今思い返してみれば、今回の劔岳登攀において最も気を遣ったのはカニのヨコバイから平蔵のコルへと下る区間だったかも知れない。
自分一人であればタテバイもヨコバイも慎重さを忘れなければ何の問題もない。
しかしあのクサリの連続は、単独の時では分からなかった、気付かなかったものがあった。
タテバイとヨコバイの分岐点まで下りた。
「ここからヨコバイの取り付き点まで先ずは俺が下るから、後から続いて来て。」
そう言って再びスタカット方式で進むことにした。
ヨコバイの取り付き点の手前でKMさんに合図を送った。
KMさんが下ってくる。
事前に「もしホールドポイントがうまく見つからなかったら、かまわないから両手でクサリを握ってね。」と言ってある。
「クサリは片手で補助的に」という基本は基本で大切だが、そんなことを言ってられない状況の時だってあるということだ。
いい感じで下りてきている。
三点支持だけは厳守するようアドバイスはしたが、往路の岩場やクサリ場でそれなりに慣れたようで安心して見ていられる。
続いてAM君の番。
ジャンダルムでの経験が生きている。
さすがだ。
ここでヨコバイ通過の最終確認をした。
・かならず右足のつま先を窪みに入れること。
・クサリは両手でつかんでもOK。
この二点を言いながら、自分がヨコバイ通過の手本を示した。
「窪みは必ずここにあるから大丈夫。慌てないでつま先で探れば大丈夫。」
ヨコバイの現場で人に説明をしながら通過するのは初めてだった。
ヨコバイを数歩移動したポイントでKMさんに来るよう合図を送った。
どうしても窪地を目視で見つけようとしてしまっていた。
登山靴の側面で岩肌を探っている。
気持ちは分かるがそれではダメだ。
「下は見ないで! つま先だけで窪みを探して!」
言うのは簡単だが、彼女にしてみれば相当な怖さなのだろう。
目に見えない部分を足で探す。
ましてやぶ厚い登山靴だ。
感触は手指ほど伝わってくれるはずがない。
「もう少し下。もうほんのちょっと下!」
やっと窪みに右足を入れることができた。
自分と合流した時の彼女の表情が緊張感で一杯だったのをはっきりと覚えている。
斜め下に降りて、少しだけ広がったポイントで二人を待った。
AM君がヨコバイを通過中。
彼の後に他の登山者が数名いた。
自分たちはこの後もスタカット方式で下山することになっているし、このクサリ場が終わったら先を譲ることにした。
「厳しかったら両手でくさりを握ってもいいんだよ。」
握力低下に影響が出るかも知れないが、少し休めば回復できる。
今はその場その場での安全確実な通過を優先した。
AM君の身長は自分と同じで178㎝。
なんと体重も同じで63㎏だ(笑)。
それぞれのスタンス・ホールドポイントへの距離も同じって事になる。
まぁ体の柔軟性では若い者にはかなわないが、自分が届くポイントであればAM君も大丈夫ってことになる。
AM君が上から撮ってくれた画像。
下に見える僅かに広くなったポイントまで来れば一息つくことができる。
三人が合流し、ここで他の登山者に先を譲った。
「ここから梯子を降りて、またクサリだ。でもそこが終われば平蔵のコルだからそこで休憩を取ろうか。そこまではガンバね!」
AM君は問題ないだろう。
心配だったのはKMさんだ。
彼女が女性だから・・・。
そう、筋力や握力などの低下や持久力が心配だった。
ある程度はメンタルでカバーできるだろうが、それにも限界はあるはずだ。
「やはり急ぐべきではない。」
そう判断した。
彼女は高所恐怖症だと言うが、「へっ、どこが?」と思えるほどだ(笑)。
梯子の下で再び合流し、クサリ場へ移動。
下に見える茶褐色の屋根がトイレだ。
トイレとは名ばかりの様な気もするが、中がどうなっているのかは一度も見たことはない。
そうそう、ゆっくり。 いいよ、マイペースで降りてね。
AM君が降りてきた。
「やっとコルだね。もう少し行ったら休憩しよう。」
考えてみれば、ヨコバイに向かう為の急斜面からずっとクサリ場の連続だった。
途中一息入れることができるポイントはあるが、その後もクサリ場は続く。
(「KMさん、大丈夫だろうか・・・」)
自分を基準にしてはならないという、ごく当たり前のことを今更ながら考えた。
