ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

紅葉と岩稜:忘れていた色

2017年02月16日 01時09分29秒 | Weblog
穂高岳山荘を後にし、ザイテングラードを下り始めた。
「まぁ2時間もあればだから、4時くらいにはテン場かな。」
「そうですね。ゆっくり行きましょう。」

またあの苦いニュースを思い出した。
途中何度も「どのポイントで滑落したのだろうか・・・」と考えてしまった。
こんな場所で人が簡単に亡くなってしまうことの現実。
それが登山の怖さでもある。
あまり考えすぎないようにはしたが、「ここか・・・このあたりか・・・」と、つい思い出してしまった。


景色の良いところで「ハイ、ポーズ」

下るに連れ岩肌以外のものが目立つようになってきた。
這松の緑。
そして朱や黄色の紅葉だった。
「そっか、今は紅葉の時季だったんだっけ・・・」
「岩ばかり見ていたような気がしますね。すっかり忘れてましたよ(笑)」
そう、涸沢はまだ紅葉の季節なのだ。

自分たちが出発する数日前に腹ペコ山男さんも涸沢へと足を運んだようで、まだ何とか見頃であるという現地情報を得ていた。
今回の山行だって、ジャンに登ることだけが目的ではない。
せっかくこの時季に涸沢まで行くからには紅葉を愛でることも大きな目的なのだ。

下山ルートは「パノラマロード」を下った。
すると見事な朱色が目に入ってきた。
「いやぁ~鮮やかだね!」
「ここに来てやっと緊張がほぐれたような気がします。」
AM君の言う通りだ。
ザイテンの登りから始まり、奥穂高岳へ。
そこからは全く気が抜けないジャンの往復。
そしてまたザイテン。
休憩時間も含めれば7時間近くも岩ばかり見ていたことになる。

近づいて見てみると、葉はややチリチリ状態になりかけている。
紅葉もあと数日で終わってしまうのではないだろうか。
ギリギリ間に合ったようだ。


朱、黄、緑が入り交じっている。


標高を下げるに連れ紅葉ポイントが増えてきた。


ふり返るとまた違った鮮やかさを見せてくれた。


涸沢小屋周辺の紅葉。
今朝はあの真っ只中を突っ切るようにして登っていったのだが、まだ暗く残念ながら愛でるには至らなかった。

「いいもんだね、自然は。時間があればここで珈琲もいいかもね。」
「手つかずの自然は贅沢ですよね。」
お互い危険から解放されたという安堵感があった。
時々立ち止まりこの贅沢な景色を、忘れてしまっていた色を堪能しながら歩いた。

テン場に帰ってきた。
「おめでとう! 頑張ったね。」
そう言ってガッチリと握手を交わした。
「来年の夏は劔だよ。」
「ホントですか? 自分なんかが大丈夫ですか?」
「大丈夫。間違いなく登れるよ。それに俺が一緒だし。」
これは決して下駄を履かせたお世辞でもなく、自分自身の驕りでもない。
今日の彼の動きやメンタル状態を見ての判断だった。
それに自分自身も何としても彼を登らせてあげたいという思いがあった。


今夜はヘッデンを灯しながらテントの外で夕食を食べることにした。
準備だけを済ませ、18時に活動開始。
明日は上高地まで戻るだけだから少々夜更かししても問題はないだろう。
体を伸ばしてちょっとだけ寝ることにした。
登山靴を脱いだ時の開放感は格別だった。

紅葉と岩稜:忘れていた味

2017年02月11日 00時32分47秒 | Weblog
奥穂の山頂を後にし、小屋まで下山を始めた。
時折左手を見ながら下った。
つい数時間前にはあの岩肌にしがみつくようにしていた自分たち。
それはもう過去のことに過ぎないのだが、愛おしむように過ぎ去った過去にも感じてならない。
そしてジャンダルムのてっぺんにいたということも同じだ。
「おそらくはもうあそこ行くことはないだろう・・・。俺の人生においてもう二度と来ることのない場所。」
そう思うと尚のことあの屹立した岩稜群が愛おしくてしかたなかった。

鉄梯子を下り、穂高岳山荘に着いた。
お互いほぼ同時に発した言葉は「腹減ったぁ~!」であった。
小屋に入り煮込みうどんを注文した。
「これは俺のおごりね。まだ完全に下山したわけじゃないけど、目標を達成できたお祝いだから。」

実に美味いうどんだった。
おそらくは冷凍うどんだろうとわかる食感だったが、空腹と汗をかいた体にはこの上ない美味さに思えた。
「体を動かし続けた後って本当に美味いんだよなぁ。」
二人とも笑みを浮かべながら、最後の汁の一滴までも飲み干して食べ終えた。

お湯を沸かし珈琲を飲んだ。
この時のためにと思い持ってきたドリップ珈琲だ。
外へ出て一服しながら飲んだ。

「贅沢な味ですね」
「山って不思議だよなぁ。何を食べても何を飲んでも美味いんだよなぁ。これって、如何に日常生活が変哲の少ない、言い換えるなら感動の少ないものかってことなのかなぁ。食材を大切にしないことだってあるしね。」

今はこうして、たった一杯の珈琲でさへ心から味わい美味さを堪能しているが、下山し数日もすればまたありきたりの味に戻ってしまうだろう。
下山してしまえば唯の俗物人間なのだ。

それでもこの過ぎ行くひとときは最高の一杯となってくれた。
煙草も美味い!

