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一番優れた入門書、平山昇『初詣の社会史』(その2)

2019-11-12 | 村上重良と「国家神道」
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2019年11月12日(火)18時22分10秒

高木博司氏(京都大学人文科学研究所所長、1959生)が初詣という「一見するといかにも"伝統"の如く思われている行事が、実は近代以降の「創られた伝統」であるという説を初めて提示した」(p1)のは「初詣の成立─国民国家形成と神道儀礼の創出」(西川長夫・松宮秀治編『幕末・明治期の国民国家形成と文化変容』新曜社、1995)という論文においてであって、それほど古い話ではありません。

高木博志(1959-)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E6%9C%A8%E5%8D%9A%E5%BF%97
http://www.zinbun.kyoto-u.ac.jp/zinbun/members/takagi.htm

この論文が収められた高木氏の『近代天皇制の文化史的研究』(校倉書房、1997)を「一万円という痛い出費に泣きそうに」なりつつ購入した平山氏は「その後、東京における初詣の近代史をテーマにして卒論を書きあげ」、「そのコピーを携えて、三鷹の自宅から自転車をこいでパルテノン多摩まで高木先生の講演会を聞きにでかけ」、高木氏に手渡したのだそうです。
「講演終了後に何の面識もない学生からいきなり「読んでください」と卒論を手渡されたにもかかわらず、高木先生は嫌な顔ひとつせずに応対してくださり、しかも、後日詳細なコメントを送ってくださった」のだそうで、なかなか良い話ですね。(「あとがき」、p308)
ま、それはともかく、続きです。(p2以下)

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 第二に、「創られた伝統」は、いったん創られてしまえばそのまま自動的に存続していくものなのだろうか。
 たとえば、戦前日本においては、ナショナリズム高揚の節目ごとに建国神話や「忠君愛国」イデオロギーにちなんだ記念行事が数多く創出された。【中略】
 研究者は往々にして戦前日本における天皇制イデオロギー色が濃厚な「祝祭」の盛り上がりを強調して叙述しがちであるが、たとえその瞬間にいくら国民の多くが盛り上がったとしても、その後(とくに敗戦後)雲散霧消してしまったのであれば、近代から現代にまで至る「日本(人)」という一体感の維持に対する持続的な影響力という点では、決して過大評価すべきではないだろう。
 そうすると、「創られた伝統」について、「創られる」プロセスの解明ももちろん重要であるが、「なぜそれが持続しえたのか」という点についても検討する必要があるだろう。従来の「創られた伝統」をめぐる議論にはこの後者の視点が十分にいかされてこなかったと思われる。もっともこれは、「創られた伝統」モデルを提唱したE・ホブズボウムが「〔「創られた伝統」の〕存続の可能性よりは、むしろそうした伝統の発現や確立の方にわれわれの本来の関心がある」と明瞭に示し、このスタンスがその後の日本近代史研究にも影響を与えてきたという要因が大きかったのであろう。
 以上をふまえて、本書では、初詣をナショナリズムの文脈だけに閉じ込めずに、都市化の進展および娯楽とナショナリズムという点に着目しながら、成立期のみならず展開過程にまで視野を広げて、その歴史的過程を明らかにしていくことを課題として設定したい。全体としては、雑多な人々が集住する都市部において、娯楽とナショナリズムが絡み合いながら人々の「自発性」「欲求」が喚起されることによって、初詣が「上から」の強制や動員によらない自発的なプラクティスとして浸透していき、今日にまで至る強固な持続性をもつ「国民」的な正月行事として確立するに至ったという見通しをもっている。このような視角から検討することで、思想や言説のレベルに限定して議論されがちなナショナリズムを、近現代日本を生きた人々の生活と関わった領域からとらえなおすことができるのではないかと考えている。
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つい先日、9日に皇居前広場で行われた嵐のコンサート、じゃなくて「天皇陛下の御即位をお祝いする国民祭典」や、翌10日の即位祝賀パレード「祝賀御列の儀」の様子などを思い浮かべると、「娯楽とナショナリズムが絡み合いながら人々の「自発性」「欲求」が喚起される」、「「上から」の強制や動員によらない自発的なプラクティス」といった平山氏の視角は本当に鋭くて、初詣以外にも色々応用ができそうな感じがします。
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