或る「享楽的日記」伝

ごく普通の中年サラリーマンが、起業に向けた資格受験や、音楽、絵画などの趣味の日々を淡々と綴ります。

白い薔薇の淵まで

2009-02-11 06:26:15 | 010 書籍
中山可穂の小説「白い薔薇の淵まで」(2001年)を読んだ。彼女の作品は印象的だった「ケッヘル」(2006年)以来だから2年ぶり。第14回山本周五郎賞を受賞したらしいから出来は良いのだろう。少し引いていたのは内容がレズビアンを扱ったものだったから。

図書館で書棚から取ると、なんと表紙が女性のヌード。さすがに前からじゃなく後ろからだったけど。その時に借りたのがたまたま1冊だけで、しかも受付がキレイ系の若い子だったから、なんか借りにくかった。まあそんなことはどうでもいいけど。

ふとしたきっかけで若き女流作家と年上の平凡なOLが出会い、惹かれあい、関係を持ち、そして愛欲の日々が続くというストーリー。極めて日常的な文章で物語は進んでいく。そのかなりの部分が愛欲描写。自分の場合、欲情する対象は女性だけなので、ホモだとかレズだとか、どうも同性同士の行為というのが現実的にあり得ないだけにイメージが涌かなくて。せいぜい避妊しなくていいから楽だと思うくらい。だから読んでいてリアリティが感じられない。しかしそれを超越して心が揺さぶられた。

小説を読んでいて、ある特定のパラグラフに魅せられることはあまりない。でもこの小説では、はっきりと。抜粋すると、”塁は何度でも天国へ連れていってくれた。いや、それはむしろ、地獄へのはじまりだったのかもしれない。”に続く”午後の病室のベッドの中で、わたしたちは白い薔薇の淵を見た。”という部分。なんかね、すーっと超自然的な世界へ誘われて。

その白い薔薇の花びらは、夢の中で見る最愛の女性の涙。”塁はずっと、ずっと、ずっと、ずっと、あそこでわたしを待っていたのだ。わたしは塁と行くつもりだった。白い薔薇の淵まで行くつもりだった。”、というラストで再び唐突に浮遊する幻想的な空間。モノクロの世界。遠くからキース・ジャレットの「ザ・ケルン・コンサート」(1975年)[試聴]のラストチューンが聴こえてきた。

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