ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

赤岳と横岳:ルンゼを下る

2017年07月19日 21時29分23秒 | Weblog
日の岳を巻くようにして越える。
最後は岩とクラスト状の雪面ミックスルートを登らなければならない。
決して難しいルートではないが、今日最後の登りルートだけに慎重に行きたい。

自分が先行し、少し距離を置いてAM君が登ってくる。

自分が登っている時にはあまり感じなかったが、上から見下ろせばかなりの斜度となっているのがわかった。
AM君、いい感じで慎重に登っている。
クサリは必要を感じれば利用すればいい。


ここまで登ればクラストした雪面ともさよならだった。
これでもう登りはない。楽になれるけど、下りはより慎重さが求められる。
この後のルンゼの下りで、どれだけ雪に埋もれれしまうかがわからない。
膝まで・・・腰まで・・・それとも胸まで・・・。
それが気になるところだ。

ルンゼの最上部まで辿り着き、ルンゼを見下ろした。
「ここを下るんですね。すっげーところですね。」
怖さを感じつつも、雪山の感動を噛みしめているAM君だった。

「○○さんはこのルンゼは登ったことはあるんですか?」
突然の質問だったが、本音で答えた。
「登ったのは一度だけ。あとは下ってばかり。このルンゼに関しては、何故か下った方が楽に感じるんだよ。」


自分が下り始める前に、再度越え方とルートの確認をした。
・トレースは見えているが、それがベストとは限らない。また、最短距離がベストとも 限らない。自分が確認しながら下るので、そのルートに沿って下ること。
・左に見えているクサリは絶対に越えないこと。そのためにはスピードを殺し、ゆっ くりと下ること。
この二点を厳守して下り始めた。

ポイントによっては不意に腰辺りまで埋もれることがあったが、幸いに殆どは膝辺りまでであり、クラストもなかった。

続いてAM君が下る。

この斜度では、落ちたら止まらないのは確実だ。
AM君にとって経験値や技術を高めるにはもってこいのルンゼとなっている。


状況に応じて、ついさっき習得したトラバーステクを用いていた。
さすがだ。

この先、あの忌々しい思い出のポイントをトラバースする。

赤岳と横岳:クラスト

2017年07月10日 01時01分19秒 | Weblog
奥の院での休憩を終え、再び縦走へと向かった。
二ヵ所の梯子を過ぎ、比較的楽な縦走ルートとなった。
ここから「三叉峰」の分岐点までは安心できるルートで、緊張感からも解放された。

ほどなくして三叉峰分岐点を示す指標が目視できた。

ここまで来れば後は日の岳を巻いてルンゼを下り、東斜面をトラバースすれば地蔵の頭へと辿り着く。
予定しているルートタイムより遅れ気味だったが、今日は夕方までに完全下山すれば良いだけ。
慌てることなく進めばよい。

指標ポイントで一服したが、やや腹も減ってきていた。
行動食を摂ったが、もう少し食べたいと思える程減っていた。

ふり返れば奥の院が見えた。
将に稜線に沿った縦走ルートであることがよくわかる。
「どう? 本格的な雪山縦走は。 今度は単独で来られるんじゃない?」
「とてもじゃないですけどまだまだ無理です」
はにかみながらの返事だったが、その後の視線を下に向けた表情は本気のようだった。

10分程休憩をし、日の岳へと向かった。
日の岳を越えるには、一端西側へと下りそのままトラバースし、ルンゼへ向けて直登する。
すぐに下りルートのクサリ場が見えた。
稜線の西側のクサリ場であることから、雪面が固く締まっていることはある程度は予測できたが、思っていた以上の固さとなっていた。
なんとなく嫌な予感がした。

トラバースルートへと出ると、その予感は的中していた。
雪面が光っていたのだ。
嫌なひかり方だった。
「ここはトラバースだけど、ちょっと調べてくるから待ってて。」
そう言って一歩を踏み入れてみた。