紅葉と岩稜:再びのロバと馬

2017年02月09日 22時02分41秒 | Weblog
ジャンから奥穂へ向けての縦走は初めてとなる。
嬉しいような、それでもちょっと緊張を強いられるような思いだ。

ジャンの側壁をトラバースした。
なんか変な感じだった。
新鮮であるような気もするのだが、ぎこちないトラバースでもあった。


AM君が後からついてきた。
技術的には問題はないだろう。
強いて不安を言えば、ジャンのてっぺんでリラックスし過ぎてしまった感があり、気持ちを完全にリセットできているかどうかだろう・・・。

ロバの耳の岩壁を下る。
やはり復路の方がやや難しいような気もしたが、それは初めての逆ルートであることも理由の一つだと感じた。


AM君が来るのを待った。
大丈夫のようだ。気の緩みは無い。

ロバから馬の背に向かう途中の上りで、ほんの僅かな区間だったがルートを間違えてしまった。
本来のルートよりも数メートル左側の岩壁を登ってしまった。
上りながら思ったことは「なんかやたら小さい浮き石が多いなぁ。まぁこんな感じだろうし、このまま上まで行けそうだし・・・。」
そう思っているとAM君から一言。
「○○さ~ん、たぶんルートこっちだと思いま~す。」
名前を呼ばれてその方角を見ると、確かにペンキによる印が見えた。
「あっ、やばい。どうりで浮き石だらけだと思ったよ。まぁ行けそうだから行ってみるよ。」

本来であればすぐに正式なルートへと戻らなければならない。
わかってはいたが、「行けそうだから」という勝手な思い込みでそのまま登ってしまった。
結果として何事も起きなかったが、決してほめられた行動ではない。
悪い意味での「慣れ」が出てしまった。

馬の背の登り口へと着いた。
「へぇ~、見上げてみると結構な急登攀なんだなぁ・・・」
「何度来ててもやっぱり逆って違いますか?」
「そうだねぇ、さっきのロバの耳なんてどうにも動きがぎこちなくて・・・」

それでも上りの方が幾分楽なようにも思えた。
いたってスムーズな上りで馬の背を攻めた。

風に煽られながらのナイフリッジは、なんど経験しても緊張する。


ここでAM君が来るのを待つことにした。
あまり間隔を開けすぎないこともペアを組んだ時の重要なポイントとなる。


彼の動き、技術を見ながら思った。
「これなら劔岳も問題ない。よっしゃ、来年の夏は一緒にタテバイヨコバイかな。」


奥穂に戻ってきた。
「腹減ったなぁ」
「いやぁかなり空いてきました。」
「小屋に着いたら何かたべようか?」
「いいっすね!」

最も危険な地帯を越え、ホッと安心した後はどうしても腹が減る。
美味い珈琲も飲みたくなった。

紅葉と岩稜:天使にKISS

2017年02月02日 00時12分47秒 | Weblog
ジャンダルムのてっぺんは将に強風の通り道であり、風に煽られながらの休憩となった。
それでもあの時の清々しい気持ちは忘れることができない。
「もう少しだけ。もうちょっとだけここにいたい」という思いに何度も駆られた。


画像ではちょっとわかりにくいが、AM君が手に触れているのは天使のオブジェ。
今はどうやら二代目の天使になっており、山好きの誰かが自作のオブジェを持ってきてここに設置したらしい。
ネットで調べればすぐにわかるのだが、それにしてもにくいことをする山男だ。
大勢の登山者が、この天使に会いたくてここまで来たと言っても過言ではない程有名な天使なのだ。(実は自分もその一人)


軽く行動食を済ませ、天使を挟んで槍をバックに一枚。
少しのんびりとし過ぎてしまったが、実に見飽きることのない360°北アルプスの大パノラマを堪能した。


ほぼ中央で目立ってる三角お山が槍ヶ岳。そこからやや右下に見える赤い屋根の建物が穂高岳山荘。


そのまま右へとカメラを移動すると、穂高岳が見える。


穂高岳から右の稜線が前穂高へと向かう吊り尾根。
手前に向かってくると、ついさっき通ってきた馬の背とロバの耳の岩の牙。


更に右へ移動すれば上高地周辺と梓川が見える。


西穂高岳へと続く稜線。
その先には焼岳が見える。


笠ヶ岳。
左上の彼方に見えるのはおそらくは白山ではないかと推測する。


再び槍ヶ岳。

このような日本の屋根を一望できる程の天候に恵まれたことに心から感謝したい。

さて、ジャンの天使に会うことも今回の目的の一つであったことは前述した。
ジャンを去る前にどうしてもやっておきたいことがあった。

「いい歳して気持ちの悪いことやってんじゃねぇよ!」

というお叱りの声が聞こえてきそうであるが、それなりに苦労しなければここへは辿り着けない。
まぁ年寄りの戯れ言的なものと思って勘弁してください。m(_ _)m