ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

みんなで劔岳:核心部その2「平蔵の頭」

2017年10月06日 00時30分18秒 | Weblog
往路における「平蔵の頭(づこ)」への登りは短い距離だが、真下に落ちれば軽くて骨折。
右側に落ちてしまえばそのままさよならとなる。
決して侮ってはならない。

このポイントもスタカット方式で進んだ。
頭(づこ)の頂点の手前まで自分が登り、二人が後に続く。

片手に(補助的に)クサリを持ち、もう片手は岩をホールド。
理想的な岩稜登攀だ。


AM君であれば、この程度の場所はクサリは不要。
そう、無理に使う必要はない。

二人ともいい感じでてっぺんまで来た。
「どうしますか? ここからの下りは・・・。俺が上からテンションをかけてるからザイルを使って下りますか?」
暫し考えていたが、ここも自力で下ることを決めたKMさんだった。
「じゃぁ俺が基本動作で下るからよく見ててね。そこに見えている溝のスタンスポイントとかホールドポイントかを使えば安全だから。」
そう言い残し、スタートを切った。
いつも以上にゆっくりと、そして丁寧に基本通りに下った。
そしてKMさんの番。


自分とは身長差がある分、特にスタンスポイントまで足がなかなか届かないことが数回あった。
それでも焦ることなく下っている(様に見える)。
「よっしゃ! 上出来です!」

続いてAM君。

二人の様子を見ていただけのこともあり、スムーズな下りだった。

ところがだった。
AM君の下りだけを見ていたので気付くのが遅れた。
KMさんの様子が少しおかしい。

KMさんを撮ろうと思いシャッターを切ったのだが、座り込んだまま動こうとはしない。
ひょっとして緊張の連続で気持ちが滅入ってしまったか・・・。
「大丈夫? 少し休もうか・・・。 これ以上無理だと思ったら、今からなら引き返せるよ。俺たちに遠慮しないでいいから。」
すると顔を上げ「えっ、嫌です。行きたいです。劔に登りたいです。」
真剣な表情だった。
「わかった。もう少し行ったらコルになるから、そこで一端リセットしよう。それまでは頑張って! ただ、この先にも最低二ヵ所の難所があるから。二ヵ所目はタテバイね。
厳しいけどそこさへ越えればてっぺんだよ。」

なんとか登らせてあげたい。
だからこそ敢えて優しい言葉だけでは終われなかった。
往路での難所は、まだ道半ばであるという事実を隠したところでどうなるものでもない。
自分の力で越えなければてっぺんへ辿り着くことはできない。
「ガンバレKMさん!」
心の中で何度も繰り返した。

「平蔵のコル」へと向かった。

トラバース気味に岩壁にへばりつくようにして進む。
ここも落ちたら即OUT!


コルへの指標を見てタテバイが近いことを彼女はどう思っているのだろうか。

本音を言えば、この辺りから「無理なようだったら引き返そう」と考えていた。
自分は何度も来ているし、AM君だったら独りでも登ってこれるだろう。
だったらKMさんの気持ちが完全に萎えてしまわないうちに自分が連れて引き返すべきだ。
本気でそこまで考えていた。


こんな小さなスペースでも一息つくことができる。
(「やっぱり、無理をさせ過ぎたのかなぁ・・・」)
スタカットで自分に追いつく度に彼女の表情を確認した。
だいたいのことは目を見れば分かる。
(「大丈夫そうかな・・・」)
確信は持てなかったが、集中力はまだ失ってはいないと判断した。

あと二ヵ所だ。
二ヵ所の難所をクリアさへすれば・・・。