ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

猛暑の劔岳:頭(かしら)を越えて

2018年09月20日 01時48分43秒 | Weblog
コルから長治郎の頭を見上げた。
見上げながら去年の夏に逆から越えてきたルートを探した。
記憶に残っているのは長治郎谷側の二本のバンド。
そして反時計回りで崖っぷちをトラバースしコルへと下りてきたこと。

谷側の二本のバンドはコルに下りる前にはっきりと目視をしポイントを確認した。
短いバンドに沿って進めば反時計回りの崖っぷちに当たる。
だから今回はその逆を辿ればよいことになる。


しかし、それ以外にもひょっとしたらもう少し安全に越えられるルートがあるかも知れない。
去年越えてきたルートは「Ⅱ」のポイントから登ればよい。
分かってはいたが、先ず「Ⅰ」のポイントから攻めてみた。

何とか途中まで登ることはできたが、すぐに諦めざるを得ない状況となった。
数メートル上部にフィックススリングがぶら下がっていた。
当然アンカーとなっているハーケンが見えた。
「あそこからアンカーを利用すれば下りられるけど、ここから登ることは無理だ。諦めよう。」

一端コルへと戻り、「Ⅱ」のポイントに取りかかろうと思ったのだが、「一応あそこもトライしてみよう。」と言って「Ⅲ」へと取り付いた。
登ることはできたが、やはりその先への取り付き口がどこにもなかった。
「やっぱりあそこしかないか・・・。始めから攻めればよかったかな(苦笑)。」

AM君にとっては正攻法が分かっていながら何故別ルートで攻めようとしているのか。
おそらくは不思議、と言うよりは「無駄なことをしている」に近い思いだったろう。
確かに正論だ。
だが、「あーでもない、こーでもない。こっちでもない。ここは無理。じゃぁ次はどこだ。」
こうした連続したルートファインディングこそが、バリエーションルートのおもしろさでもある。
この感覚はまだ分からないだろうけど、そのうち癖になると思う(笑)。

確かにかなり危険な「賭け」のようなものだろう。
一切整備はされていないし何の安全も保証されていないルートであり、落ちればどうなるか・・・。
だが、それを越えることができれば大きな自信にもなるし、経験値は数段上がる。
「なにもそうまでして・・・」と思うのであれば挑戦しなければいいだけのこと。
怖さは一般ルートの比ではないし、幾分クライミング的要素も含まれた登山の総合力が試されるのだ。



さて、ここまで30分以上時間を要してしまった。
(「この分じゃ池ノ谷乗越までは行けないかも。やばいぞ!」)
ルートファインディングを楽しんだ分、時間を費やしてしまった。
さっさと「Ⅱ」から攻めてしまおう。

数メートル登ってみるとかなり大きな残雪の塊が現れた。

歩けそうなルート擬きを探すと、時計回りのルートであることが分かった。
「間違いない。ここだよ。去年はここを反時計回りに通ったんだ。」

懐かしいような思いにもなったが、同時に苦労したことも思い出した。
「えっ、ここを通ったんですか? よくこんなところを見つけましたね。」
少々驚いているようだったが、見つけたのは決して偶然ではなかった。
事前の詳細な下調べがあってのことだった。

残雪の塊があり画像からは分からないが、点線に沿って進むことになる。
最後に張り出した岩が邪魔をしているが、しっかりとホールドすれば崖下に落ちることはない。

ところがだった。
その張り出した岩の下に砕石があり、ルートを塞いでしまっていた。
これは全くの想定外のことだった。
砕石を足でどかして(崖下に落として)しまおうかとも考えたが、岩の出っ張りがその行動の邪魔をしていた。
「こりゃぁダメだね。無理。そっか、ここもダメだったか・・・。戻ろう。」
残念ではあったがどうすることもできない。

元のポイントまで戻りルートを探した。
ここを越えるには登るしかないことは確かだった。
真正面から登ってみようとも考えたが、右に見える溝が安全そうに思えた。
「じゃぁあのルンゼっぽいところから攻めてみる。その上がどうなっているのか分からないけど行ってみる。」
AM君にそう言い残し、その場で待機してもらった。

登ることは比較的スムーズであった。
だが登った先の岩を越えようとその先を覗いてみるとオーバーハングの様な岩となっており、スタンスポイントはどこにもなかった。
「くっそー。ルートっぽいところは見えているんだけどなぁ。そこに下りることができない。」
下で待っているAM君に説明した。

結局為す術無しだったが、残されたルート的ポイントは一つだけあった。
巻かずに、真正面から攻めるコースだ。
「ここが無理だったら一端コルに戻って、左の池ノ谷側からのルートを探した方が賢明かも知れないね。」
ここまでかなり時間がかかってしまいAM君には申し訳なかったが、これ以上の時間ロスは許されなかった。

こうして頭を越えるためにあちこち攻め口を探していたが、この時に思い出していたのはやはり「劔岳 点の記」の映画だった。

測量隊一行は登り口を見つけることはできても、その途中でルートがなくなり諦めざるを得ない状況となってしまう。
「そんな状況に似ているな」などと勝手に思っていた。

ため息は出るが、あきらめのため息ではなかった。
気を取り直すためのため息であり、「よっしゃ。登るか。」である。