♪親の血をひくゥゥゥ~~兄弟ィィィィ~より~もォォォ~
かつて生業に演歌番組の台本を書いていたことがあるが、どうにも性に合わず、100本を待たずしてお暇させていただいたことがある。イントロの司会者の文句から、視聴者の涙を誘う手紙から、全部書かされキツかった。だが「月の法善寺横丁」の藤島恒夫さんから「あ、これええ文句やなぁ、もろて帰ろ」と言われただけで、苦労も消えて喜んでたのだから、我ながら単純だった。100本やって憶えたのはサブちゃんの「歩」ぐらいのもんだ。
さて京大である。縁のあるのは医学部である。なに、こっちは見せに行く、あいや、診てもらいに行く方しか縁はない。
来月、親知らず抜歯のためにここへ入院することになり、検査やなんやで一日つぶれた。
あすこは呼び出しの機械をもらう。KORGのチューナーぐらいの大きさで、館内にいると順番が来たらピコピコと鳴るようになっている。
時間がかなり空いたので、そいつを持って仁義を切りに外へ出た。
聖護院界隈は八ツ橋で有名で、老舗があると思うと裏道には下受けだか内職だか知らぬが、肉桂のいい匂いが漂っていたりする。病院の匂いより百倍いい。
そいつがふっとカレー粉の匂いになった。こりゃたまらん。
数軒先のラーメン屋も気になったが、ガラムマサラの誘惑には抗い難く、「ビィヤント」へ。カレー好きではあるが、本場天竺のカレーはどっちゃでもいい。カレーにゃご飯の原理主義者なのだ。なぜかナンやチャパティと一緒に食べるのは一向に食指が動かない。明治の人間か。
10人も座れば満杯になる小さな店。
入店と同時に「チキンカツカレー!」
カウンター内には昔アングラ芝居で西部講堂出ました風のニオイのおかんと、若い衆の二人。
揚げ立てのカツは律儀にご飯の上に置かれ、おかん→若い衆にパスされる。そこからカツをまな板の上に取り、切り分けて、もう一回おかんへパス戻しする。スペース上それしかないのだろう。
カレーソースが何種類も温めてあり、チキンカレーのソースがかかる。
うめぇ…。ここのご飯はうっすらターメリック色しているのが特徴。
入院してる間にまた来よう。あ・・・歯か!
まだ間がある。ちょいと仕事でも片付けっかと、熊野神社の近くにあるジャズ喫茶「ヤマトヤ」へ。いい雰囲気。ここは堺のFUZZ大兄から教わってた。もう今では少ないジャズ喫茶の残党。奥には壁三面レコードがギッシリと6千枚だかそこら。全くのオーディオ音痴だが、さぞいい機械を導入してるんだろうな。
珈琲を頂いてると、カバンの中からピコピコピコ…
例の病院の呼び出しが鳴った。
そんなわけはない。まだ十分時間はある。
カバンを折りたたみ、上から上着で覆った。
ジャズ喫茶でなんという間の悪さだ。
カバンを取って店の外へ出てみると、
「呼び出しができる範囲を超えています。速やかに戻って下さい」
だと。誰も逃げやしねぇよ。
スイッチをどう切り替えようとしても、鳴り止まぬ。
電池を抜こうとしても歯が立たないようにできている。なんたる…。
カバンの奥深く入れて、店に戻る。
仕事など手につかない。くそ~。ピコピコピコ…
落ち着いて珈琲など楽しんでいられない。
悪いことに、ますます無音のインターバルが短くなってきた。
ピコピコピコ…
女将の顔さえ見られぬ。
こんなときに限って、レコードが終わる。
静寂にピコピコピコ…
もうダメだ。慌ててお勘定して出た。
恨むぜ、きょうでぇ…。
ビィヤント 京都大学付属病院東側 東大路通
YAMATOYA 聖護院山王町 丸太町通南入ル