大福 りす の 隠れ家

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--- 映ゆ ---  第123回

2017年10月26日 22時42分05秒 | 小説
『---映ゆ---』 目次



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- 映ゆ -  ~ Shou ~  第123回




それぞれが片付けなくてはならない場所に向かったが、手伝おうにも要領を得ない翼と渉は和室に入っていった。

「ねぇ、渉ちゃん。 渉ちゃんも白無垢にしようよ。 絶対いいと思うよ」

「・・・」 横目で翼を見る

「その目なに?」

「誰のための白無垢よ」

「俺との結婚に決まってんじゃん」

「翼君・・・」 大きく息を吐き翼を見た。

「昨日も言ったよね。 翼君とは有り得ないって。 翼君には可愛らしい彼女―――」 翼が口をはさんだ。

「イヤだよ。 渉ちゃん以外は考えられないよ」

「翼君・・・」

「渉ちゃん・・・あの時、泣いちゃったよね」

「え?」

「嘘ついたよね」

「え? なに?」

「新婦さんを見て、あんまりキレイすぎるから見とれちゃった。 ってウソ言ったよね」

「え? 嘘じゃないよ」 心が焦る。

「嘘だよ」 

「そんなことないもん。 キレイだから見とれ ―――」 またもや翼が渉の言葉を切った。

「俺に嘘ついても分かるよ」

「なによ、どうしてそんな嘘をつかなくちゃなんないのよ」

「渉ちゃん・・・自分に白無垢が着られないって思ってるでしょ」

翼の言う通りだ。 白無垢は渉の憧れだった。 幼少期から神社へ出向くと時折白無垢を着た花嫁を目にしていた。 とっても綺麗な姿。 自分も大きくなったら白無垢を着たいと思っていた。 ウエディングドレスより色打掛より白無垢が着たい。 そう思っていた。
 だが、誰に言うのも恥ずかしい。 だからそれを翼にだけ口にしていた。 訳の分からない翼は何ともなしに聞いていたが、今の翼はその言葉の意味が分かる。
が、オロンガへ行ってシノハと共に居るということは、白無垢を着られないということだ。 そんなことは考えてもいなかった。 だが、今日、白無垢を着た花嫁を見た時、敢えて思い出した。 自分の憧れを。 その憧れを思い出し、すぐさまそれと決別した。 だから涙が流れた。 幼い頃より憧れていた白無垢との訣別の涙が。

「翼君ったら何言ってるの?」

「渉ちゃんは誰にも渡さないよ」

「・・・バカじゃない?」

「だから、どうしてそれを言うのー!?」


新郎新婦を見送り、片付けを終えた奏和が和室に入ってきた。 すると隕石でも落ちてきてそれに頭をぶつけたかのように畳に伏せっている翼が目に入った。

「あれ? 翼、なに打ちひしがれてんの?」

「渉ちゃんが虐める」

「虐めてないしっ!」 翼の言葉にすかさず渉が答えた。

奏和にしてみれば、どんな状況であれ翼がずっと渉についていてくれていたかと思うと、二人の掛け合いに言葉を挟んだ。

「昼飯の用意をしなくちゃいけないな。 翼、母さんを呼んでくるから、渉を見ておいてくれよ」

奏和の言いように渉が引っ掛かった。

「奏ちゃん、その言い方なに?」

「あ・・・いや、」 ついうっかり出てしまった言葉。

「まるで私が幼児みたいじゃない!」

「そんなこと言ってないだろ」 

「いや、幼児だし」 渉の、奏和の言葉に翼が乗る。

「はぁ-!? 新郎新婦にまともに声もかけられなかった翼君に言われたくないしっ!」

「あれは・・・経験だよ」

「なにそれ? 私がオバさんって言いたいの?」

「そんなこと言ってないじゃん」

「たしかに、友達の結婚式にいっぱい出たわよ」

「いや、だから・・・」 

翼と渉の言い合いに奏和が割って入った。

「っとに、お前ら二人でやっとけ。 とにかく母さんを呼んでくる間、大人しくしとけよ」

「奏ちゃん、それは翼君に言ってよ!」

「お前ら二人だよ!」 言い残すと和室を出た。

「なんで翼君と一括りにされるの?」

「いや、渉ちゃん。 それって俺に失礼じゃない?」


「遅くなっちゃったわね。 今日はお疲れさま、渉ちゃんは夕べ食べなかったんだからいっぱい食べてよ」 ストーブで十分に温まった台所のテーブルを囲う椅子には、翼と渉が並んで座っている。

「小母さんは?」 テーブルには雅子の茶碗が置かれていない。

「翔ちゃんと代わってくるわ」 聞いた渉に雅子が答えた。

「え? ・・・姉ちゃんが来るの?」 嫌そうに翼が言う。

「ついでに奏和も呼んでくるから4人でお昼ご飯を食べておいてね」 雅子に代わって用をしている奏和のことを言うと、雅子が台所をあとにした。

「プッ、奏ちゃんはついでだって」 翼を見ながら渉が言う。

「・・・ついでの奏兄ちゃんもだけど、姉ちゃんが来るのが嫌だなぁ・・・」

「なんで?」

「小言を言われそうだもん」

「言われるようなことをしたの?」

「俺に思い当たることがなくても言ってくるんだよ」

「それって、翼君がお片付けできてないからじゃないの?」

「え?」

「カケルは潔癖症とまではいかないけど、乱れてるのが嫌だからね」

「知ってるよ。 でも俺、ちゃんと片付けてるよ」

「翼君のそれとカケルのそれに違いがあるんじゃない?」

「姉ちゃんに合わせるって無理だよ」


翼が部屋を汚しているというわけではない。 キチンと片付けている。 それは渉も知っている。 が、カケルの思う綺麗とは違う。 どちらかと言えば、翼の部屋は渉の思う綺麗に片付いているというのに近い。

