或る「享楽的日記」伝

ごく普通の中年サラリーマンが、起業に向けた資格受験や、音楽、絵画などの趣味の日々を淡々と綴ります。

18区 コタン小路

2010-03-22 07:43:45 | 830 パリ紀行
パリでのユトリロの足跡を辿るシリーズの第8弾は、右下の写真の通称”コタン小路”。以前に紹介したけど、2年程前ひろしま美術館で開催されていた”芸術都市パリの100年展”に、彼が描いた絵が数枚展示してあって。ポンピドゥー・センターが保有している左下の画像の「コタン小路(L'Impasse Cottin)」(1911年)もその中の1枚。それはそれは感動的な出会いだった。

正直なところ、それまではユトリロに対してあまり良いイメージを持っていなかったのは確か。というのも、よく行くひろしま美術の常設展示室に掛けてあるのが「モンモラシーの通り」(1912年)と「アングレームのサン=ピエール大聖堂」(1935年)。これらの作品は、画風としてデッサンがやけに直線的で無機的だし、マチエールも水彩画っぽくて平坦で味気が感じられない。

他の美術館でもかなりの数を見ているはずだけど、どうも琴線に触れるものがなかったのだろうな、記憶に全くないということは。そんな印象がこの絵で大きく変わることに。12号程度の割と小さな絵で、構図的にもアパートや道路の直線が中心で構図的には面白みには欠ける。しかし近づくにつれて建物の壁が徐々に視覚に訴え始めてきて。なるほどね、この絵の人気の秘密がよく分かった。だけど「ベルリオーズの家」と同様に、実物を近くで見ないとその良さが絶対に理解できないだろうなと。

それで実際のコタン小路。サクレ・クール寺院の東側に位置している。シュヴァリエ・ド・ラ・バール通り(Rue du Chevalier de la Barre)に沿って坂を下りていくと知らない間に賑やかなラミー通りまで出てしまって。行き過ぎたと気づいたけど後の祭り。でも左折をするとすぐに小路の入口が。そこから見えたのは、まさにユトリロの絵から抜け出たような情景。ひっそりとしていて、昼間でも奥のアパートの周りがやけに暗い。手前のアパートの明るさとのコントラストでよけいに。しかしこの寂しさはどうだ。

アパートに近寄ってみたり遠ざかってみたり、行ったり来たりを何度となく繰り返して。下の写真はその時に撮った1枚。サン・リュスティック通りといい、このコタン小路といい、”白の時代”に想いを馳せるには、これ以上ない場所のような気がしたかな。

コタン小路 1911コタン小路 2009