学問空間

『承久記』『五代帝王物語』『とはずがたり』『増鏡』『太平記』『梅松論』等を素材として中世史と中世文学を研究しています。

「ひとまず「鎌倉幕府の滅亡は必然だった」という暗黙の前提を取り払ってみてはどうだろうか」(by 呉座勇一氏)

2020-09-06 | 『太平記』と『難太平記』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2020年 9月 6日(日)21時13分23秒

『戦争の日本中世史』の「参考文献」を見たら、第二章関係に松本新八郎『中世社会の研究』(東京大学出版会、1956)が出ているので、「御家人の家における惣領と庶子の対立に注目する意見」は松本説ですかね。
さすがに松本新八郎あたりは古臭い感じがしてあまり読んでいないのですが、後で確認してみたいと思います。
さて、続きです。(p100)

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 後世の歴史家は「専制支配によって表面的には人々の反発を抑え込むことができたが、社会の深奥では矛盾が拡大していった」などともっともらしく解説するが、それは結果を知っているから言えることであって、当時の人間は鎌倉幕府の滅亡など想像もしていなかった。後醍醐天皇の倒幕計画は、北条氏の専横を苦々しく思っていた側近の貴族、吉田定房からも「東国武士は一騎当千の強者ぞろい、幕府の権力は絶大で衰退の兆しも見えません。倒幕は時期尚早で、現時点では敗北の公算が大です。天皇家がここで滅んでしまっても良いのですか」(吉田定房奏状)と諫められるほど無謀なものだった。
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「専制支配によって表面的には人々の反発を抑え込むことができたが、社会の深奥では矛盾が拡大していった」は「深奥」云々が網野チックな感じがしますが、これは「参考文献」の『蒙古襲来』からの引用でしょうか。
また、吉田定房奏状の「幕府の権力は絶大で衰退の兆しも見えません」云々は、これがいつの時点での定房の認識かが重要です。
吉田定房奏状の作成時期については元徳二年(一三三〇)説が通説だったところ、佐藤進一氏が正中元年(一三二四)説、村井章介氏が元亨元年(一三二一)説を唱え、なかなか微妙な問題となっていました。
しかし、両説、特に村井説はあまりに早すぎて不自然であり、結局は元徳二年(一三三〇)説が一番妥当な感じですね。
呉座氏も元徳二年(一三三〇)説です。

呉座勇一氏『陰謀の日本中世史』
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/78c38d905a374d9dc5a351afb8161781

さて、この後は世相漫談的な記述も出てきますが、正確を期して、省略せずに引用しておきます。(p100以下)

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 そもそも前近代の権力はおしなべて専制的であるので、「専制支配への不満が高まり、体制打倒の気運が生じた」といった説明は無内容なのだ。日本の保守派の評論家は一〇年以上前から「民衆の生活を省みず先軍政治を続ける北朝鮮の命脈は長くない」「貧富の差が拡大し続ける中国はいずれ崩壊する」と説いてきたが、御覧の通りである。
 現代日本も同じだ。「今の政治に不満を持っていますか?」と質問したら、ほとんどの人が「はい」と答えるだろうが、だからといって現在の政治体制が革命によって崩壊することはあり得ない。結局、人々の専制支配への怒りが体制を崩壊させた式の議論は、革命の実現を熱望したマルクス主義歴史学の残滓でしかない。
 研究が今後さらに進めば、もしかしたら鎌倉幕府滅亡の根本的原因がわかるようになるかもしれない。だが現時点では「分からない」が良心的回答である。分からないのにムリヤリ答えをひねり出しても仕方ない。
 そこで、ひとまず「鎌倉幕府の滅亡は必然だった」という暗黙の前提を取り払ってみてはどうだろうか。「階級闘争史観」の影響が残っているからか、日本の歴史学界では体制崩壊の直接的契機より体制の構造的矛盾を指摘した方がエラいという風潮があるが、体制への不満分子を「発見」して「これが体制崩壊の根本的要因だ。〇〇は滅ぶべくして滅んだ!」と決めつけることが生産的とも思えない。鎌倉幕府が滅亡するに至ったきっかけを真剣に考えてみることも必要だろう。
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「前近代の権力はおしなべて専制的」だから「得宗専制」なんていう表現はそもそもおかしいのだ、といった主張を私は秋山哲雄氏から聞いた覚えがありますが、「参考文献」には特に秋山氏の著書・論文は出ていませんね。
ま、当たり前と言えば当たり前の話です。
呉座氏の見解の引用はもう少し続きます。
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