「翼君はちゃんとしてるよ。 でも、カケルの整理整頓までは遠いもんね」

「姉ちゃんが厳しすぎるんだよ」

「私には甘いんだけどね」

渉の部屋と翼の部屋はさして変わらない。 無駄もないし、散らかってもいない。 が、机の上にある物が机に平行に並べて置かれていない。 渉と翼にとってそれはどうでもいいこと。 でも、カケルはそれが許せない。

「はっ! なんで適当に置いてるの?」 翼の部屋を訪問したカケルが言う。

「リモコンぐらいそこいらに置いててもなんでもないでしょ」 翼の部屋のテレビとエアコンのリモコン。

「だらしがない。 ちゃんと平行に置きなさいよ! それにバッグを地べたに置くんじゃないわよ!」

「いいじゃん。 明日学校に持って行くんだから。 俺の部屋なんだからね! 姉ちゃんが言うことじゃないじゃんかっ!」

姉弟喧嘩の元はいつもこれだった。


まだ巫女姿のカケルと、着替え終わった奏和が並んでテーブルに着いた。

「で? 朝は二人で何をしてたの?」 茶碗を持ったカケルが言う。

「奏兄ちゃんに頼まれ――― 」 まで言うとゴホン! とわざとらしく奏和が咳払いをした。

「なに?」 カケルが隣に座る奏和を見る。

「いや、別に」 カケルを見て言うと、何も話すなと言う目で翼を見た。

隣に座る渉がそれを察したのか、何も気づかないまま話し出したのか、渉がカケルに聞いた。

「カケルは? 久しぶりの巫女さんちゃんと出来たの?」

「うん。 挙式は好きだから今日出来て嬉しかったわ。 小母さんに感謝」

「あ・・・もしかしたら母さんはそのことを知ってて、翔に頼みたかったのか?」

「だと思う」

「そうか・・・。 母さんもナカナカだな」

「うん。 ・・・奏和」

「なんだ?」

「小母さんからの連絡を伝えてくれて有難う」

「なに言ってんだよ。 母さんから言われたんだから当たり前だろう」

「それでも。 有難う」 自分のために奏和が走り回り、あちらこちらに目を光らせていたのを知っている。

翼と渉が二人が話す度に、右に左に顔を振っている。

「ね、渉ちゃんどういうこと?」 翼が小声で渉に耳打ちをした。

「分かんない」 さっきまで口に箸を入れたままの渉が、翼にバレないように箸を動かしながら答えている。

「姉ちゃんが“有難う” なんて言うはずないんだけど」

「翼・・・聞こえてるわよ」 奏和に顔を向けていたカケルが翼を睨んだ。 と同時に、渉が箸を引いた。

「別に、本当のことを言ってるだけだし」 翼の返事にカケルが怒鳴ろうとした時、奏和が割って入った。

「翼、茶碗見ろよ」 顎をしゃくって茶碗を指す。

「へ?」 茶碗を見るとご飯が思ったほど減っていない。

「抜けたことしてんじゃないよ」 奏和が言うがその意味が分からない。 その翼の隣で渉が舌をペロッと出した。

「それに、渉」

「なに?!」 ビクッと肩が上がった。

「少なくとも今ある取り皿の物はちゃんと食べろよ」 大皿に入れられているおかずを、入れた記憶のない取り皿に少しずつ入れてある。 

「え? なんでこんなに乗ってるの?」 翼が渉の目を盗んで入れていた。

「渉ちゃん、ちゃんとぜーんぶ食べなさい。 なんならまだ足すから」

翼が大皿から渉の小皿に色々と入れていたのだ。

翼の顔を横目で見ると「翼君のバカ」 と言ってソッポを向いた。

(さて・・・午後からどうしようか) 目の前で渋々おかずを突きながらチマチマと食べている渉を見る。

(ずっと翼を見張りにつけておくには、渉に変に思われるだろうし、翼にも何か聞かれるかもしれない・・・) 箸を持ったまま、その右手で頬杖をついて渉を目に映す。

(だからと言って目を離すわけにはいかない。 目を離せばすぐに磐座に行くはずだ。 朝も行くつもりだったに違いないからな。 あのイリュージョンをさせるわけにはいかない。 かと言って俺が渉を見ていてその間に翼に『わ』 ナンバーの男のことを言って頼むわけにもいかない・・・) そうなればカケルのことを言わねばならなくなる。

「奏ちゃん」

(・・・どうするか) 

「奏ちゃんてば」

翼とカケルが奏和を見る。
渉が奏和の目の前で手を振るが、自分を見ているはずの奏和が全然気づかない。

「奏ちゃん!」

「え?」 渉の声に気付いて、ずっと見ていたはずの渉を見た。

「なんだ?」 頬杖を外して顔を上げる。

「なんだ、じゃない」

「だって、呼んだのは渉だろう?」

「呼んだよ。 何回もっ!」

「え?」

「じっと見られて気持ち悪いじゃない!」

「え? 俺がか?」

「奏和どうかしたの?」 横からカケルの声がした。

「あ、何でもないよ」 味噌汁の椀を持つとズズズと啜った。

「なんだかヤだなー」 箸を持ったまま翼が頭の後ろで手を組んだ。

「何がだよ」

「大人になっちゃうと、正直に何も話してもらえないんだよなー」

「お前も二十歳を越した大人だろが」

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