ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
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猛暑の劔岳:足が竦むという感覚

2018年09月24日 00時01分41秒 | Weblog
モアイ像まで近づいた。
「さて、一服して食べようか。」
「いやー腹ぺこです!」
同感だ。
北方稜線に入ってからは緊張の連続だったこともあり、忘れていた空腹感が一気に来た思いだった。

煙草を吹かしながら通ってきたルートを改めて振り返った。


どこをどのように通ってきたかは覚えている。
しかしどうだ。
一見しただけではまるでどこを通って帰ればよいのか分からない。
(もし初めての場合、赤い線が考えられるルート。ルートファインディングのミスはかなり起こしやすいと思う。)

バリエーションルートを越えるには、技術だけではなく知識や経験、そしてある種の「勘」のようなものまでもが必要だと痛感した。


これが俗に言う「モアイ像」。

「北方稜線かぁ、今年も誰にも会わなかったなぁ・・・」
しみじみと思えるルートだ。

よく見ると、このポイントから北方稜線の先のルートがよく目視できた。
去年越えてきた小窓からの縦走ルートだ。

もう少し前へ出てみた。
足元はおよそ50メートル程の断崖絶壁だった。

赤い点線が稜線の下を通る北方稜線縦走ルート。ただし不明確。
実線の矢印が小窓の王を巻いて下るバンド。
通称「発射台」と呼ばれるルートで、このバンドを下りきると三の窓となり、池ノ谷ガリーへと繋がっている。

「懐かしいな」と思いつつも、この時長い登山歴の中で覚えのない感覚に襲われた。
(「あれっ、なんなんだこの感じは・・・。腰に力が入らない。膝から下がなんか震える感じだ。普通に立っていられない。えっ、なんで、俺、どうした・・・」)

崖っぷちに立つことなんて珍しいことでも何でもないのだが、急に腰あたりの力が抜け、ややかがむような姿勢になってしまった。
そして「怖い」という思いになった。

自分でも上手くいい表せない体の感覚だった。
もちろんその原因や理由すら分からない。

この時の体の感覚はAM君には言わなかった。
(「ひょっとしてこれが足が竦むってことなのか。だとしたら俺は高所恐怖症なのか。でもこんなの初めてだ。何故・・・どうして今更。」)

腰を下ろし食事の準備をしながらも自分なりにその原因を探した。
おそらくは気持ちの問題だろう。
だとすれば・・・ひょっとしてあの時の落石か・・・。

浮き石を踏み外してしまい自ら落石を起こしてしまったことなど何度もある。
だが、あれだけの大規模な落石を起こしてしまったことは初めてだった。
たぶん下には誰もいなかった・・・はず。
意図的にやってしまったわけではないが、それでもかなりまずいことをしてしまったという思いは強く残っている。
そして何よりも、あの時かなりの数の岩の塊が落ちて行く凄まじい光景と鈍い轟音は忘れてはいない。
目に焼き付いて離れない高所から崩れ落ちる光景。
それが要因なのだろうか・・・。
いずれにしても「高いところが怖い」という感覚だった。

(「俺、大丈夫かな・・・。帰りが心配だ。」)

せっかくの食事が味気ないものになってしまいそうだった。