強烈な西風だった。
三脚が立てられるだろうかという不安はあったが、ピッケルで固い雪面を少し掘り、その穴に脚を埋め込むようにして三脚を固定して記念写真を撮った。
すぐにでも下山をしようと思っていたのだが、周囲の山並みが思いとどまらせた。
南に赤岳を主峰とする八ヶ岳連峰。
西に中央アルプス、そして北アルプス。
「参ったなぁ・・・こんなのってありかよ。」
いつかは登ってみたいと思っている冬の赤岳がすぐ目の前に屹立している。
クライマーでも何でもない、唯の山好き男に過ぎない自分だが、いつしか雪山に魅せられ今ここにいる。
たかが天狗岳かもしれないが、まさか独りでテントを担いで冬山に登ろうとは、つい数年前には考えられないことだった。
3000メートルクラスの冬山登攀は将に憧憬そのものだ。
「俺の技術じゃまだ無理だろうなぁ・・・。」
「いや、気持ちの問題だよ。」
そんな相反する思いを抱きながら下山を開始した。
下山はほぼ同じルートであったが、わずかに45分で小屋まで戻ってくることができた。
それほど腹は減ってはいなかったが、ここから登山口まで下山しなければならないことから小屋のスタッフに頼んで「山菜うどん」を作っていただいた。
小屋の中は自家発電を用いているために、省エネ対策として灯りは殆ど消していた。
確かに薄暗いが、その薄暗さが木のぬくもりを感じさせる色合いとなって視界に入ってきた。
汗をかいた体にはうどんの汁が最高に美味かった。
唐辛子をたっぷりとかけ、体が芯から温まってくるのが分かった。
「ごちそうさまでした。では下山します。お世話になりました。」
そう言うと、「天気はいいから焦らないでゆっくり下りてくださいね。どうぞ気をつけて、また来てください。」
丁寧にお辞儀をされ恐縮した。
再びあの重いザックを背負うことになるのだが、食料が減った分だけ軽くなっている。
まぁ大した減量ではないが、昨日よりは楽・・・なのかな。
下山のルートタイムは、途中休憩を含めてなんと1時間15分だった。
やや急ぎ足ではあったが自分でもビックリだった。
スタート地点の橋が見え、温泉宿を過ぎてからアイゼンを外した。
テントの中以外は、ほぼ丸二日間アイゼンを装着していたことになる。
「お世話になりました。」
タクシーを呼んだが、ここまで来るのに40分ほどかかる。
その間、女房にメールを入れた。
「無事下山。夕食は家で食べる」
いつもの素っ気ない文面だ
職場には電話連絡をし、登頂と下山の報告をした。
怪我の有無と天候を心配していただいたが、目標達成に喜んでくれた。
今回は初めてのソロによる雪山テント泊。
辛口自己採点をしたが、8~9割は達成できたと言えよう。
しかし、そこに落とし穴があることを忘れてはならない。
強風ではあったが、天候にも恵まれたこと。
そしてそれによりルートを見失うことなく登頂できたこと。
上手くいったからと行って驕ってはならないのだ。
最も恐いことの一つが「驕り」だ。
数回の山行が成功すると、「俺はもう大丈夫だ。山には慣れている。」
そんな錯覚をしてしまうことがある。
それはたまたま上手くいっただけのことであり、全くの偶然に過ぎない。
確かに準備や装備、事前の下調べなどはしっかりとやった。
それでもラッキーなだけだったに過ぎないことを、決して忘れてはならない。
「赤岳」のリタイアがそのいい例であるように。
三脚が立てられるだろうかという不安はあったが、ピッケルで固い雪面を少し掘り、その穴に脚を埋め込むようにして三脚を固定して記念写真を撮った。
すぐにでも下山をしようと思っていたのだが、周囲の山並みが思いとどまらせた。
南に赤岳を主峰とする八ヶ岳連峰。
西に中央アルプス、そして北アルプス。
「参ったなぁ・・・こんなのってありかよ。」
いつかは登ってみたいと思っている冬の赤岳がすぐ目の前に屹立している。
クライマーでも何でもない、唯の山好き男に過ぎない自分だが、いつしか雪山に魅せられ今ここにいる。
たかが天狗岳かもしれないが、まさか独りでテントを担いで冬山に登ろうとは、つい数年前には考えられないことだった。
3000メートルクラスの冬山登攀は将に憧憬そのものだ。
「俺の技術じゃまだ無理だろうなぁ・・・。」
「いや、気持ちの問題だよ。」
そんな相反する思いを抱きながら下山を開始した。
下山はほぼ同じルートであったが、わずかに45分で小屋まで戻ってくることができた。
それほど腹は減ってはいなかったが、ここから登山口まで下山しなければならないことから小屋のスタッフに頼んで「山菜うどん」を作っていただいた。
小屋の中は自家発電を用いているために、省エネ対策として灯りは殆ど消していた。
確かに薄暗いが、その薄暗さが木のぬくもりを感じさせる色合いとなって視界に入ってきた。
汗をかいた体にはうどんの汁が最高に美味かった。
唐辛子をたっぷりとかけ、体が芯から温まってくるのが分かった。
「ごちそうさまでした。では下山します。お世話になりました。」
そう言うと、「天気はいいから焦らないでゆっくり下りてくださいね。どうぞ気をつけて、また来てください。」
丁寧にお辞儀をされ恐縮した。
再びあの重いザックを背負うことになるのだが、食料が減った分だけ軽くなっている。
まぁ大した減量ではないが、昨日よりは楽・・・なのかな。
下山のルートタイムは、途中休憩を含めてなんと1時間15分だった。
やや急ぎ足ではあったが自分でもビックリだった。
スタート地点の橋が見え、温泉宿を過ぎてからアイゼンを外した。
テントの中以外は、ほぼ丸二日間アイゼンを装着していたことになる。
「お世話になりました。」
タクシーを呼んだが、ここまで来るのに40分ほどかかる。
その間、女房にメールを入れた。
「無事下山。夕食は家で食べる」
いつもの素っ気ない文面だ
職場には電話連絡をし、登頂と下山の報告をした。
怪我の有無と天候を心配していただいたが、目標達成に喜んでくれた。
今回は初めてのソロによる雪山テント泊。
辛口自己採点をしたが、8~9割は達成できたと言えよう。
しかし、そこに落とし穴があることを忘れてはならない。
強風ではあったが、天候にも恵まれたこと。
そしてそれによりルートを見失うことなく登頂できたこと。
上手くいったからと行って驕ってはならないのだ。
最も恐いことの一つが「驕り」だ。
数回の山行が成功すると、「俺はもう大丈夫だ。山には慣れている。」
そんな錯覚をしてしまうことがある。
それはたまたま上手くいっただけのことであり、全くの偶然に過ぎない。
確かに準備や装備、事前の下調べなどはしっかりとやった。
それでもラッキーなだけだったに過ぎないことを、決して忘れてはならない。
「赤岳」のリタイアがそのいい例であるように。