ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

みんなで劔岳:いろいろと良かった!

2017年10月25日 00時05分07秒 | Weblog
前劔の山頂を左手にし、トラバースを始めようとした時だった。
「○○さん、またいましたよ・・・。」
と、小声で呟くAM君。
彼の指さす方向を見てみると・・・。

すぐ1mほど先にじっとしている雷鳥だった。
殆ど微動だにせずじっとしくれているおかげで、かなりのアップが撮れた。
「今日はラッキーですね♪」と、KMさん。
確かにそうかも知れない。
天候が次第に回復傾向にある中での出会いは、将にラッキーそのものだろう。
「これは聞いた話だけど、昔は雷鳥を捕まえて、這い松の火で焼いて食べてたそうだよ。」
「え~っ、本当ですかぁ?」
ニヤッとだけして、返事はしなかった。
自分にも確かな自信などない。

さて、前劔の復路に入る。
今一度気持ちを引き締め直してここを下らなければならない。
3年前の夏、このガレ場の下りで自分のすぐ目の前でスリップをし、あわや滑落しかけた登山者を見てしまっているだけに油断は禁物だ。

しっかりと固定されていそうで、実際に足を乗せてみると浮き石だっだりするポイントは数知れず。
そして、途中にはルートが枝分かれしているポイントがいくつもあったが、決して無理はせずペンキマークに沿って下山した。
ゆっくりと、しかし確実に劔沢へと向かっている。

やっと大岩まで降りてきた。
「ここまで来ればガレ場の終わりも近いよ。」

AM君、ちょっと調子に乗りすぎだけど、まっここまで来ちゃえばいいか。

天気は回復傾向にあった。
ピーカンとまでは行かないまでも、午前中と比べればありがたいほどの青空が覗いている。

「ほら、劔沢だよ。テン場は分かるかな?」
先ずは赤い屋根の劔沢小屋を教え、そこからテン場を示した。
「ほら、見えるだろ。あそこの青いテントがKMさんのテントだよ(笑)。」
「えっ、どこどこ? あ~ん、わかんない!」
わかるはずがない。
自分だって当てずっぽうで言っているだけだ。
が、KMさんには内緒だった(笑)。

まもなくコルへと降りる。

本峰をふり返ってみた。
あの岩の塊のてっぺんまで登り、そして今ここに居る。
「KMさん、本当に頑張ったね。本当にすごいよ。」
これは自分の本音だった。
まだ完全に下山したわけではないが、途中で何度か引き返そうかと判断に迷ったことは事実だ。
それでも彼女は自分の力で登り切った。
単独での登頂は無理だったかも知れないが、このか細い腕、脚でよくぞ!
という思いだ。

一服劔が見えるポイントまで下山した。

ここまで来ればもう安心だ。
景色や花を愛でながらでも進むことができる。
そう思うと、早く登頂祝いのビールが飲みたくて仕方がなかった。


一服劔山頂の手前になり、急にガスが濃くなってきた。
「これって雲海なんですか?」
「う~ん・・・そう言ってもいいのかなぁ。よくわからん。でも下界の人たちから見れば自分たちが居る場所は雲の上ってことになるんだろうね。」
「わぁー、なんかすごくロマンチックです♪」
こんな会話ができるのも、一服劔ならではのことだろう。


ガスの切れ間から「剣山荘」が見えた。
「わたし、早くビールが飲みたいです。」
「えっ、飲むのは劔沢に戻ってからだよ。剣山荘じゃないよ。」
「え゛ーっ、え゛ーっ、何でですかぁ?」
「劔沢小屋に行けば分かるから。その方が絶対に美味いから! 我慢じゃ!」
するとAM君も「そっ、我慢じゃ!(笑)」

剣山荘ではなく、何故劔沢小屋でなければならないのか。
その理由は敢えて言わなかった。
言ってしまうと、ビールの味も感動も半減してしまうことが確実だからだ。


「あ~飲みたい!」と言いつつ、一歩一歩劔沢小屋に近づいている。
剣山荘の庭では、既に下山した人や、今日小屋に着いて一息入れている人たちの多くがビールを飲んでいた。
(「あぁ~たまんねぇ」)
早く飲みたいのは誰も一緒。
あと20分。20分歩けば劔沢小屋に着く。
そこで最高の景色で最高に美味いビールを飲もう!

14時25分。
劔沢小屋に到着。
往復約9時間の縦走だった。
9時間というのは想定内であり、決して遅いとは思わない。
いずれにせよ、何はともかく登頂成功と無事の下山を祝ってカンパイだ。

受付で缶ビール3本を買ったが、御主人の新平さんが「あっ、○○さん。今年は長治郎だったんですか?」と尋ねられた。
「いえ、職場の若いもん二人連れてだったので、先ずは別山尾根でした。この後テントを撤収してきますので、今夜お世話になります。 m(_ _)m 」

二泊目はいつもの劔沢小屋と決めていたので、新平さんに挨拶がてら寄ってみたのだ。
しかし、「どうしてもビールを飲むのはここで」と決めていた理由はそれだけではない。
残念ながら、剣山荘からは前劔しか見ることができない。
だからここまで来る必要があったのだ。
どうしてもこの劔沢小屋から見上げる劔岳を見せてあげたかったのだ。
威風堂々たる劔岳を見ながらカンパイをしたかったのだ。


先ずは「やったねー!」のガッツポーズ。

そして・・・

「カンパーイ!!!」

美味い! 
唯ひたすらに美味い!

では個人個人でカンパイを。






正直言って、自分には開放感のようなものがあった。
人を連れての劔岳は初めてだったし、「もし・・・」を考えたらきりがなかった。
「よかった・・・怪我がなくて本当に良かった。 登頂の歓びを感じてもらえて良かった。劔の峻険さと厳しさを感じつつ、充実感を味わってもらえて良かった。でもって美味いビールを飲んでもらえて良かった。」
いろんな良かったがあって本当に良かった。

あっ、ちなみにこの時のビールは自分のおごりです(笑)。
がんばったご褒美ね!