カーミラを描き始めた。アイルランドの作家、シェリダン・レ・ファニュの代表作、吸血鬼カーミラ。
私はこれを20年ほど前に1人芝居に書き直し、山口椿のチェロ伴奏で演じ、2015年に、今度はチェロ演奏も自演でパフォーマンスした、思い出の深い作品。
当時は絵画にそれほど熱心ではなかったが、今は思いがけない変転で油彩画家と呼ばれる。
まだ独自のスタイルのない私は、素人に毛が生えた程度の力量。にもかかわらず館山市民は寛容で、ボヘミアンながら作家扱いしてくれる。
カーミラという名前は色彩のカーマイン、緋色、深紅、を連想させる。たぶんレ・ファニュもそれを意図したんだろう。
そのためカーミラのドレスはやはり緋色、濃い深紅を選んだ。原作は大変に優雅な文体で、情景、心理描写に優れた傑作。吸血鬼カーミラも、おぞましさや恐ろしさよりも、どこかものがなしい、孤独なうら若い貴婦人の風情でクライマックスまでゆく。
カーミラの餌食になる寸前だった少女ローラは、命拾いした後、にもかかわらず最晩年に至るまでカーミラへの思慕を残す。美貌、魅惑とはそれほど強いものに違いない。
トーマス・マンはそうした心理の綾を「ベニスに死す」で描き、ビスコンティがそれを不朽の名画にしたてた。
やがて還暦近い私は、リビドーと美の織りなす自他さまざまな人生の局面を振り返っている。
全てに愛と感謝。