものだった。

三人が通り過ぎた後に「どうだった? 少しは参考になった?」
とN君に聞くと「蹴りとスピッツェがちょっと・・・」
これにはN君も苦笑いで答えるしかなかったようだ。
しかし、逆を言えばマイナス部分が分かっていると言うことであり、自分はどうすればよいのかが明確であることに他ならない。
「これならこの先も大丈夫だろう」
そう確信できる安心感が生まれた。

雪壁第二弾は、自分は敢えてノートレースの壁を選択した。
先行し、途中でN君を待つ。
N君には無理をせずトレース上の壁を登ってもらうことにした。


気持ちが良い!!!
雪も締まっていて問題ない。


「○○さ~ん、こっち向いて!」
と言うN君の声に振り向く。
「ノートレースは気持ちいいよ! どう?」
「遠慮しておきま~す(笑)」


もう少しだけ登らせてもらった。
そして足元を固め、体勢を安定させてからN君を呼んだ。


第一弾の時よりは落ち着いているように見える。
いい感じ!


一定の速さ、リズムで安定している。
キックステップもピックとスピッツェの使い方も大丈夫だ。


少し自分が横に移動しパチリ。
斜度の厳しさががよく分かる。


「そのまま行けるなら安全地帯まで行っちゃって!」
「了解です。行けそうです。」
マイペースでこのまま登攀を続けてもらった。

もう大丈夫だろうと思い、先に安全地帯まで登った。
ここまで登ってしまえば後はそれほど危険なポイントはない。


お互い緊張感からの解放。
一服させてもらった。


ジャンダルムが一層間近に見える。

ジャンダルムに登ったのは三年前の秋。
AM君と一緒だった。
「もう二度と登ることはないだろうなぁ・・・」と、しみじみ思ったものだ。
だが、こうして間近に見てしまうと悪い虫がうずき始める。
「もう一回だけあそこに登りたいね。」
「行きましょうよ。一緒させて下さい。」
返事はしなかったが、だんだんその気になってきてしまった。

一息入れた後は登頂への最後の登攀開始だ。

ほんの少し登るとジャンや西穂を示す指標が、そして山頂の小さな祠がはっきりと目視できた。


赤○が山頂の祠。
あと5分程で登頂だ。

N君に「ほらっ」と言って祠を指さした。
「おぉ~! 遂にてっぺんですね。」
彼のほころぶ顔が嬉しい。

途中まで一緒に登攀したが、最後はN君に譲る事に決めていた。
俺はいい。もう何度もここに来ている。彼に登頂の歓びと達成感を味わって欲しい。

「ここからは一人だよ。俺はいいからじっくりと感動を味わって。」


自分は後から付いていった。
さぁ、もうすぐもうすぐだ。






やっぱり登りたい!:「雪壁を登る」

2019年08月08日 23時35分08秒 | Weblog
往路後半戦スタートの前にもう一度岩壁を見上げながらコース取りの再確認をした。


途中にある二箇所の鉄梯子はもちろんだが、最も気をつけることはアイゼンを装着したままでこの岩壁を登らなければならないことだ。
アイゼンは当然ながら雪の上を歩く、或いは登る(下る)為に装着するギアである。
そのギアを岩壁で使用することがどれほど危険で面倒であるか、その事実をまだN君は知らない。

「数カ所の点で岩を登るのでかなり不安定になるから。ポイントによっては前爪2本だけで岩の窪みに引っかけなきゃならないこともあるし・・・。逆に爪が岩に引っかかってバランスを崩して転倒滑落ってこともあるんだ。」


あーだこーだと説明をするが、実体験に勝るものはない。
先ずは自分が先導し、第一の鉄梯子手前まで登った。
とにかくゆっくりと足場を確かめながら登ってもらった。
三点支持を手を抜かずに行うことも繰り返し伝えた。

なかなか良い調子で来ている。

次に鉄梯子だ。
アイゼンの前部プレートと後部プレートの間に足を置き、一歩一歩登る。
この時どうしても前爪が引っかけやすくなる。
つまり、梯子を踏み外してしまう危険が高い故に、目で確認しながらブーツを置くことが重要だ。


順調に来ている。

「先ずは一息入れようか。この先もっと大変になるから。」
と言って苦笑いをするが、N君にしてみれば苦笑いをすることさへできないくらい緊張しているのだろう。

コースを見上げる。
将に「壁」だ。
小屋から見上げたあの雪壁のスタートポイントに来ているが、間近で見ることで70°ほどの壁であることが嫌でも実感できた。
もちろん自分は何度もこの壁を上り下りしてはいるが、初挑戦のN君の一言が印象的だった。
「僕には90°の壁にしか見えません。」

もちろんここも自分が先導する。
手足を動かす順番、キックステップの角度、ピッケル(ピックやスピッツェ)の刺し方、トレースの活用などを説明しながらゆっくりと数メートル登った。