爪が上から十分には刺さってくれなかった。
わずかには刺さるのだが、身の安全を確保するには決して十分ではなかった。
スピッツェはそれなりには刺さる。
「スピッツェだけで行けるか・・・いや、ちょっと距離があるなぁ。それにこれだけの斜度だし、落ちたらこの固さで制動ができるかどうか・・・。」

少し考え、自分一人ではないこともあったし無理は控えることにした。
問題はトラバースの技術だった。
単純な斜面でのトラバースであれば、山側にスピッツェを刺し、フラットフッティングで通過すればよい。
それができないとなれば、フェイスイン体勢でダガーポジションでのピッケルワーク。
そしてアイゼンはキックステップで移動するしかない。
しかも徐々に下るようなルートとなっている。
この技術はまだ彼には教えてはいなかったのだ。

もう一度考えた・・・が、やはりこれで越えるしかないだろうと結論づけた。

AM君のところに戻り、状況を説明した。
雪面のクラスト状態が予想以上に強く、通常のトラバースができないこと。
フェイスイン、ダガーポジション、キックステップ等々を一通り話し、納得してもらうしかなかった。
「先ずは俺が一定距離のポイントまで移動するからよく見ていてほしい。無理に力任せに蹴りこんだり刺す必要はなくて、それよりも確実に三点支持で移動することが大切だから。そしてゆっくりと進むこと。大丈夫!」




AM君にはっきりとわかるよう、敢えてゆっくりとした動作で進んだ。
今度はAM君の番だ。
OKサインを出し、こっちへ来るよう促した。



「OK OK、そのままゆっくり。いい感じで来てるよ。」

とにかく彼を安心させたかった。




表面はバリバリの氷と同じような雪面。
しかしバリバリなのは表面だけでなく、中ほどまでもクラスト状態だった。
さすがは南八ヶ岳の西壁・・・などと感心している場合じゃない。
一緒だったのがAM君で良かった。
人を連れてくるにも、場所やルートによっては事前に人を選ぶ必要があると痛感した。

赤岳と横岳:奥の院。てっぺんへ・・・

2017年07月07日 00時54分52秒 | Weblog
今更ながらだが、改めて雪山の怖さと難しさを思い知らされた。
積雪量が違っただけで、前回あれほど怖い思いをしたリッジが何事もなかったかのようにスムーズに渡りきることができた。
もちろんそれなりに幅の狭いリッジであり、右に落ちたら致命傷であることに違いはない。
しかし、積雪量のおかげで前回よりも幅のあるルートとなってくれていた。

リッジを渡り切ったポイントでAM君をまった。

本来であれば、高さの無いもう少し手前の左側から下りることができれば助かるのだが、雪の固さがどれ程のものであるかがわからなかった。
ましてやその辺りにトレースは無い。
少々危険だったが右手の崖ギリギリの手前を下りるポイントに決めた。

どうやら落ち着いて下りることができている。
さすがAM君だと思った。


先に「ヨコバイ」と呼ばれるくさり場を通過してもい、自分は二番目に通過した。
その先に三人グループの人たちが待機していた。
「お待たせしました。どうぞ行ってください。」
と言ったが、「いやぁー(自分たちには)厳しいです。」という返事。
だが、ここを通らねば再び来たルートを戻る他に術はない。
「大丈夫ですよ。ヨコバイはクサリにつかまれば問題ないし、あの岩だってスタンスやホールドポイントはかなりありましたから。」
そう言って彼等と別れ、奥の院の岩峰に取り付いた。

先ずは自分が先導してっぺんへと登り始めた。

「風がない。ありがたい・・・本当にありがたい。前回もその前もここを登った時には猛烈な風か吹雪で、まともに顔を上げることができなかった。今日は助かるなぁ。」
そんなことを考えながら一歩一歩登った。


