ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

みんなで劔岳:立山縦走へ

2017年10月30日 00時18分33秒 | Weblog
その日の夜はなかなか寝付けず、ウトウトとしながらも若干の空腹感を感じていた。

11時過ぎだったろうか、KMさんが起き出したようだった。
「たぶんトイレかな・・・」とも思ったが、どうせ寝付けないんだったら一服しようと庭へと出た。
7月とは言え、標高2500mの高所の夜は冷える。
長袖を着てきて正解だった。
雨はまだ降ってきてはいなかったが、明日の予報は雨のち曇り。
問題は「風」だ。
どの程度の風速になるかで立山縦走を考えなければならない。
そんなことをぼんやりと考えていると、KMさんが現れた。
「眠れないんですか。余計に眠れなくなっちゃいますけど珈琲いれてきましたよ。」
そう言って暖かい珈琲をくれた。

星は出ていない。
ましてや月も出ていない。
漆黒の闇の中、小屋の廊下から漏れている僅かな灯りを頼りに山の話しをした。
「本当はね、何度か引き返そうと迷った時があったんだ。」
「えっ、そうだったんですか・・・」
「KMさんの体力とメンタル次第ではそうしようと、往路の時はずっと考えていたんだよ。でも、『行きます。登りたいです。』っていう言葉と強い思いがあったし、何よりも表情が訴えていたからね。」
そんなことを本音で話した。

結局その夜はあまり眠れず朝を迎えることになってしまった。

朝5時の朝食時にはもう腹ペコで、朝からどんぶり飯をおかわりした。
「よっしゃ、これで(室堂までは)もつだろう。」
外は雨。
身支度を整えて玄関で登山靴を履いた。

受付には新平さんと多賀谷さんの二人がいた。
「新平さん、お世話になりました。来月は北方稜線を予定していますので、また電話を入れますね。」
「そうですか、いよいよですね。お待ちしています。」
出発しようとした時だった。
奥にいた多賀谷さんが「○○さん、これ食べて。」と言って自分に手渡した物があった。
アーモンドチョコだった。
「初めてじゃないでしょうけど、立山経由だったらそこそこ体力も必要だからね。」
ありがたい一言、ありがたい頂き物だ。

二人にお礼とお別れの挨拶をし、7時丁度に劔沢小屋を出発した。
今までにないたくさんの思い出と感動を土産にできた。
レインジャケットのポケットには、多賀谷さんから頂いたチョコレートを偲ばせている。
(「もったいなくて食べられないかも・・・(笑)」)



雨とガスの中、一路別山乗越へと登る。
やはり風はそれなりに強いと感じた。
(「さて、立山はどうするか・・・。乗越に着いたら考えよう」)

1時間ほどで別山乗越に着いた。
少し休憩を入れ、二人の意思確認をした。
「立山はどうする? 雨は収まる傾向にあるけど、風が読めない。ちょっと難しい判断かも知れないね。途中のエスケープルートには入らないでという情報もある。でも行きたいんだったら正直に言って欲しい。」
二人の答えは同じだった。
(「今更聞くまでもなかったか。」)

乗越から別山に向けて、更に登る。
周囲はガス。
残念ながら左手に劔岳を拝みながらの登攀ではなかった。
それでも・・・。

三日連続しての雷鳥との出会い。
天候が悪くても、それなりにいいこともあるのだ。

別山からはすぐ下りルートになるのだが、ここでルートファインディングのミスをしてしまった。
地図では、祠のすぐ横の道を下ることになってはいる。
しかし、自分の記憶では「硯ヶ池」の対岸からのルートのはずだった。
記憶と言っても、自分の場合常に立山方面から別山方面へと登ったのが数回。
今日のように逆を辿るのは初めてだった。
それでも同じルートなのだから間違いはないはずだと思い込んでいた。
「ちょっと待っててね。」
と言い残し、硯ヶ池の対岸方面へと向かった。

ガスが濃い。
劔沢よりも標高が高い分、ガスは濃かった。

AM君が撮ってくれた画像。手前が硯ヶ池で、ガスの中にぼんやりと見えるのが自分。

おかしい、間違いなくルートはこっちのはずだ。
確信はあった。
しかし、どこを探しても真砂岳方面へと向かうルートは見つからなかった。
(「俺の勘違いだったのか。それとも廃道になってしまっているのか。」)
これ以上時間のロスは避けた方がよいと判断し、二人が待っているポイントに戻った。
「いや、申し訳ない。俺の勘違いだったのかもしれない。とにかく祠の所から下ろう。」


KMさんには、迷わないように絶対にここ(祠)から動かないようお願いしておいた。
じゃぁ行こうか。となったその時だ。

「おぉ~~~! やったよ! 見てごらん!」
二人がふり返ると、その視線の先から見事な劔岳の全容が「これでもか!」と突き刺さってきた。

よかった・・・。
ほんの一瞬だけでも、この絶景を見せることができて本当によかった。
あの時、雷鳥坂を下ってしまっていたら絶対に見ることはできなかった。

運良く他の登山者がおり、シャッターをお願いした。

荒々しく威厳を放ちながら屹立している劔岳。
(「やっぱり俺、この山が一番好きだ・・・」)
改めて確信した瞬間だった。
と同時に、どうしても来月の裏劔のことが脳裏をよぎる。
映像や画像でしか見たことのない裏劔の岩峰群。
それは自分にとって「美しい」という表現はあてはまらない。
情け無いかな「不気味」としか受け止められない。
(「あと一か月か・・・。どうしたものか・・・。」)
一月後に迫った北方稜線だというのに、未だどこかで決心が鈍っている。

気を取り直し、室堂方面も一枚。


でもって、女性だけのサービスフォト。

幸いに雨はもう上がってくれた。
「よっしゃ、縦走じゃ!」