初めは自分がノートレースエリアである真横に移動し、N君はトレースを利用して平行ポジションで登った。
さすがに飲み込みが早い。
次に自分が先に登り、上からアドバイスをした。
「オッケー、登ってきて!」


どの窪みを利用すればいいのか迷いがある様にも見える。
当たり前だ。
誰だってできるだけ安全確実なポイントを探し、そこを利用したいに決まっている。


とにかくゆっくり、そして確実にキックステップとピック・スピッツを刺すこと。

自分の影が映ってしまっているが、はっきり言って写真を撮るのも結構シビアなことだった(笑)。

「撮りますよ。」というN君の言葉に甘えて、トレース上で一枚お願いした。


下山後にディスプレイで確認したが、落ちたら一発でアウト~! とんでもない斜度だ。

少し落ち着けるポイントまで登ったところで緊張をほぐした。
振り返れば遠くに槍ヶ岳が見えた。


これにはN君もかなり感動したようで、「この景色を見ることが出来ただけでも来た甲斐があります。ましてやまだこんなに雪があるわけだし。美しいです。」

なんと純粋な言葉だ。


じっと見とれてしまっているN君。


自分も撮ってもらった。

この先にも同じような壁がある。
そして距離は長い。

やっぱり登りたい!:「デブリを登る」

2019年08月05日 23時27分40秒 | Weblog
ザイテングラードの北側(右側)に沿って登攀を続ける。
N君には自分のペースに合わせてしまうとかえって疲れるかもしれないので、マイペースで良いから先に登攀して欲しいと伝えた。
斜度は増すばかりで、しかもデブリのとんでもない凹凸の上を登ることになることから幾つか注意事項だけを言い先行してもらった。

「これでいい。体力のない自分に合わせるよりも本人のペースで登ってもらった方が疲労は減るだろう。雪崩が起きてしまった時の対処方法も伝えたし、あとはどれだけ落ち着いてそれを実行できるかだ。」


凹凸の激しい面がデブリ(雪崩の跡)。

初めはできるだけデブリの無いコース取りをしていたが、やがてどこをどう登ってもデブリの真上を登攀せざるを得ない状況となった。
これは厳しかった。
足元が不安定で、「ズボッ!」っと言う感じで膝近くまで埋もれてしまうなんてのは当たり前。
デブリの上を登攀することなど過去に何度も経験してはいるが、今回は斜度が徐々に厳しくなってきている。
体力が次第に奪われて行くのは至極当然のことだった。

息が切れる。
「ハァハァゼイゼイ」という呼吸音が体全体に響き渡る程だった。
10m程登っては息を整える。
或いは30歩だけ登っては息を整える。
ずっとその繰り返しだった。


時折前穂高の方を見ながら斜度を確認した。
「結構あるなぁ・・・ゼイゼイ」
「ザイテンの終了まではまだあるなぁ・・・ゼイゼイ」
それらを言葉にして出すことすらきつかった。
自分の体力の衰えを実感しながら汗だくでの登攀だった。


腕時計の表示を時刻表示から高度優先表示へと切り替えた。
穂高岳山荘の標高が2983mであり、「あと何m登れば終わる」というカウントダウン方式だ。

ザイテンが終わりかけ、その先に見える奥穂高岳の西壁からは雪が滝の様に落ちて行くのが見えた。
これもある意味雪崩である。
もちろん小豆沢にも小さな雪崩が起きていた。
幸い自分の登攀ルートにだけは起きてはいなかったが、これも時間の問題だろうと感じていた。
「今は体がきついけど、下山のことも考えなきゃダメだ。」
そうは分かっていてもきついことはきつい。
やはりデブリ上の登攀は想定していた以上に体力を消耗してしまった。
いや、単に自分の体力がなさ過ぎるのかも知れないが・・・。

頻繁に高度計の数字とにらめっこをすることが増えた。
「っしゃぁ~! もう少しだ。ゼイゼイ」
これも言葉に出ないで思うだけ。
あぁ情けなや、この体力の無さ・・・。

そしてやっとのこと、白出のコルがはっきりと目視できる標高まで来た。
ここまで来ればもうほんの少しで小屋に着く。
ようやく斜度が緩み、通常のケインポジションで登れる程になってくれた。
「N君には申し訳なかったなぁ。30分くらいは後れを取ってしまったかも知れない・・・。」
そう思いながらコルへと向かった。


穂高岳山荘の赤い屋根が見えた。
そしてN君の赤いアルパインジャケットも・・・。

「いやいやお待たせして申し訳ない。やっと到着です。 m(_ _)m  どれくらい待った?」
自分の予想通り30分程早く着いたそうだ。
すると突然「ここを登るんですね。こんなところを登るんですね。」と、不安そうな表情。
「そうだよ。下調べの画像よりも現場の方が迫力があるだろう。」
「本当にすごいです。宜しくお願いします。」

