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林檎殺人事件

2010-12-08 | 井原今朝男『中世の借金事情』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2010年12月 8日(水)00時06分38秒

>azumaさん
筆綾丸さんが言われるように、私もazumaさんの議論は井原氏の誤解に引きずられているように感じます。
筆綾丸さんが不法行為について触れられているので、私は契約について論じてみます。

今、AさんがB株式会社の経営するスーパーでリンゴを1個買うとします。
Aさんがリンゴ1個を持ってレジの前に進みます。
レジ係のCさんはレジのキーを叩いて、代金はこれこれだと言います。
Aさんはその代金を支払い、Cさんからリンゴを受け取ってレジを通過します。
これを法的に見ると、いかなる事態になっているのか。
AさんがCさんにリンゴを示したことは売買契約の申込の意思表示であり、Cさんが代金を告げる行為は承諾の意思表示です。
ここでAさんとB社との間に売買契約が成立します。
そしてB社のAさんに対する代金を支払えという債権(Aさんにとっては債務)と、AさんのB社に対するリンゴを引渡せという債権(B社にとっては債務)が発生しますが、それぞれ速やかに債務の本旨に沿った履行がなされ、直ちに消滅します。(弁済による債権の消滅)
これにより、リンゴの所有権はB社からAさんに移り、Aさんはリンゴを自由に使用・収益・処分することができるようになります。

次にB社とCさんの関係について考えてみます。
Cさんはなぜレジにいなければならなかったのか。
それはB社とCさんの間に雇用契約が存在しているからです。
その雇用契約に基づき、B社はCさんに対して、レジでの労務を提供するよう要求する債権(Cさんにとっては債務)を有します。これに対し、Cさんは労務の対価として賃金を支払うように要求する債権(B社にとっては債務)を有します。
B社の債権はCさんが定められた労務を提供すれば消滅し、Cさんの債権は賃金が支払われれば消滅します。(弁済による消滅)
たった1個のリンゴの移動を見ても、これだけの契約関係があります。
たった一つのスーパーでも、毎日毎日大変な数の売買契約が成立し、債権債務が発生し、消滅しています。
また、より長期的・継続的な契約関係である雇用契約も、従業員の人数分だけ存在します。
売買契約・雇用契約だけでも社会全体ではものすごい数の契約が存在します。

とすると、「債務も債権もない社会」とはどのような社会なのか。
素直に考えれば、それは契約が存在しない社会であり、人と人が何らの合意をせず、協力もしない世界です。
また、不法行為も債権・債務の発生原因なので、「債務も債権もない社会」とは事件・事故が一切存在しない社会でもあります。
人と人が一切の接触をしない世界、死の静寂が支配する世界ですね。
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