自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★金蔵というところ

2009年01月07日 | ⇒トピック往来
 能登半島にある輪島市の金蔵(かなくら)という在所は不思議なところだ。緩やかな傾斜の棚田と5つの寺がある。人口は160人ほど。時がゆったり流れているようなそんな空間なのだ。ただ、日本人のDNAを呼び覚ますかのような強烈な原風景が目に飛び込んでくる。「そこにたたずむと涙で目が潤む」と金蔵を初めて訪れた知人が言った。その金蔵が「にほんの里100選」(朝日新聞社、森林文化協会主催)にこのほど選ばれた。推薦した身としては、「選ばれた」ということが素直にうれしかった。

 朝日新聞のホームページで自薦・他薦の募集があったのは07年12月のこと。大学でかかわっている「角間の里山自然学校」の名前で申請した。推薦文は以下のような短文だった。

「能登半島の山間地。棚田が広がり、160人余りが住む。集落に寺が5つあり、寺と棚田の風景は日本の里山の原風景のよう。8月に万灯会が催され、2万本のロウソクがともされる。人々は律儀に田を耕し、溜め池を守っている。その溜め池にはオシドリがやってくる。夜の星座が近くに見える。そして、人々は道で出会えば、見知らぬ人にも軽く会釈をする。「能登はやさしや土までも」と言われるが、金蔵の人々にはそんなやさしさが感じられる。古きよき日本の風景と人が残る里である。」(推薦文・07年12月29日)

 選定の記事が掲載された6日付の紙面を読むと、全体で4474件の応募があったようだ。候補地としてはおおよそ2000地点。書類審査、現地調査を経て100に絞り込まれた。その選定の基準となったのが「景観」「生物多様性」「人の営み」の3点。冒頭のようなノスタルジックな原風景だけではなく、生物多様性という環境的な視点や、人の営みという持続可能な社会性が必要とされた。金蔵の場合、地元のNPOが中心となって、はざ干しによるブランド米の取り組みやお寺でのカフェの営業、ワンカップ酒の小ビンを2万個も集めた万灯会の催しなど棚田と寺を活用した地域づくりに熱心だ。金蔵の人たちと話していると、人間関係が砂のように希薄となった1万人の町よりも、金蔵の160人の方が生き生きして勢いがあるのではないかと思ったりもする。万灯会ともなると百人近い学生たちがボランティアにやってくる。

 この土地には歴史の語り部、世話好きがいて、そしてよそ者や若者が集まる。金蔵はそんなところである。

⇒7日(水)午後・金沢の天気  くもり

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ☆時代の先端に立て | トップ | ☆過疎地がホープ・ランドに »

コメントを投稿

⇒トピック往来」カテゴリの最新記事