山頂の少し手前で進むのをやめ、AM君を待った。
「ここも俺は何度も来ているし、到達は彼に・・・」
と、考えていたからだ。

途中、穏やかな風についつい甘えてしまいずいぶんと休憩をしてしまった。
テント場を出発して4時間30分、遂に横岳「奥の院」に到達した。
AM君が先に指標に触れ、次いで自分も・・・。

思わず指標を抱きしめた。
無意識で出てしまった行動だったが、いい歳をして恥ずかしい。
(「二年振りだね。お待たせ。」)
そんなことを心の中で呟いた。


本当はバラクラバを外して顔を見せて撮りたかったのだが、さすがに2800mを越えると外気温が厳しく、「まっいいか」。

奥の院でも20分程休憩を取ってしまった。
「諏訪湖」と思える大きな湖が見えた。
そしてピーカンではないが、両手を広げると南北に連なる八ヶ岳連峰が一望できた。
西側を見下ろせば、怪獣の角みたいな大同心の岩峰は圧巻だった。


「おーい、落ちるなよぉ~」
と、言いつつ自分も・・・。

暫し絶景を堪能し、気持ちをリセット。
ここから先の縦走にも、気を引き締めなければならないポイントがまだ幾つか残っている。

赤岳と横岳:「奥の院」へのリッジ

2017年07月01日 23時02分36秒 | Weblog
「奥の院」とは、横岳山頂の別称である。

前回この奥の院へ登り縦走したのは二年前の冬のことだ。
最も緊張したのは、今いるポイントから奥の院へと向かうほんの手前のリッジ通過。
あの時の状況ははっきりと覚えている・・・はずだったが・・・。


ここからでは確認できないリッジが間違いなくある。
もう少し近づいて状況を確認した方が良いと判断した。
一歩一歩近づくが、緊張感も少しずつ増してきているのが自分でもわかった。


AM君には事前に何度も説明をしておいた。
「手前のリッジが一番危険だから。先ずは自分が通過して状況を教えるから。」

距離は僅かだが、何ともいやらしいリッジだったことを覚えている。
今日は幸いに微風。
本当にありがたいことだった。


デジカメでズームし、リッジ付近を確認した。
すると数人の人間が動いているのが確認できた。
(「こっちへ向かっているのか、それとも奥の院へ向かっているのか・・・。ここからじゃわからないなぁ。」)
そう思いもう少し近づいてみた。

どうやらこっちへ向かおうとしているようだった。
大声で声を掛けた。
「どうぞー! 先に来て下さーい!」
「いえー! ちょっと怖くて考えてるところでーす。先に来てもらえませんかー!」

少し迷った。
自分独りだけなら即OKなのだが、今日は違う。いや、彼なら大丈夫だろう。
そう思い、両腕を挙げ輪を作ってOKサインを出した。
しかし、リッジの手前まで来て驚いた。
「記憶と違う・・・。こんな垂直な岩を下った覚えがない。一端下ってからリッジを通過だなんて・・・。」

高さにすれば3~4m程のものだったが、一端垂直の岩壁を下らなければならなかった。
周囲を見渡したが、やはりルートはここしかなかった。
(「しかたない、下りるか・・・。」)
諦めというか、開き直りというか、ピックと前爪を巧く使って下りれば問題はないだろうと思った。
下りる直前にAM君に伝えた。
「写真は撮らなくていいから。とにかく俺のホールドポイントとスタンスポイントをよく見て覚えておいてほしい。見たところホールドポイントはたくさんありそうだから、無理にピッケルは使う必要はないかも知れないけどね。」







自分の記憶違いを憾みながら岩壁を下った。
途中数カ所だけスタンスポイントに迷ったが、なんとか無事下へ辿り着いた。
反対側で見ている人たちにも少しは参考になったかも。
リッジよりもむしろこの岩下りの方が緊張を強いられた思いだった。

リッジを通過したポイントでAM君の番を待った。