A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

【私のB級サイケ蒐集癖】第18夜:ネクロ魔ロスに効く。クトゥルフに召喚された『H.P.ラヴクラフト』の幽玄アシッド・サイケ。

2018年10月07日 00時17分19秒 | 素晴らしき変態音楽


10月5日〜7日アメリカ・オレゴン州ポートランドで「2018 ラヴクラフト映画祭(23rd Annual H. P. Lovecraft Film Festival® and CthulhuCon)』が開催されている。今年で23回目になるこのフェスティバルは、アメリカの怪奇小説家ハワード・フィリップス・ラヴクラフト(英: Howard Phillips Lovecraft、1890年8月20日 - 1937年3月15日)以来、現代まで世界中で継承される「クトゥルフ神話」の研究者やファンが集まる国際的イベントである。今年は日本からアイドルユニットNECRONOMAIDOL(ネクロ魔)がゲストパフォーマーとして招待された。クトゥルフ神話に基づく暗黒系アイドルグループとして結成されたネクロ魔がいよいよ本拠地に乗り込む快挙に、魔ヲタとしては嬉しい限りである。



しかし一方でネクロ魔の日本でのライヴは10月12日(金)目黒・鹿鳴館の爆裂女子・都子ちゃん生誕祭までない。さらに筆者のもう一方の推しである爆裂女子のライヴもなし、というお預け状態。寂しさをどう紛らわせればいいのか?ネクロ魔公式からは「ラヴクラフト作品を読んでみては」というアドバイスがあった。


しかしながら音楽ヲタクの筆者が埃っぽいレコードラックから引っぱり出したのは『H.P.Lovecraft』という名のロックバンドのLPだった。80年代前半、学生時代にラヴクラフト・ブームが起こった頃、60年代サイケに夢中だった筆者は、明大前モダーン・ミュージックのサイケコーナーで彼らのレコードを見つけて、創元推理文庫の「ラヴクラフト全集」を片手に愛聴していた。バンド名をラヴクラフト協会から正式の許可を得たという彼らのサウンドは、同時代のガレージ・パンクとは異なり、陰影のあるメロディとツインヴォーカルのハーモニーが文学的なイメージを醸し出すアシッド・ロック。所属レーベルが「Dunwich Records(ダンウィッチの怪)」、曲名が「The White Ship(白い帆船)」「At The Mountains of Madness(狂気の山脈にて)」といったラヴクラフトへのオマージュも嬉しい。



●H.P.Lovecraft/H.P.ラヴクラフト

George Edwards (g,b,vo)
Dave Michaels (key,vo)
Tony Cavallari (g,vo)
Jerry McGeorge (b, vo / 1st album)
Jeffrey Boyan (b, vo / 2nd album)
Michael Tegza (ds, vo)

1966年シカゴでフォークシンガーとして活動していたジョージ・エドワーズのソロ・シングルのレコーディング・メンバーが発展的にバンドとなりH.P.ラヴクラフトとして67年初頭にトロッグスのカヴァー「Anyway That You Want Me」をPhilipsレーベルからリリース。同年後半にリリースされた1stアルバム『H.P.Lovecraft』(67)は半分がカヴァー曲だが、秀逸なオーケストラアレンジにより濃厚なゴシック感を醸し出す。シカゴの先輩格シャドウズ・オブ・ナイトを思わせるワイルドなR&B風味もあるが、ハイライトはラヴクラフトの小説に基づいた「The White Ship」。霧に覆われた海を漂う帆船を思わせる幽玄なハーモニーは、彼らが欲求不満のティーンエイジャーでもラリッたヒッピーでもなく、才能あふれる音楽家でありストーリーテラーであることを証明している。

H. P. Lovecraft - The White Ship (1967)


1968年2月にバンドはサンフランシスコへ拠点を移す。フィルモア・ウェストでピンク・フロイド、プロコル・ハルム、ドノヴァン、トラフィック等のオープニングを務め、ヘイト・アシュベリーのフラワーチルドレンにも人気を博す。その頃のステージはライヴ・アルバム『Live May 11, 1968』として1991年にリリースされた。

