ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

猛暑の劔岳:続 頭(かしら)をこえて

2018年09月21日 23時50分11秒 | Weblog
時計回りのルートを諦め、真正面から攻めることに決めた。


僅かな段差ではあったが、左側には岩をホールドできるポイントがなかった。
あまりやりたくはない技術ではあったが「これしかないか・・・」と思い、左の掌全体を岩壁に当て、圧をかけて登った。
(「帰りはここがやっかいになるな。」)
そう感じながら段差を越えた。

越えられそうなコースが左右に分かれていた。
「さて、どっちを選ぶか・・・」
決めてはなかったが、右から攻めてみた。
画像からは分かりにくいが、右のコースの上の方にはフィックスロープが見えていた。
と言うことは、過去に複数の誰かがこのコースを選んで越えたということ。
ならば越えられる可能性は高い。

フィックスロープのポイントまで登りつめてはみたが、越えるにせよ下りるにせよ、ここはザイルもスリングも不要だった。
おそらくは安全第一で越えたか下りたかしたのだろう。
「よっしゃ、ここからなら下りられるぞ。」
お互いやっと笑顔になれた瞬間だった。


ザレたポイントに下り、その先を見た。
行けそうなコースは二つあったが、より安全を優先するのであれば下のコースだろう。
時間はどうだろうか・・・。
コルからここまで既に45分程かかってしまっている。
帰りの所要時間を考えればもう余裕はない。
しかし安全を優先するか、時間短縮を優先するか・・・答えは一つしかない。
当然ながら安全を最優先だ。

「今の時間だと、池ノ谷乗越までは無理だと思う。復路のコースタイムを考えたらあの先に見えている岩の塊までになるけどいいかな?」
「了解です。この暑さですし、無理はできないです。」
ありがたい返事をもらった。

稜線からはより距離のある下のルートで進んだ。
かなりザレている。
一歩足をおろす度に「ズズー ガラガラー」と砕石が音を立てて崩れて行く。
何度か足元を取られながら進んだ。

去年このコースを越えた時は、現在地よりももう少し下のコースを選んだ。
足元がより安定していたからだが、7月下旬のこの時期はまだ残雪が多く、去年のコースは完全に雪に埋もれてしまっていた。


僅かな違いだが、こんなポイントでも上を行くか下を行くかで迷う。
大した違いはなさそうに見えるが、ザレた足元を考えれば決して大袈裟なことではなかった。

やっと少しは足元が安定したポイントまで来ることができた。
ホッと一息つけそうだった。

「そろそろ帰りのコースタイムを考えなきゃならないし、やっぱりあの岩までにしよう。残念だけど暗くなる前にテン場に帰り着くには限界だ。」
「分かりました。腹もかなり減りましたよ(笑)」

そりゃそうだ。
自分だって朝食を食べたのが深夜の2時半頃だったし、すでに8時間は過ぎてしまっている。
その間は行動食だけであり、いつシャリバテをおこしても不思議ではない。


八峰が近づいている。
もう少しの所まで来てはいるが、この辺が潮時だろう。
しかもこの暑さだ。無理をすれば体が中から悲鳴を上げそうだった。

この先に見えている岩は通称「モアイ像」と呼ばれている。
昼飯はモアイ像のポイントで決定だ。