自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★「ニュース砂漠」広がるアメリカ

2022年09月12日 | ⇒メディア時評

   アメリカのメディアの現状を理解する上で興味深いが調査報告がノースウエスタン大学の公式サイトに掲載されている。「As newspapers close, struggling communities are hit hardest by the decline in local journalism」の見出し=写真・上=で、新型コロナの感染拡大が始まった19年末以降で日刊や週刊などを合わせた地方紙が360紙超が廃刊となっていて、過去17年間では地方紙全体の4分の1以上にあたる2514紙を失ったとしている。「ニュース砂漠(news deserts)」がアメリカ全土に広がっていて、「草の根の民主主義」の危機と訴えている。

   地方紙が廃刊に追い込まれる理由として、社会のデジタル化と、リーマン・ショックやコロナ禍による広告収入の減少が原因としている。確かに、地元で何が起きているかを住民が知ることができない「ニュース砂漠」化は地域に深刻な問題をもたらすかもしれない。実例がある。

   カリフォルニア州ベル市(3万5000人)では1998年ごろに地元紙が休刊となり、市役所に記者が来なくなった。2010年にたまたま同市を訪れた「ロサンゼルス・タイムズ」の記者が市の行政官(事務方トップ)の年俸を聞いて驚いた。オバマ大統領の年俸の2倍に相当する78万7000㌦を受け取っていた。市議会の承認を得て、議員や警察署長、公務員給与も引き上げ、まさにお手盛りの高額給与。低所得の労働者が住民の大半で、住民の6分の1が生活保護レベルの貧困を強いられている市で起きていた出来事だった。メディアの記者が入ればチェックできた行政の汚職が10年余りはびこっていた。(※写真・下は、ベル市幹部の汚職摘発を報じるロサンゼルス・タイムズ紙=2010年7月23日付)

   新聞紙だけでなく、記者も激減した。1990年代に5万6千人とされたが2014年には3万8千人に減った(アメリカ連邦通信委員会=FCC)。新聞だけでなく、ネット動画配信が普及し、コードカッティング(Cord Cutting)と呼ばれる「テレビ離れ」も深刻で、テレビ業界の経営も危ぶまれている。

   アメリカのこうしたアナログメディアの減少による、「ニュース砂漠」「取材空白地」といった現象は日本でも起こりうるのか。そもそも新聞の収入構造がアメリカと日本では異なる。アメリカの新聞は販売収入が2割、広告収入が8割とされ、経営は広告に左右されやすい。日本は戸別配達が普通で販売収入が7割、広告収入が3割であり、経営は広告に左右されにくいとされる。が、購読者の減少などで苦戦が強いられているのが現状だ。

   テレビはどうか。「2021年 日本の広告費」(電通)によると、インターネット広告費が2021年に2兆7000億円となり、マスコミ4媒体(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)の広告費(2兆4000億円)を初めて上回った。テレビ広告費は巣ごもり・在宅需要などで前年比で二桁増となったものの、先行きは楽観できない。日本のアナログメディアも遠からず、アメリカの後追いをすることになりかねない。

⇒12日(月)午後・金沢の天気    はれ


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