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情報収集と分析の分断

2013-12-31 | その他
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2013年12月31日(火)22時35分7秒 編集済

>筆綾丸さん
『知の武装 救国のインテリジェンス』は対談集のような体裁を取っていながら対談の日時や場所についての記載がなく、ちょっと奇妙な作りですね。
あるいは一応の打ち合わせをした後で二人が別々に原稿を書き、それを編集者がうまくつなぎ合わせたような感じもします。
ま、それはともかく、次の部分はロバート・レヴィンソン氏失踪事件の顛末が報道された後に読むと、なかなか興味深いですね。(p189以下)

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佐藤 CIAの係官と話していてびっくりしたんですが、中国分析をする人間は中国に渡航することが禁止されている。また、中国語を学ぶことも奨励されていないんです。そういうことがあるとバイアスがかかるからという理由でね。

手嶋 佐藤さんが例にあげたCIAの要員とは、情報分析官なのでしょう。アメリカの巨大な情報機関では、情報をとってくる人と分析する人が明確に分けられている。双方を交わらせないんです。そうすると、小説で最前線のインテリジェンス・オフィサーを描くとしても、全体のストーリー・ラインを承知していないのですから、単なる情報活動の下請け作業員になってしまう。

佐藤 CIAでは、現地語で情報を取ってきて全部英語に訳す。それを見て分析することが正しい判断につながると信じていますね。情報をとってくる人間がいる。取ってきた情報を信憑度に基づいて数値化する。数値化するときのクライテリア(基準)にもマニュアルがある。その数値化したものを分析官のところに持っていって判断がなされる、というやり方です。そんな具合に、厖大な情報を集めてクォーター化しているんです。全体像を掴んでいる人はいなくなっちゃうわけですね。

手嶋 インテリジェンスの方法論そのものが、アメリカの場合は「技法」すなわちテクノロジーによって支えられている。技術的にマネジメントが可能であると考えている。余人をもって代えがたいなどということはあってはならないという発想なんです。戦車は、普通の成人男子なら車と同じように運転できるよう設計されていてしかるべきだと。実にアメリカ的、フォード的発想です。

佐藤 だから、情報収集と分析を一緒にやってはならないと。一方で、たとえばモサド(イスラエル諜報特務庁)であるとか、あるいはSIS(イギリス秘密情報部)やSVR(ロシア対外諜報庁)に関しては、原則としてクォーター化されているけど、状況によっては、その問題に通暁し、かつ突き放した見方が出来る人物になら、情報収集と分析を共に任せても構わないと考える。ケース・バイ・ケースなんです。これって、つまり無原則ということなんですよ。だから、うんと柔軟な対応が可能になるのです。

手嶋 アメリカのインテリジェンスは、一見すると実にシステマティックにして科学的に映ります。でも、その果てに9・11同時多発テロのような奇襲を許してしまった。断片的な情報は山のようにあったけれど、全体像が掴めなかったからです。

佐藤 そうして、今度は振り子が逆に振れてしまう。インテリジェンス・コミュニティで皆が情報をシェアできるようにした。すると今度は、情報の拡散が起きてジュリアン・アサンジらによるウィキリークス事件が現れたんです。
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ロバート・レヴィンソン氏の件はアン・ヤブロンスキーという女性分析官が組織のルールに反して情報収集に関与したとの理由で処分された訳ですが、9・11を許してしまったことへの反省の中で、おそらく情報収集と分析の分断についても見直したいという動きがあって、アン・ヤブロンスキーは新しい考え方を実験してみた、と考えることもできそうです。
結果的にその実験が大失敗に終わったので、情報収集と分析の分断を定めるルールはより厳格化されてしまったようですが、再度の揺り戻しもありそうですね。

ロバート・レヴィンソン氏の件
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/7072
CIA内部の対立とメディア間の確執
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/7076
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