前劔を下るまでは、彼女のためにも今まで以上に緩急が必要だな・・・。
そう思った。
自分一人であればタテバイもヨコバイも慎重さを忘れなければ何の問題もない。
しかしあのクサリの連続は、単独の時では分からなかった、気付かなかったものがあった。
タテバイとヨコバイの分岐点まで下りた。
「ここからヨコバイの取り付き点まで先ずは俺が下るから、後から続いて来て。」
そう言って再びスタカット方式で進むことにした。
ヨコバイの取り付き点の手前でKMさんに合図を送った。
KMさんが下ってくる。
事前に「もしホールドポイントがうまく見つからなかったら、かまわないから両手でクサリを握ってね。」と言ってある。
「クサリは片手で補助的に」という基本は基本で大切だが、そんなことを言ってられない状況の時だってあるということだ。
いい感じで下りてきている。
三点支持だけは厳守するようアドバイスはしたが、往路の岩場やクサリ場でそれなりに慣れたようで安心して見ていられる。
続いてAM君の番。
ジャンダルムでの経験が生きている。
さすがだ。
ここでヨコバイ通過の最終確認をした。
・かならず右足のつま先を窪みに入れること。
・クサリは両手でつかんでもOK。
この二点を言いながら、自分がヨコバイ通過の手本を示した。
「窪みは必ずここにあるから大丈夫。慌てないでつま先で探れば大丈夫。」
ヨコバイの現場で人に説明をしながら通過するのは初めてだった。
ヨコバイを数歩移動したポイントでKMさんに来るよう合図を送った。
どうしても窪地を目視で見つけようとしてしまっていた。
登山靴の側面で岩肌を探っている。
気持ちは分かるがそれではダメだ。
「下は見ないで! つま先だけで窪みを探して!」
言うのは簡単だが、彼女にしてみれば相当な怖さなのだろう。
目に見えない部分を足で探す。
ましてやぶ厚い登山靴だ。
感触は手指ほど伝わってくれるはずがない。
「もう少し下。もうほんのちょっと下!」
やっと窪みに右足を入れることができた。
自分と合流した時の彼女の表情が緊張感で一杯だったのをはっきりと覚えている。
斜め下に降りて、少しだけ広がったポイントで二人を待った。
AM君がヨコバイを通過中。
彼の後に他の登山者が数名いた。
自分たちはこの後もスタカット方式で下山することになっているし、このクサリ場が終わったら先を譲ることにした。
「厳しかったら両手でくさりを握ってもいいんだよ。」
握力低下に影響が出るかも知れないが、少し休めば回復できる。
今はその場その場での安全確実な通過を優先した。
AM君の身長は自分と同じで178㎝。
なんと体重も同じで63㎏だ(笑)。
それぞれのスタンス・ホールドポイントへの距離も同じって事になる。
まぁ体の柔軟性では若い者にはかなわないが、自分が届くポイントであればAM君も大丈夫ってことになる。
AM君が上から撮ってくれた画像。
下に見える僅かに広くなったポイントまで来れば一息つくことができる。
三人が合流し、ここで他の登山者に先を譲った。
「ここから梯子を降りて、またクサリだ。でもそこが終われば平蔵のコルだからそこで休憩を取ろうか。そこまではガンバね!」
AM君は問題ないだろう。
心配だったのはKMさんだ。
彼女が女性だから・・・。
そう、筋力や握力などの低下や持久力が心配だった。
ある程度はメンタルでカバーできるだろうが、それにも限界はあるはずだ。
「やはり急ぐべきではない。」
そう判断した。
彼女は高所恐怖症だと言うが、「へっ、どこが?」と思えるほどだ(笑)。
梯子の下で再び合流し、クサリ場へ移動。
下に見える茶褐色の屋根がトイレだ。
トイレとは名ばかりの様な気もするが、中がどうなっているのかは一度も見たことはない。
そうそう、ゆっくり。 いいよ、マイペースで降りてね。
AM君が降りてきた。
「やっとコルだね。もう少し行ったら休憩しよう。」
考えてみれば、ヨコバイに向かう為の急斜面からずっとクサリ場の連続だった。
途中一息入れることができるポイントはあるが、その後もクサリ場は続く。
(「KMさん、大丈夫だろうか・・・」)
自分を基準にしてはならないという、ごく当たり前のことを今更ながら考えた。
前劔を下るまでは、彼女のためにも今まで以上に緩急が必要だな・・・。
そう思った。