ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

加害者(2)

2009年12月17日 23時00分45秒 | Weblog
電話をした翌日の月曜日、彼は病院までやってきた。
まずこちらから聞いたことは「昨日の日曜日はどこかに出かけていたのですか?」
「はい、家族の用事があって出かけていました。」

「冗談じゃないですよ! 私にだって家庭があって、休日には自分以外の用事のために出かけなければならないことが山ほどあります。それを犠牲にして病院に来ることを最優先しています。その意味では家族にも迷惑をかけているんですよ。
加害者のあなたは、被害者への見舞いとに謝罪に来ることよりも、家族を優先していたわけですね。」

そして、もう一つの質問。
「昨夜私があなたに電話をしていなかったら、今日ここまで来ましたか? 電話を受けたから来たんじゃないんですか?」
「いえ、初めから今日伺おうと思っていました。」
信用できるはずがない。

呆れかえって話しにならない相手だった。
誠意というものがまったく感じ取れなかった。
「とにかく、私たちが受けたこれまでの精神的苦痛に対して慰謝料を求めます。裁判を起こしますのでそのつもりでいて下さい。」(もちろん本気ではないが)

相手の足が震えだしのをはっきりと見た。
すると母からの一言。
「これは受け取りたくありません。持って帰って下さい。」と言って、相手が持ってきた菓子箱を指さした。
驚いた。あの母が・・・。
ぼくとつで、決して他人には強い言葉で言うことなどないあの母が・・・。

「事故のあったあの夜。あれから母は一人で足を引きずりながら家に戻り、一晩中痛みと苦しみと、淋しさを堪えて夜を過ごしたんです。あなたにわかりますか、母の痛みが、苦しみが、淋しさが分かりますか。」
そう言って、事故当日来ていた血まみれの下着とシャツを見せた。

話しをしている最中に、彼の携帯が鳴った。
彼はポケットから携帯を取りだし、ディスプレイを見ようとした。
「あなたねぇ、本当にすまないと思っているんですか。今、携帯どころじゃないでしょう。」

本当に自分がしたことがわかっているのか。
大人として、社会人として、人間としての常識と良識を疑う。
この期に及んでも誠意の無さを感じる。

加害者(1)

2009年12月16日 22時04分17秒 | Weblog
「ひょっとしたら自分かも知れません」と言って、自分から警察に出頭してきた男がいた。
65歳の男だった。
警察による現場検証が、事故当日とほぼ同じ時刻に行われた。
加害者かも知れない男の供述。状況証拠。物的証拠等々を総合的に照らし合わせ、その男が加害者であると判明した。
やられた方としては「何をいまさら・・・。何をいまさら『自分かも知れません』だ。とぼけているんじゃないよ。」という思いだ。
警察からは「ひき逃げ」には相当しないとのこと。
いくら加害者が判明したからといっても、本音を言えば「この野郎!!!」だ。

本人から連絡があった。「後でお見舞いに行かせてもらいます。」
「後でだと?! 今すぐに来い、この野郎!」と言ってやりたかった。
その連絡があったのが火曜日。水、木、金曜日と来なかった。
まぁ休日になれば来るだろうと思ったのが甘かった。
土日と来なかった。
いい加減頭に来て自分から電話を入れた。
「母は肉体的苦痛を嫌と言うほど味わっています。連絡をもらってから休日にさえ来ないとはどういうことなのか。母はもちろん、家族みんなが苛立ち、怒りで一杯です。この精神的苦痛に対しての賠償金を請求するために裁判を起こすことにしましたので。、そのつもりでいて下さい。」
もちろん本気ではない。つまりは、「私たちはあなたのあまりの誠意の無さに怒り心頭だ」と言うことを伝えたかったのだ。

続く・・・

カレンダー

2009年12月09日 22時49分58秒 | Weblog
術後の経過はいたって良好で、すでに軽いリハビリが始まっている。
5階の窓の外からは、市街地が見える。とは言っても小さな市、たかが知れている。そして遠くには筑波の峰が・・・。
毎日仕事帰りに病室に立ち寄り、「必要な物は?」ってな会話をする。
小さなカレンダーが欲しいと言われたが、家に帰って探しても、卓上的なものがない。なければ買うか?
いや、ちょっと待て。PCで作ってみようと思い、A5サイズの12月だけのカレンダーを作ってみた。
数字だけを並べても味気ない。思い切ってサンタクロースやクリスマスリースの挿絵を加えた。
・・・・・笑える。俺らしくないなぁ。
でも明日持って行こう。

おふくろの手

2009年12月01日 23時27分12秒 | Weblog
今日、母の手術があった。
左足くるぶしの骨折。骨がずれており、元に戻してボルトで固定するという、専門医によればいたってシンプルなオペだそうだ。

オペに要した時間は2時間ちょっとだった。
朝から点滴を打ち、オペに備えていた。
下半身だけの麻酔で済むのだが、「脊髄麻酔が嫌なんだよねぇ」となんども苦笑いを浮かべながら言っていた。
「なに言ってるの。麻酔しなかったらもっと痛いんだから。」と言い返す自分。
やがて予定の時刻が近づき、手術着に着替えた。
ベッドからストレッチャーに乗り移り、エレベーターで移動。
オペ室前の廊下で一端止まる。家族が一緒に着き添えられるのはここまでだ。
「じゃおふくろ、頑張って! ここで待ってるから。」
そう言い、おふくろを見送ろうとしたのだが、実は迷っていることがあった。

オペ室に入る前に、おふくろの手を握ろうかどうかを迷っていたのだ。
たかが簡単なオペなのに、大袈裟なことはしたくはなかった。それに正直に言えば、この歳になっても照れがあった。

「じゃおふくろ、頑張って! ここで待ってるから。」
ストレッチャーに乗ったおふくろの後ろから声を掛け、右手を握った。
後ろから手を伸ばしたから顔は見えなかった。ほんの2~3秒だったが、しっかりと握った。
か細い手だった。温かい手だった。
オペ室のドアが開き、姿が見えなくなる直前に看護師さんの声が聞こえた。
「大丈夫ですよ。泣かなくてもいいんですよ。」

そっか、おふくろは泣いていたのか・・・。

たかがボルトで固定する簡単な手術なのに、オペ室のドアが閉まると同時に両手を合わせて何かに拝んでいた。
無意識だった。
執刀する医師。おふくろ。そして何故か死んだおやじの顔までもが頭をよぎった。

部屋へ戻りさっきのことを思い出した。
おふくろの手をあんなにしっかりと握ったのは何年ぶり、いや、何十年ぶりだろうか。
照れなどなかった。
握ってよかったと思った。