ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

みんなで劔岳:食事が喉を通らない?

2017年10月29日 01時13分00秒 | Weblog
多賀谷さんに話を伺うと、やはり明日はガイドとして長治郎谷からの登頂を目指すそうだ。
しかし明日の天候が不安定であるため「無理かも知れませんねぇ・・・」と言っていた。
興奮とまでは行かないまでも、こうして多賀谷さんと話ができただけで光栄であった。

夕食は第二グループとなり、17時50分から。
「あぁ腹減ったなぁ・・・」とややぼやき気味ではあったが、この第二グループとなったことで、それがとんでもない展開へと繋がって行くのである。

「ぼちぼちかな。食堂に行こうか。」と、二人を誘った。
新平さんから「じゃぁ○○さんたちはあそこのテーブルでお願いします。」と言われ、指定されたテーブルに座った。
すると「多賀谷さんは、○○さんの隣でどうぞ。」と新平さんの声。
(「えっ、ひょっとして俺の隣って多賀谷さんってことだったりして・・・」)

ごはんやおかずがテーブルに並べられ、いつでも食べられる態勢なのだが・・・。
「あぁ○○さん、お隣ですね。一緒に食べましょう。」
そう、多賀谷さんが自分のすぐとなりの椅子に座ったのだ。
(「げっ、どうしよう。俺、嬉しくて・・・緊張して食べられないかも・・・」)


AM君とKMさんは早速「いただきま~す♪」
「わぁおいしい! 私お腹空いてたからおかわりしちゃいます。」
「僕、初山小屋なんで、嬉しいですよ。」
自分はと言えば、多賀谷さんが隣にいるというだけでどうにも箸が進まず、一口食べては「
チラッ」と隣を見たり、一口食べては「はぁ~」と小さなため息をついたり。
そりゃぁ自分とて空腹だ。
当然おかわりをする意気込みで夕食を待っていた。
・・・のだが、まさかまさかの展開に胸が一杯になってしまっていた。
(「いい歳をして俺は何をやっているんだ(苦笑)。」)
そうは思っていても、なかなか食が進まない。

そうこうしていると多賀谷さんの方からいろいろと話しかけてきてくれた。
山の道具の取り扱い方など、プロならではの意見を聞くことができた。
(「ひょっとして、これってチャンスかも・・・」)
そう思い、どうしても知りたかったことがあったことを思い出した。

どうしても知りたかったこととは・・・。
映画「劔岳 点の記」の撮影話しである。
それにしても、まさかその映画に携わった本人がすぐ横にだなんて・・・。
「あのぉ・・・ひとつお聞きしてもいいでしょうか?」
「はいどうぞ」(と、いたって気さくな態度)
「点の記の撮影の時、登山に慣れていない俳優陣の方を実際に登らせるのってかなり危険を伴ったのでしょうか? ましてや劔ですし・・・」
この質問についていろいろと語ってくださったのだが、最後の一言が印象的であった。
「そのうち体が山に慣れてくるんですよ。いつの間にか山向きになってくるんですよ。」
そう言って笑った顔が、また山を知り尽くしているからこその笑顔に見えた。
そして、去年の夏に宇治長治郎さんの墓参りに行ったことを伝えると、少々驚いたような顔をした。
「ほぉ、そこまでしたんですか。そりゃぁ長治郎さんも嬉しかったことと思いますよ。そうですか、お墓参りまで・・・。」

幸せな時の流れであった。
光栄きわまる思いであった。

結局、食事はおかわりなどする気持ちの余裕はなくどんぶりごはん一杯だけだった。

スタッフの一人である、ネパール人の「アン・ヌル」さんをパチリ。

毎年夏になるとこの小屋で働いているアンさん。
もう顔なじみとなり、気軽に話しかけることのできる人だ。
今回も会うことを楽しみにしていた。
「○○さん、おかわりは・・・」と聞かれたが「いえ、もう十分です」
と答えた。
十分とは、腹が十分なのではなく、「胸が十分」と言うことになるのかな(笑)。

食事を済ませ三人で庭へと出た。
一服しながらもまだ胸がいっぱいだった。

「お腹いっぱいになりましたか? ぜんぜん食が進んでいなかったみたいですよ(笑)」
「いやぁ、恥ずかしながら緊張しちゃってね(笑)。 でも映画の話しをいろいろ聞くことができて嬉しかったなぁ。 多賀谷さん本人から直接聞くことできただなんて。まさかだったもんなぁ。」

寝るにはまだ時間が早すぎる。
今日一日の出来事を闇の向こうの剣岳を見ながらふり返ってみた。
「AM君もKMさんも凄いね。 登山を始めてまだ間もないのに劔に登っちゃったんだから。
俺だったら無理だったろうなぁ。」
「師匠のおかげですよ。」と、AM君。
「俺かぁ? でも最後は個人の力だからねぇ。」

体は間違いなく疲れているはずだった。
腹も満たされてはいないはずだった。
なのに不思議と気持ちだけは充実していた。
大袈裟な言い方になるが、精神(気持ち)が肉体を越えているとは、このことを言うのだろう。

さっ、ビール飲もうか!