HP Lovecraft: I've Been Wrong Before


68年6月からロサンゼルスのI.D. Sound Studiosでレコーディングを開始。ライヴツアーが多く新曲のアレンジに専念できなかったため、即興的なレコーディング・セッションになった。その結果9月にリリースされた2ndアルバム『H.P.Lovecraft II』は、より自由度を増しアシッドなフォーク感覚を強めたプログレッシヴ作品になった。特にオルガンやピアノやハープシコードを駆使したデイヴ・マイケルズのキーボードと、ジェファーソン・エアプレインを彷彿させる2声のハーモニーが素晴らしい。

HP Lovecraft - At The Mountains Of Madness


しかし、リリース後にマイケルズが大学に復学するため脱退し、69年初頭に解散。ドラムのマイケル・テグザはプログレッシヴ・ロックバンドBangor Flying Circusに加入。69年エドワーズとテグザが新メンバーを加え「Lovecraft」として再結成するが、レコーディング前にエドワーズが脱退。残りのメンバーでアルバム『Valley of the Moon』をリリース。CS&Nに通じるレイドバックしたサウンドは悪くはないが、初期のサイケ風味は姿を消した。さらに75年にテグザが「Love Craft」としてアルバムを出したが完全なファンクR&Bになっていた。

Lovecraft - Valley of the Moon - FULL ALBUM


ジョージ・エドワーズは本名のイーサン・ケニング名義でシカゴで音楽活動を続けている。
The White Ship - an H.P.Lovecraft Fan Site

日米の
ラヴクラフティアン
交歓会

筆者にとって30余年前の愛聴盤を、ネクロ魔ロスの埋め合わせに聴きながら過ごすありきたりな土曜の午後、どこかからクトゥルフの呼び声が聞こえたような気がした。

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【私の地下ジャズ愛好癖】西海岸即興シーン虎の穴Edgetone Records秋の新作『シェルドン・ブラウン・グループ』『PG13(フィリップ・グリーンリーフ)』

2018年10月05日 02時06分41秒 | 素晴らしき変態音楽


アメリカ・サンフランシスコを拠点とするウェストコースト・アンダーグラウンドの中心人物でありアルトサックス奏者/作曲家のレント・ロムスが主宰するEdgetone Recordsから9月25日に2作の新作がリリースされた。BandacmpでオーダーしたCDはまだ届いていないが、どちらもとてもユニークな作品なので、いち早く紹介したいと思い筆を執った次第である。より詳細なレビューは音楽情報サイトJazzTokyoの11月更新号に寄稿する予定である。


『Sheldon Brown Group / Blood of the Air』
CD/DL : Edgetone Records EDT4198

Sheldon Brown: Alto Saxophone, Clarinet, Bass Clarinet
Darren Johnston: Trumpet
Lorin Benedict: Voice
Andrew Joron: Theremin
Dave MacNab: Electric Guitar
John Finkbeiner: Electric Guitar
Jonathan Alford: Piano
Michael Wilcox: Bass
Vijay Anderson: Drums
Alan Hall: Drums
Voice of Philip Lamantia

1. Oraibi Intro
2. Oraibi
3. To You Henry Miller, Part I
4. To You Henry Miller, Part II
5. First Star
6. Primavera
7. The Romantic Movement
8. To Have the Courage
9. Out of the Jungle / The Hand Grenade / Man is in Pain

Recorded at 25th Street Recording by David Lichtenstein, October 12 and 13, 2015, and Scott Bergstrom, September 29, 2016. Mixed, edited, and mastered by John Finkbeiner at New Improved Recording.

伝説的シュルレアリズム詩人と21世紀の即興演奏者の共演

ベイエリアで20年以上活動を続けるサックス奏者/作曲家のシェルドン・ブラウン率いるテンテットが、アメリカを代表するサンフランシスコ生まれのシュルレアリズム詩人フィリップ・ラマンティアの詩の朗読に、同時演奏で音楽を付ける画期的な試みにより作られた作品。アレン・ギンズバーグ、ジャック・ケルアック等ビート詩人とも交流を持つラマンティアの抑揚豊かなスポークン・ワードが、まるでジャズ・ヴォーカルやスキャットのように自然に演奏に溶け込み、フリーキーであると同時にイマジネーションとストーリー性たっぷりの即興演奏で「21世紀の超現実主義者」のサウンドトラックを描き出す。

