10月5日〜7日アメリカ・オレゴン州ポートランドで「2018 ラヴクラフト映画祭(23rd Annual H. P. Lovecraft Film Festival® and CthulhuCon)』が開催されている。今年で23回目になるこのフェスティバルは、アメリカの怪奇小説家ハワード・フィリップス・ラヴクラフト(英: Howard Phillips Lovecraft、1890年8月20日 - 1937年3月15日)以来、現代まで世界中で継承される「クトゥルフ神話」の研究者やファンが集まる国際的イベントである。今年は日本からアイドルユニットNECRONOMAIDOL(ネクロ魔)がゲストパフォーマーとして招待された。クトゥルフ神話に基づく暗黒系アイドルグループとして結成されたネクロ魔がいよいよ本拠地に乗り込む快挙に、魔ヲタとしては嬉しい限りである。
しかし一方でネクロ魔の日本でのライヴは10月12日(金)目黒・鹿鳴館の爆裂女子・都子ちゃん生誕祭までない。さらに筆者のもう一方の推しである爆裂女子のライヴもなし、というお預け状態。寂しさをどう紛らわせればいいのか?ネクロ魔公式からは「ラヴクラフト作品を読んでみては」というアドバイスがあった。
ネクロ魔のライブがない10日間、暇だなぁと思ったらラブクラフト作品を読んでみてはいかがでしょうか(^^)漫画だとよりわかりやすいということで、メンバーも読んでいます。ネクロ魔をまた別の角度からお楽しみいただけます! pic.twitter.com/tbFT2q6xfo
— NECRONOMIDOL (@NECRONOMIDOL) 2018年10月4日
しかしながら音楽ヲタクの筆者が埃っぽいレコードラックから引っぱり出したのは『H.P.Lovecraft』という名のロックバンドのLPだった。80年代前半、学生時代にラヴクラフト・ブームが起こった頃、60年代サイケに夢中だった筆者は、明大前モダーン・ミュージックのサイケコーナーで彼らのレコードを見つけて、創元推理文庫の「ラヴクラフト全集」を片手に愛聴していた。バンド名をラヴクラフト協会から正式の許可を得たという彼らのサウンドは、同時代のガレージ・パンクとは異なり、陰影のあるメロディとツインヴォーカルのハーモニーが文学的なイメージを醸し出すアシッド・ロック。所属レーベルが「Dunwich Records(ダンウィッチの怪)」、曲名が「The White Ship(白い帆船)」「At The Mountains of Madness(狂気の山脈にて)」といったラヴクラフトへのオマージュも嬉しい。
●H.P.Lovecraft/H.P.ラヴクラフト
George Edwards (g,b,vo)
Dave Michaels (key,vo)
Tony Cavallari (g,vo)
Jerry McGeorge (b, vo / 1st album)
Jeffrey Boyan (b, vo / 2nd album)
Michael Tegza (ds, vo)
1966年シカゴでフォークシンガーとして活動していたジョージ・エドワーズのソロ・シングルのレコーディング・メンバーが発展的にバンドとなりH.P.ラヴクラフトとして67年初頭にトロッグスのカヴァー「Anyway That You Want Me」をPhilipsレーベルからリリース。同年後半にリリースされた1stアルバム『H.P.Lovecraft』(67)は半分がカヴァー曲だが、秀逸なオーケストラアレンジにより濃厚なゴシック感を醸し出す。シカゴの先輩格シャドウズ・オブ・ナイトを思わせるワイルドなR&B風味もあるが、ハイライトはラヴクラフトの小説に基づいた「The White Ship」。霧に覆われた海を漂う帆船を思わせる幽玄なハーモニーは、彼らが欲求不満のティーンエイジャーでもラリッたヒッピーでもなく、才能あふれる音楽家でありストーリーテラーであることを証明している。
H. P. Lovecraft - The White Ship (1967)
1968年2月にバンドはサンフランシスコへ拠点を移す。フィルモア・ウェストでピンク・フロイド、プロコル・ハルム、ドノヴァン、トラフィック等のオープニングを務め、ヘイト・アシュベリーのフラワーチルドレンにも人気を博す。その頃のステージはライヴ・アルバム『Live May 11, 1968』として1991年にリリースされた。
HP Lovecraft: I've Been Wrong Before
68年6月からロサンゼルスのI.D. Sound Studiosでレコーディングを開始。ライヴツアーが多く新曲のアレンジに専念できなかったため、即興的なレコーディング・セッションになった。その結果9月にリリースされた2ndアルバム『H.P.Lovecraft II』は、より自由度を増しアシッドなフォーク感覚を強めたプログレッシヴ作品になった。特にオルガンやピアノやハープシコードを駆使したデイヴ・マイケルズのキーボードと、ジェファーソン・エアプレインを彷彿させる2声のハーモニーが素晴らしい。
HP Lovecraft - At The Mountains Of Madness
しかし、リリース後にマイケルズが大学に復学するため脱退し、69年初頭に解散。ドラムのマイケル・テグザはプログレッシヴ・ロックバンドBangor Flying Circusに加入。69年エドワーズとテグザが新メンバーを加え「Lovecraft」として再結成するが、レコーディング前にエドワーズが脱退。残りのメンバーでアルバム『Valley of the Moon』をリリース。CS&Nに通じるレイドバックしたサウンドは悪くはないが、初期のサイケ風味は姿を消した。さらに75年にテグザが「Love Craft」としてアルバムを出したが完全なファンクR&Bになっていた。
Lovecraft - Valley of the Moon - FULL ALBUM
ジョージ・エドワーズは本名のイーサン・ケニング名義でシカゴで音楽活動を続けている。
⇒The White Ship - an H.P.Lovecraft Fan Site
日米の
ラヴクラフティアン
交歓会
筆者にとって30余年前の愛聴盤を、ネクロ魔ロスの埋め合わせに聴きながら過ごすありきたりな土曜の午後、どこかからクトゥルフの呼び声が聞こえたような気がした。