体力の無さで後れを取ってしまった自分だが、頼りにされている。
経験と技術だけはしっかりと伝えなければならないと改めて思った。

一服し終え、N君に是非とも見せたいものがあると言って小屋の裏側へと案内した。


「ジャンダルム」である。

「今日はあそこまでは行かないけど、夏になったら行ってみるといいよ。当然上級コースでそれなりに危険だけど、達成感とか充実感は間違いなくあるから。」

今回は奥穂高岳の登頂後に、「馬の背」方面へ行けるだけ行ってみることになっている。
それは積雪量や雪質次第であり、現場で決める。

奥穂高岳の往路における前半戦は終了した。
ここまではむしろ体力が勝負であり、後半戦は技術とメンタルが勝負となる。
その技術も、はっきり言ってしまえば積雪量と雪質によって毎回(毎年)違ってくる。
事前の情報では、雪壁は例年よりも距離が長くなっていることだけは確かなようだ。

やっぱり登りたい!:「残念だが・・・」

2019年08月03日 14時12分38秒 | Weblog
午前3時30分に起床した。
空はまだ暗く、テントの外へ出ればかなり寒さを感じた。
「天気は・・・まぁまぁかな」と、一人でニヤニヤしながら一服する。
天候に恵まれると言うことは、マイナスに考えれば雪崩が起きやすいと言うことに他ならない。
この時期の雪山は天候に関係なく起きる時は起きる。

珈琲を飲み朝食を済ませ、アタックザックの中身を最終確認した。
他の二人のことを考慮し、万が一のために予備のピッケル一本と、20mのザイルも入れた。
「使わないにこしたことはないけどなぁ・・・」
そう思いながらもやはり万が一だ。

5時にスタートするために小屋へ行き歯磨きを済ませて戻ると、KMさんが暗い表情で近づいてきた。
「ひょっとして・・・」と思ったが、予感は当たった。
どうにも体調が優れないとのこと。
このまま登ればかえって迷惑を掛けることになるので、テン場で待機したいと言ってきた。
即答ではなかったが、無理に登頂を目指すには厳しいルートだけに彼女の気持ちを尊重し「わかった。途中で引き返すにも結構辛いからね。残念だけど二人で行ってくる。もし体の具合が悪化したらすぐ小屋へ行って状況を説明すること。俺たちにはメモか伝言を残しておけばいいから、自分の体を優先すること。いいね。」

本音を言えばここまできて残念である。
三人で一緒に登頂したかったし、てっぺんからの絶景を見せてあげたかった。
だが無理も禁物。
体調が悪い時に無理をしても良いことなど何もない。
それは自分が一番分かっていることだ。


準備は整った。


KMさんには何か申し訳ないような思いだったが二人で登頂を目指す。


ザイテングラードの北ルートをとりながら登るが、ザイテンの取り付き口までをどうルートファインディングするかはまだ決めていなかった。
斜度は厳しくなるが直登にするか、やや斜度の緩い右から登るか・・・。
滑落停止訓練を兼ねて登りたいというN君の希望もあり、斜度の厳しいコースをとることにした。

時折振り返りKMに手を振った。
「もうテントに戻っていいよ」というサインを出したがなかなか戻りそうにもない。
まぁ自分たちは自分たちで行こう。


ピッケルを用いての滑落停止訓練の開始。
このように現場で訓練することは極めて大切だし、何よりも緊張感がある。
もちろん周囲の安全を確認してから始めたが、あまり時間を掛けてしまっては予定が立たない。
30分程で基礎訓練を終わりにし、再びザイテングラードを目指した。

N君には自分より先に登ってもらい、途中途中で自由に停止訓練をしてもらった。
自分は後方からそれを見て評価をした。


先を登っているN君が撮ってくれた画像。
実はこの斜度はけっこう厳しかった。




さすが若さ溢れる青年だ。
みるみると差が開いていった。
羨ましい限りだが自分はマイペースで登らせてもらった。

やっと追いつき、振り返れば太陽が・・・。

嬉しいことは嬉しいのだが、気になるのは雪崩・・・。
それが証拠に、ザイテングラードの反対側(南側)からは「シャーーー」という嫌な音が聞こえ始めていた。
「もうこんな時間から始まったのか・・・。下山がやばいなぁ。」
N君の不安を仰ぐことだけはしたくなかったので口には出さなかった。


吊り尾根と前穂高をバックに写真を撮った。


初めて見る北アルプスの雪景色に感動しているようだ。
若者にはその新鮮な気持ちをいつまでも忘れないでいてほしい。
登山人生はまだ始まったばかり。
彼が20年、30年先にどの山を登っているかは分からないが、今日初めて見たこの絶景を、感動を忘れないでいてほしい。