Sheldon Brown’s Blood of the Air 7-27-17 16th Annual Outsound New Music Summit





『PG13 / PG13』
CD/DL : Edgetone Records EDT4200

Phillip Greenlief - alto saxophone, compositions
John Shiurba - guitar, compositions
Thomas Scandura - drums

1. Chapter 4
2. 13.1
3. Chapter 2
4. 13.2
5. Chapter 1
6. 13.3
7. Chapter 3

愛猫追悼から進化した怒濤のプログレメタルジャズ

ロサンゼルスのサックス奏者フィリップ・グリーンリーフが飼い猫のジョージ・クリーヴァーの死を悼んで結成したユニットPG13のデビュー作。ギタリストのジョン・シューバの作品も含み、プログレッシヴメタルとフリーインプロヴィゼーションを結合したサウンドはヘヴィでクール。レコメン系アヴァンロックに通じるカッコ良さ。ちなみにグリーンリーフはEdgetoneと並ぶ西海岸即興シーンの草の根レーベルEvander Musicを主宰している。

淵の音
深淵の人
西海岸

Ralph Carney Memorial 2018 0726 OutsoundSummit

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【私の地下ジャズ愛好癖】トルコ有機楽団『コンストラクト』のエスノ・グルーヴ三部作〜『For Ornette』『Bloppin'』『Oryantal』

2018年10月04日 08時18分07秒 | 素晴らしき変態音楽


トルコのフリージャズコンボ「コンストラクト」は2016年半ばにリズムセクションがメンバーチェンジし、同年12月イスタンブールに灰野敬二を招聘して交配した。その果実としてコンストラクト+灰野敬二のコラボによる『A Philosophy Warping, Little By Little That Way Lies A Quagmire = 少しずつ曲がっている哲学 その先には湿地がある』と題されたスタジオ録音盤とライヴ録音盤の2作がリリースされている。どちらもコンストラクトの自由なジャズ精神と灰野の屹立するロック魂がお互いに湾曲して二重螺旋を描きながら音のDNAから生命の泉が溢れ出し、渇いた「荒れ地」を灌漑し豊穣な「湿地」に変えている。東西の邂逅が産んだ熱の伝達度は、ブルーとオレンジのアートワークに描かれた炎のグラデーションそのままである。

01 Konstrukt & Keiji Haino - All Things Will Be Reduced To Equal D お Tっっ3 BBRc MMM あ元, ...


そんな「コンストラクト」が新メンバーによる単独音源をリリースした。7インチシングルが2枚、12インチ33rpmのEPが1枚。これまでのアルバム指向(特に2枚組LP)を考えると、野心的な作品と言えるだろう。

メンバーは5人。KorhanとUmut以外が新メンバー
Korhan Futacı : reeds, etc.
Umut Çağlar : g, reeds, fl, perc, etc.
Apostolos Sideris : b
Erdem Göymen : ds, perc
Berkan Tilavel : ds, elec-perc

『オーネットの為に(For Ornette)』と題された7インチはAB面の「Z-FUNK」というトラックを収録。ワイルドなお祭りビートに豪快なサックスが唸るファンクチューンは、オーネット・コールマンのファンク指向へのオマージュであろう。B面はドラムとサックスのデュオで、より70年代ロフトジャズに接近したサウンドを聴かせる。

『ブロッピン(Bloppin)』はストンピン(Stompin)のもじりだろう。AB面一続きの曲でやはり祝祭感に満ちた集団即興ファンクである。

『オリヤンタル(Oryantal)』は5〜7分のトラックを4曲収録した12インチではライヴの一部を切り抜いたTRANCYでCOOLなサウンドを展開。リーダーのUmtはギターではなくギンブリやバンブー・フルートなどの民族楽器を演奏し、エキゾチックな要素を強く打ち出している。

KONSTRUKT | A Night at Hayyam: ORYANTAL SESSION | YOL



コンストラクトの新たなる音宇宙を「エスノ」とか「グルーヴ」とか前時代的言い回しでしか形容できないのは筆者の筆の未熟さを露呈しているが、イースト・ミーツ・ウェストの拠点イスタンブールから届けられたニューディスクに新たな生命の息吹を感じたことをお伝えしたく筆を執った次第である。

ターキッシュ
伝統革新
構築者

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