タテバイを難なくクリアし終え、気を引き締め直した。
「北方稜線がこんなにスムーズに越えられるはずはない。楽しみだが先ずはもう一度気持ちをフラットにしなきゃだめだ。」
越えてきたルートを振り返った。
そして何処かでお気楽に考えてしまっていた自分を反省した。
突然無口になってしまった自分を不思議そうに見ていたAM君だったが、彼にも言っておいた方が良いと思い直した。
「この先の北方稜線は落石が起きようとも一切整備はされないルートだから、細心の注意が必要だし、『こんなはずじゃなかった』なんてこともあると思うからそのつもりで行こう。」
「分かりました。とにかく集中ですね。」
海が見える。
空の青さとは違う「もう一つの碧」が広がっていた。
その碧は気持ちをフラットにするにはもってこいのような気がした。
「さぁ、てっぺんまでもうちょっとだ。行こうか!」
と言って登り始めた時だった。
「Hey!」という男性の声が聞こえてきた。
顔を上げてみると、なんとまたまたあのスイス人夫妻であった。
登頂し下山し始めたばかりのようだった。
地図を見せ、自分たちは今日ここまで行くという意味で地図上に指を置いた。
「Over the summit!」
この程度の単語を並べただけで通じてくれた。
と言うよりは、二人が何とか理解してくれた(笑)。
昨日から通じて三度も会っているせいか、別れが名残惜しい。
握手をし、お互い自然とハグとなった。
二人が下り始め、姿が見えなくなる直前に叫んだ。
「Have a nice climb and travel !」
たぶん通じたのだろう。
振り返り大きく手を振ってくれた。
8時15分、山頂に着いた。
なんとここまで4時間以上もかかってしまった。
途中、想定していなかったこともあり仕方あるまいか・・・。
改めて空の青さと海の碧さに感動しながら登頂の喜びに浸った。
一応記念写真だけは撮ったが、喜びはここまでだ。
「前にも言ったけど、この先のコルからの裏剱ルートは三度登っている。でも下るのは今日が初めてだからあまりあてにしないでね。」
自分がAM君にそう言ったのは決して言い訳などではなく、明確な理由があってのことだ。
二年前の10月に奥穂高岳からジャンダルムまで縦走した時のことだ。
奥穂からジャンを越え、西穂までは四度通っていたが、逆コースは初めてのことで、ジャンから奥穂までのルートで手こずった苦い記憶がある。
だから今日にしても同様のことがあっても何ら不思議ではない。
同じルートであっても、体の向きが180°違えば視界に入る風景やルート状況は全く違うのだ。
そして難易度や危険度が大きければ大きい程その違いも大きい。
「ここからが北方稜線。あれが長治郎谷と右俣、そして八峰で、あれが長治郎の頭。」
説明しながらも徐々に緊張感が走ってくる。
前剱からタテバイまで一緒だった三人組が「気をつけて」と言ってくれた。
そして「私はこの先のルートのことは本では知っています。でもかなり危ないとだけしか知りません。今日は本当にありがとうございました。おかげで何とか登ることができました。どうぞ気をつけて行ってきて下さい。」
タテバイを一緒に登った方からの言葉だった。
ありがたかった。
それぞれの山男達と握手を交わし別れた。
今回の劔岳縦走のメインはここから、そしてこれから始まる。
「北方稜線がこんなにスムーズに越えられるはずはない。楽しみだが先ずはもう一度気持ちをフラットにしなきゃだめだ。」
越えてきたルートを振り返った。
そして何処かでお気楽に考えてしまっていた自分を反省した。
突然無口になってしまった自分を不思議そうに見ていたAM君だったが、彼にも言っておいた方が良いと思い直した。
「この先の北方稜線は落石が起きようとも一切整備はされないルートだから、細心の注意が必要だし、『こんなはずじゃなかった』なんてこともあると思うからそのつもりで行こう。」
「分かりました。とにかく集中ですね。」
海が見える。
空の青さとは違う「もう一つの碧」が広がっていた。
その碧は気持ちをフラットにするにはもってこいのような気がした。
「さぁ、てっぺんまでもうちょっとだ。行こうか!」
と言って登り始めた時だった。
「Hey!」という男性の声が聞こえてきた。
顔を上げてみると、なんとまたまたあのスイス人夫妻であった。
登頂し下山し始めたばかりのようだった。
地図を見せ、自分たちは今日ここまで行くという意味で地図上に指を置いた。
「Over the summit!」
この程度の単語を並べただけで通じてくれた。
と言うよりは、二人が何とか理解してくれた(笑)。
昨日から通じて三度も会っているせいか、別れが名残惜しい。
握手をし、お互い自然とハグとなった。
二人が下り始め、姿が見えなくなる直前に叫んだ。
「Have a nice climb and travel !」
たぶん通じたのだろう。
振り返り大きく手を振ってくれた。
8時15分、山頂に着いた。
なんとここまで4時間以上もかかってしまった。
途中、想定していなかったこともあり仕方あるまいか・・・。
改めて空の青さと海の碧さに感動しながら登頂の喜びに浸った。
一応記念写真だけは撮ったが、喜びはここまでだ。
「前にも言ったけど、この先のコルからの裏剱ルートは三度登っている。でも下るのは今日が初めてだからあまりあてにしないでね。」
自分がAM君にそう言ったのは決して言い訳などではなく、明確な理由があってのことだ。
二年前の10月に奥穂高岳からジャンダルムまで縦走した時のことだ。
奥穂からジャンを越え、西穂までは四度通っていたが、逆コースは初めてのことで、ジャンから奥穂までのルートで手こずった苦い記憶がある。
だから今日にしても同様のことがあっても何ら不思議ではない。
同じルートであっても、体の向きが180°違えば視界に入る風景やルート状況は全く違うのだ。
そして難易度や危険度が大きければ大きい程その違いも大きい。
「ここからが北方稜線。あれが長治郎谷と右俣、そして八峰で、あれが長治郎の頭。」
説明しながらも徐々に緊張感が走ってくる。
前剱からタテバイまで一緒だった三人組が「気をつけて」と言ってくれた。
そして「私はこの先のルートのことは本では知っています。でもかなり危ないとだけしか知りません。今日は本当にありがとうございました。おかげで何とか登ることができました。どうぞ気をつけて行ってきて下さい。」
タテバイを一緒に登った方からの言葉だった。
ありがたかった。
それぞれの山男達と握手を交わし別れた。
今回の劔岳縦走のメインはここから、そしてこれから始まる。